第7話 賽は投げられた
「始まりましたね」
「そうだね」
で、私は今頃式野さんと一緒に開会式を見ている頃合いなんですけど、なぜ薫さんと共にいるんだという疑問は私だって同じ考えですよ。まあ一応補足しますと、薫さんは今回の剣聖戦にて関係者として出席しています。ので関係者席にいるってことですね。
そして私が横にいる理由はパフォーマンスです。薫さんの使用人である私が剣聖戦に出ることによる宣伝…というか、他の関係者に見せつけてここに参加しているぞと示すっていう社交界の面倒ごとです。
「相変わらずこの開会式は豪華ですねぇ」
ある意味プレンティアという国の威厳のように、競技場を照らすライトと開会式を盛り上げようとする人々が織りなすステージはこの大会にふさわしいと思わせられるような勢いで圧倒されます。
「これでもまだまだな方じゃないかな。一番熱狂する大会【
大きな音楽がピークになっていくと共に少しずつ終わりがみえてくるのをどこか寂しそうに薫さんは見ていました。
「私はこの光景だけでも全てだと思い込んでしまうくらいには豪華だと思いますけどね」
今にも光がつかめそうなくらいに間近で、それでも遠くって、そんな開会式が幕を下ろそうとしていました。
「さあいよいよだよ向日葵」
「ですね」
程よい緊張が走ります。
ここからは予選ブロックから本戦までの重要な発表です。
この剣聖戦は予選を4回連続で勝ち抜ければ本戦へ、本戦も2回戦を勝ち切れば準決勝、決勝と上り詰めていきます。なので、この予選ブロックの発表はこの先どう転じるのかを決める運勝負です。
「私は負ける訳にはいかないんです、絶対に。誤解されたままではいられないんです」
瞬く間に司会者が予選ブロックの発表をし、会場全体に浮かび上がったホログラムに目を通します。
「私はCブロック、…!
「これは大変だなあ。すでに強敵がこのブロックにいるなんてね」
そんな簡単にポンポンと勝ち上がれるわけはないことくらいわかっていますよ。また影内吹雪さんと戦って勝てるビジョンは限りなく黒よりのグレーです。
「私は負けませんよ。悔しいのは嫌いですから」
そっとソードケースに手を添える。
「あと、情けない姿を晒していたら格好がつきませんし」
「それもそうだね」
私の中で何かが生まれたのを見通したかのように薫さんは微笑む。
「さ、友達のところに行ってきなよ。僕は僕でやることがあるからね」
「それなら私も…」
後に続こうとした私をハンドサインで静止する。
「これは僕が個人的にやりたいことだから、向日葵はここまで」
「そうですか…」
(
キョロキョロと周りを見渡しながら式野さんを探していたところ手を振る人影が視界に映ります。
「
式野さんの姿を確認できたので少しショートカットしながら式野さんの元へいきましょうか。
「
大気の空気を足元に一定値滞留、圧縮させて空中歩行する魔法です。空を飛ぶ靴というよりかは空中に地面をつくるって感じですかね。
「よ、ほッ!」
人混みを颯爽と避けながら式野さんの元へと辿り着きました。
「そんな魔法を覚えたのね。活用できそう?」
「そうですねえ、まだなんとも。でもきっとこれは私のワイルドカードになると思います」
手のひらに風を纏わせながらきっとなんとかなるだろうと思って微笑む。
「切り札を堂々と大衆の前で使ってたら切り札ではないんじゃない?」
「覚えたてだったのでつい…」
「「「ーーーーーーー!!!!」」」
すると待ち侘びた観客の大きな歓声が会場全体を包みました。
「始まったようですね。予選Aグループ」
競技場に何組かが一緒になって剣を振りあっています。ここから勝ち上がる人は正真正銘の強者です。フィジカルもさることながらメンタルもずば抜けて高いステータスを併せ持っていると考えてもいいでしょう。
「緊張が肌にビリビリくるわね。これが本気の…」
式野さんの言っている通り、今にもこちらに刃が向けられるかわからないくらいの圧を感じます。
「これが私を襲う空気なんですね…」
【圧倒】という言葉が似合うほどの空気の重さと、今にも首を討ち取らんとする気迫に少し体が強張ります。
「あ、1組の決着が…」
実力差があってすぐに終わってしまったペアから少しずつ派生するかのように他も後続して試合が片付いてしまっていきます。
「負ければ終わり…」
周りは歓声や何かを叩いて激励するものの大きな音で包まれており、私と式野さんはその空気とは完全に場違いな雰囲気で過ごしていました。
「それでも…、全部倒してみせます」
私の中で圧倒されていたものを切り捨てるかのようにそう告げ、にこりと式野さんに笑いかけます。
「月下さんならできるわ。私には詳しいところまでは知らないけれど、それでも貴女は勝てると思うの」
「えへへ、ありがとうございます」
こんなこと言われちゃうと照れちゃいますよ。
「では、私はそろそろ準備があるので。いってきますね」
絶賛Aグループが予選の最中ではあるものの、アップやらなんやらで時間が過ぎてしまうのでここで私は選手控え室にいかなければいけない時間になってしまいました。
「ええ、頑張って」
「頑張ってきますとも」
湧き上がる歓声をよそに私はこの場を後にしました。
「いよいよ始まりますね、予選Cブロック。私はこの剣を持ってして、相手を蹴散らします」
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