第36話 決着
まずいな。俺のことを知っているとなると、次にこの立てこもり犯たちが要求してくるのは……
「おい、まずはお前が今持っているマジックポーチとマジックアイテムをすべてよこせ!」
……当然そうくるよなあ。
俺のマジックポーチには透明腕輪のようなヤバイ効果を持ったマジックアイテムがたくさん入っている。
タヌ金さんと引き換えになら、それらをすべて手放してもいいと思えるのだが、マジックポーチを渡したところで、あいつらがあのおっさんを解放するとは思えない。
「………………」
「おい、さっさとよこさねえと、こいつをブッ殺すぞ!」
「ひいいい! 助けて!」
「分かったから待て!」
しびれを切らしたリーダーの男が赤い剣をおっさんの首に突き付けた。
仕方がない、こうなったら一か八か……
「うおっ!?」
「な、なんだ!?」
俺が一か八かの行動を起こそうとしたその時、建物の中なのに突然横から突風が吹き荒れ、おっさんだけをその場に残し、俺に気を取られていた立てこもり犯たちを吹き飛ばした。
そのおかげで立てこもり犯と人質の間に大きな距離ができる。
「今だよ!」
「ああ!」
何も見えないところから瑠奈の声がした。今のは瑠奈が風の属性付きのナイフによって突風を起こしたに違いない。
「っ!? おい、早く人質を!」
「お、おう!」
先ほどまで人質にナイフを突きつけていた男が再びおっさんを人質にしようと駆けだす。だが、瑠奈の声を聞いてすぐに現状を理解して走り出した俺の方が速かった。
「くそったれ!」
人質をかばうように前に出る。相手はナイフを持って襲ってくるが、人質がいないのならもう問題はない。
先ほどまでは人質が近くにいて使えなかったマジックアイテムを立てこもり犯相手に遠慮なく使う。
「がはっ!」
ナイフを持って襲ってきた男が一瞬で横へ吹き飛び、お店のシャッターへと衝突した。
「うわっ、痛そう……」
「まあ、死んではないだろう。骨折くらいはしてそうだけどな」
透明腕輪を外したことにより、瑠奈が俺の横に現れた。事前に透明腕輪やその他のマジックアイテムを華奈と瑠奈に渡しておいて助かった。
偵察に出ていったはずの俺が戻ってこなかったからか、立てこもり犯の悲鳴を聞いて様子を見に来てくれたのだろう。
たぶん華奈のほうは透明腕輪で姿を消して、また何か不測の事態が起きた時のために人質たちのそばにいるに違いない。何度か一緒に行動したから分かるが、華奈はだいぶ賢い子みたいだからな。
ここまで連れてくる気はなかったのだが、今回は華奈と瑠奈が一緒にいてくれて本当に助かった。
「あっ、あの。ありがとうございました!」
「ああ、無事でよかったぞ、タヌ金さん」
「たぬ? えっと、あの……」
「……いや、何でもない。少し後ろの方に下がっていてくれ」
「は、はい!」
あれ、この人がタヌ金さんではなかったのか。見た感じこの人だと思ったんだけどな。
「な、何なんだよてめえらは! どうしてそんなふざけたマジックアイテムをいくつも持っていやがるんだ!?」
そして最後に残ったリーダーの男は何が起こったのか分からないといった表情でこちらを見ている。その両手には剣が握られているが、カタカタと震えている。
「別にマジックアイテムがひとつと言った覚えはないぞ」
何なら透明腕輪はあと3つほどある。一時はダンジョンの攻略用のマジックアイテムを回収するために、深い階層でひたすら周回を繰り返してた時期もあったからな。
「ちくしょう、どうしてこう何度も何度も邪魔が入るんだ! いや、大丈夫だ……俺にはこの炎の剣がある! 俺の邪魔をするやつらは皆殺しにしてやればいい!」
ブツブツと物騒なことを呟くリーダーの男。だいぶ精神的に追い込まれているようだ。
「死ねえええええ!」
「属性付きか!」
男が持っていた真っ赤な剣を振るうと、そこから灼熱の炎が渦を巻くようにしてこちらに襲い掛かってきた。
ダンジョンの宝箱から得られる希少な魔石。それを加工することにより、武器に火や風などの属性を付与することができる。あいつが持っている剣に付いている魔石は華奈や瑠奈が持っている武器の魔石よりも上だ。おそらく別のダンジョンの奥の階層で取れたものに違いない。
だが……
「マジックリフレクション!」
「んなっ!?」
俺や瑠奈の方に向かってきた炎の渦は俺が目の前に出した半透明の壁のようなものに阻まれ、炎の渦はそのまま男の元へと跳ね返った。
マジックリフレクション――モンスターが放ってくる炎や水弾を跳ね返すことができるマジックアイテムだ。どうやら属性を付与された武器にも使えるようだな。
もちろん跳ね返せなかった時の保険のために他のマジックアイテムと同時に展開しているし、あいつの後ろに人質がいないことも確認済みだ。
「ぎゃああああああ! 熱い、熱い!」
跳ね返った炎は男へ直撃する直前、半透明な壁に阻まれた。どうやらあいつもマジックシールドを持っていたらしいが、俺が持っているマジックアイテムよりもだいぶ性能は劣っているようだ。
マジックシールドが許容量を超えて壊れ、男は一瞬だけ炎の渦に包まれて、悲鳴をあげながらその場に倒れた。
俺と瑠奈を殺すつもりで攻撃をしてきたことにより、完全に正当防衛が成立するし、自身の攻撃が跳ね返ってこの男がどうなろうと知ったことではなかったのだが、ギリギリ生きているようだ。本当に悪運の強い奴だな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます