第28話 私の弱さと赦し
いつだったでしょうね。人の首を切り落としたのは。もうこんなことはしないと決めたのにまた私は。
「大丈夫なの?」
心配した紅羽さんが私の元へと駆けてきました。しかし、私は脚が震えて動くことができませんでした。
「はい、大丈夫です」
剣で祈り、自身がした行いに慈悲を乞うように私はそこで動けずにいるのを隠すように紅羽さんに笑ってみせます。
「それは貴女が普段からそんなに何かを恐れているってことでいいのかしら?」
まあ、バレますよね。こんな姿を見れば誰だって気付きますよねぇ。
「少し話をしてもいいですか?」
「どうぞ、貴女がアタシに負けた理由もそこにあるんでしょ?」
「多分そうだと思います」
今一度向き合わなければいけませんね。私の弱さを象徴する過去に。
私の家系は特殊でして、代々使用人の家系です。しかし、それは表の顔であり、もう一つの顔は処刑人の家系です。
ある意味でそういった人生であり、そういうものだと思ってやってきたのです。自身の感情ですら全て捨てたと思えるように。
その時はまだ人を殺し、ある意味誰かの正義のための執行者として存在していました。
ある時依頼があり、その依頼のターゲットと戦闘することになりました。私はいつものように剣を振り、機械的に人を殺すことを実行していました。
が、そこで目にしたのは恨みや憎悪、憎しみに支配された殺意と私を悪と断定する眼差しでした。私はその時気づいたんです。これは私がしてきた歩みであり、当然のものであると、そう割り切ろうと思っていました。しかしながら多感な時期であった私はそのたくさんの感情に呑まれて沈み込み、夢でさえあの憎悪が襲いかかってきました。幼い頃の私が置いてきたもの全ては結局捨てきれていませんでした。
私はあの時からそれらに恐怖していたんです。怖くてどうしようもなくて、でも私はこの剣を握らなくてはいけなくて、結局殺すことを容認して、そして、私の在り方は変わらなくて。
いつからか私はそれらの仕事や依頼を断ってきました。その時くらいからその時以前よりも薫さんには気にかけてもらい、今では薫さんのもとでしか仕事をすることがなくなりました。当然ながら私の親族などからはかなり後ろ指を刺されたり、苦言を言われてきましたが、薫さんと薫さんのお父さんに助けてもらい、やっとこさ世間でいう普通を手に入れたのです。
だからこそ、自身が精神の奥深くで殺さないと判断した相手では振る剣に躊躇いが生まれます。紅羽さんと初めて戦った時、この恐怖に支配された弱い私が身体を鈍らせました。
私は薫さんに対して、たくさんの借りと恩があります。しかし、ここで薫さんを守りきれなかったなんてことがあるのならば、借りを全て返すことがこれからできなくなってしまう。
あの日以来、私は剣を相手の首に掲げる時は必ず誓いをしていました。【
まあ結局手段を間違えてしまったと思います。覚悟はしていました。覚悟はしていたんです。覚悟という言葉だけだったみたいですけど。
助けるために起こした行動が本来あの人の願った私を遂行できなかったとき、あの人はどういった表情で会話するんでしょう?憐憫?憤怒?もしくは虚無?
「どうすれば良かったのでしょうね?」
私は以前として剣に祈りながら紅羽さんに問いかけます。
「知らないわよ。さっさと行くわよ。あと、貴女は強いわ。あの白く染まった貴女をみたら私は思い上がっていたと思った。そしてそれと同じくらい感情が膨れたわ。あの向日葵と戦ってみたいって」
あれはたくさん捨ててきた私の末路なのにも関わらず、命知らずの紅羽さんは今にも剣を構えたくてワクワクしていました。
「それはできませんよ。うっかり貴女の首を刎ねてしまいますから」
「冗談になってないわ」
あの力は本来の私です。正義を執行するために剣を振るい、圧倒的なまでの力で相手を処刑する。あの剣技は私の唯一使える剣技であり、奥義です。
「きっといつか貴女にも使ってあげますよ」
「その時はSRSでやるわよ」
当然ですよ。友達の首を刎ねたら私は今度こそ眠ることさえできなくなりますから。
私はあの時自分を怖がっています。でも、それでは私はいけないんです。私くらいしかあの姿を信じてあげることができませんから。
「私は貴女を赦します。だからどうか、世界を恨まず、私を恨んでください」
私はもう決めました。弱さで殺さないといって誰かを守れないのならば、それを壊してでも前に進みます。これは誓いです。
薫さんは赦してはくれないなんて思っていたのですけど、きっと薫さんは私が思っている以上に私に対して優しいです。なので、自分が招いた事象だからそんなに落ち込むなとあの人は私にそう告げるのでしょう。
「もういいの?」
「はい、私は……、私たちは先に行かなければいけません」
「そうね」
脚が自由になった私と紅羽さんは別れた仲間の元へと追いつくように駆け出しました。
「クソッ!」
厄介な相手だぜまったく。
「お前の攻撃、大味で助かるなぁ」
オレが出す攻撃全てをなんらかの方法で返してきやがる。いや、返すというよりかは鏡に反射するような感じか?
「フン、テメエのことは知らねえし、オレはここで先に用があるんでな」
「言ってくれる」
剣に誓いを、花に祝福を 田中運命 @DestinyTanaka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。剣に誓いを、花に祝福をの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます