第151話 ビーフシチュー


「今日はこのダンジョンの48階層にいたグランドバイソンでシチューを作ってきた」


「へえ~グランドバイソンってあの牛みたいなやつだよね?」


「だいぶ気性の荒いモンスターだったよな」


 零士さんと大和さんの言う通り、グランドバイソンはダンジョンの外にいるバイソンを大きく凶暴にしたようなモンスターだ。確かバイソンもウシ科だったから、ビーフシチューと言ってもいいのかな。


「周りが寒いから湯気がものすごいですね。ああ、とてもおいしそうな香りです」


「すぐに冷めちゃいそうだから、作った鍋はマジックポーチに入れておくよ。おかわりが欲しくなったら言ってくれ」


 セーフエリアに吹雪は入ってこないが、それでも外気温がかなり寒いので、鍋に入れた温かいビーフシチューといえど、すぐに冷めてしまいそうだからな。


「うわあ~めちゃくちゃおいしいよ! トロトロに煮込まれた肉と野菜が口の中で溶けていく感じがたまらないね!」


「肉がだいぶ柔らかいな。それに身体がとても温まるぜ!」


「じっくりと煮込まれているので、野菜の甘味が染みこんでとても濃厚な味ですね! それにグランドバイソンの肉がホロホロで、肉の旨みも十分に味わえます!」


「まあ、こんな状況だからだいぶ補正はかかっていると思うけれどな」


 寒い中で食べる温かい料理はそれだけでも十分うまく感じるものだ。特に今は寒いだけじゃなくてお腹も空いているからなおさらだろう。


「あとは温かいパンとご飯もあるから、こっちも一緒に食べてくれ」


「ありがとうございます、ヒゲダルマさん。それでは私はパンをいただけます」


「僕もパンにしようかな」


「俺はご飯をくれ」


 どうやら那月さんと零士さんがパン派で俺と大和さんがご飯派らしい。ビーフシチューやクリームシチューと一緒に食べるものは家庭によって違うものだ。


 うちの家では半分くらいシチューを食べてから、ご飯にかけて食べていたな。


"かああ! グランドバイソンのビーフシチューなんて高級モンスター専門のレストランくらいでしか食えないぞ!"

"あのトロトロに煮込まれた肉……絶対にうまいやつだろ常考!"

"うちはパンにディップして食べているな。うまいビーフシチューには赤ワインがよく合うんだよ"

"ヒゲダルマって豪快な料理ばっかだけれど、たまに凝った料理も作るよなw"


 テーブルの上に置いたモニターへリスナーさんからのコメントが表示される。


「さすがに探索中だから飲めないけれど、ゆっくりとしたところで味わいたいところだ。俺も時間がある時には凝った料理を作りたくなるんだよ」


 ダンジョンを探索している時はあまりコメントを見ることができないから、食事時くらいはコメントに反応する。


 グランドバイソンのビーフシチューを作るのには多少時間がかかった。まずは一口大に切ったグランドバイソンの肉を炒め、表面に焼き色がついたら一度鍋から下ろす。


 そしてニンジンやタマネギなどの野菜を炒め、そこに赤ワインを加えてしばらく煮詰める。そのあと水と香草を加えてアクを取りながら弱火で煮込み、デミグラスソースとケチャップを加えて、またじっくりと煮込んで最後にバターをひとかけら入れて煮込んだら完成だ。


 市販のシチューのルーなんかを使わないと結構な時間がかかる。とはいえ、じっくりと時間を掛けて煮込むと野菜の旨みがシチューに溶け出し、肉はとても柔らかくトロリとした舌触りになる。


 那月さんたちと探索を終えたあとはいろいろと横浜ダンジョンにしかない食材を確保してきたが、とりあえずこの階層に来るまでに欲しかったモンスターはかなり多めに確保できた。そのため、昨日はセーフエリアでのんびりとこのビーフシチューを作っていた。


「すみません、ヒゲダルマさん。おかわりをいただいてもいいですか?」


「僕もおかわりで!」


「……余っていたら俺も頼む」


「もちろん。たくさんあるからいっぱい食べてくれ」


 少し調子に乗って大きな鍋で作ったため、むしろ余るほどある。華奈と瑠奈にも渡すつもりだったが、それを差し引いても十分な量があるからな。


 またこの雪原階層を探索するわけだし、しっかりと身体を温めておかないとな。




「……おいおい、なんだよあのモンスターは?」


「吹雪いているここからでも見えるくらい大きいね……」


「今までこの階層に現れたモンスターの数倍は大きいですね」


 セーフエリアでの昼食を終え、53階層の探索を再開した。少し進んだところで、とても巨大なモンスターを発見した。


 どうやら向こうはこちらに気付いていないようだ。みんなの言う通り、吹雪いているここからでも見えるくらい巨体だ。下手をしたら5メートル以上の高さがあるんじゃないか?


「……おそらくあれはタイタンエレファントですね。私たちもこの階層で初めて見ました」


 俺は初めて見るモンスターだが、那月さんはこの階層で出現しそうなモンスターを事前に調べてくれていたようだ。


 タイタンエレファント――鼻の長いゾウのようなモンスターだが、ゾウとは異なり大きな牙と分厚い毛皮に覆われているとても大きなモンスター。


 ここが雪山階層ということもあって、ゾウというよりもマンモスにも見える。一体どんな味がするんだろうな?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る