第23話 予想以上の弊害

 薄暗く湿ったような匂いのする地下道を進んでいきます。暗いには暗いのですが、紅羽さんの光魔法のおかげである程度視認できるくらいには光が灯っています。

「便利ですねこれ」

 光がふよふよと浮きながら灯っている光に手を伸ばします。

「電気代が少し節約されるのはいいことね。ま、アタシは貴女のように攻撃的な魔法は使えないけど、こうやって操ることができるのはいいことかもね」

 浮かぶ光をそれはなんともまあ器用に操り、ついには二つへと分裂、分裂した一つが花火のようにキラキラとしながら消えていきました。

「いいですね。私はこうやって風を纏わせるくらいしかできませんから」

 そう言いながら私は手に風を纏わせてそれを天井へと放ちます。

 風は風です。ベルナールさんのように暴風を纏って、まるで嵐と戦っていると思わせられるあの姿と比べてしまえばこんな旋風つむじかぜなんてしょぼいものですよ。

「それでも充分でしょ。自分の身体を浮かせるくらいの安定感なんてアタシには無理ね」

 結局のところないモノねだりなんですよね。あの能力があればーとかここの能力はあれだーとか全部言い訳です。

「そうですね。結局私たちは純粋な強さに惹かれてるだけですから」

 昔の私だったら喉から手が出るほど欲したモノですが、今はどちらかというと薫さんの元でゆったりとした使用人ライフを送ることが私の欲するモノです。もうそんな純粋な力なんてもう忘れていたと思っていました。けれど、こうしてここにいる以上は力を求めるのは必然なのかと思ってしまいます。

「そうね。アタシらは結局この剣を通してそれを見つけることを意義とするのよ」

 そろそろ建物の真下というところに差し掛かって、次はどうするかと頭を二人で傾げていました。

「ぶち抜く?」

「まだダメですよ」

 コンコンと剣の柄で壁を殴り、壁と壁の一番薄い場所を音を出してどこに攻撃をぶつけるかを探る紅羽さんを後ろで眺めます。

 この人剣を持って何かにあたるとIQ下がりすぎじゃないですか。

「それ以上でも以下でもないでしょ?こんなところで止まってられないでしょうに」

「それもそうですけど」

 脳筋というにはあまりにも力というものに頼りすぎではないかと思ってしまいますけど、実際これ以上の考えがないっていう状況下では最適なんでしょうね。

「じゃあ、できるだけ静かに行きますよ」

「当たり前よ」

 お互いに剣を構えて繋がっていそうな壁に剣撃を叩き込みます。まあ、派手にはできないので一撃で吹き飛ばせないのですけれど。

「こんなもんですね」

「刃こぼれは………、してないわ」

 普通はこんなことあんまりしないのですけど、いざという時のための強行策というものは事前に用意しておくものです。よく言うプランBというやつですね。

「とは言ったものの……、誰もいないですね」

 壊した壁の先はいかにもな雰囲気のサーバールーム……というわけもなく、ただただ職員がたまに使う程度の廊下が広がっていました。

「ここまでは……と思ったけど、いるわ」

 紅羽さんの指すT字の廊下の一方をチラリと覗き込むと二人組の異能者が多分ですけど、さっきの壁を壊した時の音で確認に来たのだと思われます。

「タイミング悪いですねぇ」

「そうね。さっさとやっちゃいましょう?」

 ここで非戦闘を選んでも後々自身の首を絞めるだけということは明らかなので、紅羽さんの意見を素直に受け入れましょう。

「了承しました」

 異能力を使われないようにするために即撃破が肝になってきます。的に与える攻撃は2回程度でなんとかなりそうですかねぇ。

「いくわよ」

「状況開始です」

 二人組が間合いに入ってきた頃合いに高速で一対一の状況を紅羽さんと共につくって制圧します。唐突に曲がり角から人が出てくるとは思っていなかったであろう二人組をワンツーグリップでお互いにノックアウトさせます。

「はいダウン!」

「あまり大きな声は出さないでくださいよ」

「わかってるわよ」

 なんというか全体的に粗雑なんですよね。出てくる敵性相手が全員訓練されていないのがちょっと頭に残るんですよ。テロ組織ってたまにめちゃくちゃ訓練してるところもあったりするのでここまで簡単にいってしまうと油断してしまいます。ちょっと懐でもまさぐってみましょうか。

「何してるのよ」

「異能力頼みで他にものを持っていないことの再確認です」

 急にしゃがんで戦闘不能になった人間の懐をまさぐっている私を見て、変になったんじゃないかと割と真面目な声音で紅羽さんが問うてきたのですけど、そんなわけないですよ。

「ありましたね一応」

 あったのは予備のマガジンのない拳銃一丁のみ。と、なんですかこれ?注射器なんですけどまだ使用されていませんし、中にはなんの液体が?ますます謎が深まります。

「こっちも同じね。気味が悪いわ」

「ええ、少し警戒を強めましょう」

 きっと何かあるのだとしても結論からすれば当然のことながら未知の脅威です。いくら訓練されていない兵士とて油断して数の暴力にあえば一瞬で私たちは制圧されるでしょう。それにしっかりと軽装ですが武装も確認できましたし、ここからはまた少々慎重にならざるを得なくなりましたね。

「上に上がってみましょう」

「そうね」

 倒した敵を後にするように立ち上がり、階段のある方向へと廊下を進んでいきます。進んでいくうちにここの異様さというか、どこか心が落ち着かないような焦りのようなものを感じます。プレッシャー?いえ、そんなちゃちなものじゃないです。これは単純な悪意。快楽で動く完全な悪です。

「まずったわね」

「そのようです」

 階段を上り切ろうと最後の一歩を踏み出そうとしたところで紅羽さんと顔を見合わせる形で剣を構えます。

「数は不明ですけど多分十以上です」

「気づかれてないと思ってたのだけど、飛んだ失態ね」

 紅羽さんはやれやれと言った形で剣を握りしめます。この階段と外の廊下を隔てる壁と扉にてお互いより一層緊張感を加速させています。

「向こうから仕掛けてこないようですね」

「焦ったいわね。でも、ここでアタシたちが先に動いたら負けるわね」

「アチラもそう思っているんでしょうね」

「二人相手にいい気味ね」

 今は冗談を言っていられる状況ですけど、万が一のことを考えるとここで殺されるなんて最悪な場合も視野に入ります。

「うああああ!!!」

 この緊張状態を破ってきたのは敵の若そうな男性でした。片手に拳銃を持ち、片方の腕が丸ごと異形のそれになり変わっているようなもので突っ込んできたのです。

「「状況開始!」」

 まだ一人だけですが、ここから人が増えれば捌ききれません。できるだけ前に進めなくとも安全に撤退できるような状況はつくっておかければいけません。

 最初に入ってきた敵性相手はその大きな変異した腕で私たちの剣を防いで拳銃で攻撃、および仲間の連携を狙うような戦いと推測します。なら私がすることはその変異した腕をこじ開けることです。

 サンフレアを大きな腕に目一杯の体重を乗せて突き刺していきます。

「ぐッあああ!」

 こんな大きくて変な腕でも痛みを感じるんですね。

「今です!」

「任せなさい!」

 突き刺し込んだ剣をもっと深くに刺しこみながら防ごうとする腕を身体ごと崩していき、紅羽さんがその一瞬生まれる隙へと繊細ながらもダメージの深い攻撃で仕留めていきます。

「次がくるわ!」

 多分今倒した人は前衛……、いえ、ただの鉄砲玉のような役割だったのでしょう。ここからが始まりのようですね。

「次、いきます!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る