剣に誓いを、花に祝福を
田中運命
第一幕 My little shines
第1話 幕が上がる
光の幕が上がって手元に自身が持つ得物が実体化する。この空気感は嫌いじゃないですが、肯定できるほどいいものでもないと思っています。
舞台が整い、私が見つめる先に私と相対する女性が現れて緊張が張り詰める。
「さあ
「ええ、私は手加減しませんよ」
自身が手に持つ身の丈サイズの大剣【サンフレア】を担いで相手を一点に見つめ攻撃を仕掛けにいきます。
「速い!」
大剣を盾にした突進攻撃でまずは牽制といきましたが咄嗟に防御しましたね。
「まだいきますよ」
間合いを詰めるための牽制技ですから、これくらいはまだ挨拶程度です。続いて防御を剥ぐように斬り上げをしてみましょうか。
「甘くみないでほしいな!」
激しい金属音があたりに鳴り響く。
大剣での圧倒的質量を乗せた一撃でしたが、それを難なく弾いてみせるその技量は確かに氷壁なんて異名がつく理由がわかります。
「いえ、どのくらい硬いのかと試してみたくなりましてね」
確かに防御を砕く場所に一撃を入れたはずなんですが、吹雪さんとその刀、銘は確か【
「君の攻撃力もなかなか高いけどね!」
弾いた勢いで相手は攻撃の構えになってしましました。まずいですね。これでは確実に大きなダメージになりかねません。なんとかするにはこれに頼るしかないですね。
「もらった!」
「
鋭くもしなやかな突きが放たれますが、こちらもなりふり構っていられなくなり大剣を媒介とした風魔法を放ち、大剣を無理やり自身の前に移動させ防御させます。
「へぇ?」
ギリギリ防御は間に合いましたがあまりこれを最初に見せたくはなかったですね。あちらもまだ隠されたものがあるはずです。
「まだ始まったばかりですよ?」
見せてしまったものは仕方ないので存分に使ってあげましょう。
防御した弾みで後ろに下がってしまうがそれも込みで動いてみせればいい。そう考えた上でまた間合いを詰め攻撃を仕掛けにいきます。今度は突進での攻撃ではなく、蓮撃をする構えで攻撃を放ちます。
「いい動きだね!その大剣をそんな華奢な身体で扱うなんて大したもんだよ!」
上段から下段、中段、相手の獲物を振り払うような攻撃でさえ防ぎながら余裕を持って話しかけてきます。
なんですかこの人、まるで動じない。氷壁なんて例えた人は正解ですね。こんな防御が堅い人はそうそういませんよ。防御を崩すにしても体幹とスタミナが段違いに高いですし、剣での威力を逃す術がうまくて削りきれません。
「
刀身に風を纏わせて大剣をもっと自由に動かせるようにさせます。ですがこれでも足りないと感じて次をどうするか攻撃を繰り出しながら考えます。
「そろそろ疲れてきたのかな?こちらも仕掛けに行くよ!」
お互いに攻撃を放ち合い、鋭い金属音をあたりに響かせ、こちらの斬撃に合わせて剣を振ってきたり、こちらが合わせて剣と剣がぶつかり合わせる。
どうにも決着がつきそうにはないですね。いえ、この調子でスタミナを使わされたらこちらが不利になります。仕掛けるならもう少し先。
「
ここから力押しから鋭い一撃に切り替えていきます。執拗に首の付け根を狙いすまして攻撃を繰り出し続けていくのです。
「ちょっと怖いなぁ!」
押し切れはしないがそれでもかなり圧を与えられていると思います。私の剣の型は人を処刑するために編み出された剣技。対人戦ではどの型よりも攻撃性能と破壊力は段違いのはずなのです。
「そんなこと言って!防御の手は緩んでいませんよ!」
攻撃の手は緩んでいませんが、相手の防御の堅さも緩んでいない。でも、見えましたよ。
「ハア!」
自ら防がれたら隙を晒すような攻撃を低姿勢で下から上へと刃の軌道が上がるように仕掛けます。
「甘いよ!」
案の定弾かれて大きく隙を晒してしまいますが、普通はここでやられちゃいますけど、これを待ってたんですよ。隙をついた勝利の一撃、確信した一撃はなによりも脆いんです。
「な!」
弾かれた剣を鍔にあたるリアクターから柄を峰の部分へ半回転させ、さらに風魔法での強制軌道修正によって隙をついた一撃に当て弾き飛ばします。
「速!」
すかさずその勢いを利用して回し蹴りを決め相手のバランスを崩していきます。
「これでチェックメイトです」
鋒を首の近くまで持っていき勝ちを宣言する。
「あはは、負けちゃった」
吹雪さんはにこやかに微笑みながら両手をあげ降参のジェスチャーをとりました。
「いえ、こちらもギリギリでしたので次はない気がしますよ」
自分でもわかります。今回は初見だったから勝てた、向こうの情報があったから勝てたって。次に戦えばけちょんけちょんにされて終わりです。
「そうかな?君はすごいと思うよ。身のこなしが素早いのなんの!あんなデカい剣を持ってるのにね!」
目をキラキラとさせながらこちらに語りかけてくる姿でこの人は本当に剣でのぶつかり合いが好きなのだと感じます。
手を差し出し座っている吹雪さんを起こそうとする。
「そうでもないですよ。全部私の攻撃防いでいたじゃないですか!」
もうこの人にあの剣技は通じません。戦ったからこそわかります。
「でも、負けは負け!次は負けないよ!」
吹雪さんもこちらの手を取り次の戦いに向けて心を弾ませています。
光の幕が下がって持っていた剣の姿が消えていく。
場外から見知った人影も出てきました。
「やあお疲れ様!お二人ともいい戦いだったよ!ここのSRSも問題ないかな」
私の雇い主である
今回ここにきた理由はSRSと呼ばれる先ほどまで戦っていた状態をつくりだす設備の点検のためにここにきました。そこで同じ日和出身の吹雪さんと会い、薫さんの提案で戦ったとそういう感じですね。無理やり。
「そうでしたか、ではさっさと帰りましょう。まだ業務は残ってますよ」
SRSの装置に刺してあるサンフレアを抜き取り薫さんから渡されたケースに納刀する。
「また再戦をしようね!向日葵!」
大きな声でそう呼ばれたので会釈をしてそれを返す。
「今回のあれは帰りに前言ってた喫茶店の奢りで勘弁しておきます」
決闘自体には不満はないのですが、本来抜かなくてもいい剣を抜かされてその上戦うことまで無理やりさせられたので私の中ではあまりいい気分がしないのです。
「わかったよ。じゃあ早速戻ろうか」
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