第110話 でっち上げ動画


「ヒ、ヒゲさん! この前インタビューした時に彼女はいないって言ったじゃん!」


「そうですよね……ヒゲダルマさんみたいな格好いい男性なら彼女の2~3人なんていて当然ですよね……」


「おいっ、2人とも落ち着け!」


 瑠奈がすごい剣幕で俺に詰め寄ってきて、華奈は暗い表情をしながらとんでもないことを言い出す。


 彼女の2~3人なんていてたまるか! 三股とかどんなクズ男だよ、俺は……


「完全にでっち上げられた動画だな。瑠奈も華奈もこいつらが酷い配信をしているところを見たって言っていただろ。動画の再生数目当てで、嘘をついているだけだ」


「ほ、本当ですか!」


「ああ。コボルトの時の動画は見たんだろ? こいつらは再生回数を増やすためなら、なんでもする輩だしな」


「そ、そっか、そういうことなんだね!」


 とりあえず2人とも少しだけ落ち着いたみたいだ。以前こいつらがコボルトを拷問していた動画は後日見たと言っていた。


 2人も再生回数を増やすためなら、こいつらみたいになんでもするダンジョン配信者がいることは知っていたみたいだしな。


 それにしても、こいつらが信用性のかけらもない輩でむしろ助かるとは……いやまあ、こいつらじゃなければ、そもそもこんな嘘の動画をでっち上げたりはしないか。


"キスのシーンに関しては完全にでっちあげだ。モザイクが不自然な形で掛かっていたし、モザイクの大きさもおかしかった。あいつら、ろくな動画編集用ソフトを使っていないんだろうな。 @月面騎士"

"ふむ、本職の人間が言うと説得力があるな。 @†通りすがりのキャンパー†"


 おおっ、さすが月面騎士さんだ。映像系の仕事をしていたということもあって、動画編集についてとても詳しい。


"それに機材だけじゃなくて、腕もいまいちだ。俺ならもっとキスしたっぽい動画に編集できるのになあ。 @月面騎士"


「おいっ!」


 思わず突っ込んでしまった。冗談だと分かっていても勘弁だぞ。


 まあ、あいつらが月面騎士さん並みの動画編集技術を持っていなくて助かったとも言える。


「キスが嘘だったとしても、ずいぶん仲が良さそうに見えたけれど、ヒゲさんはあの女性とはどんな関係なのかな?」


「ああ、あいつは俺がダンジョンにこもってしばらくしてから世話になっているの店の店主で、配信用のドローンやダンジョンの中では手に入らない調味料や米なんかを調達してもらっていてな。ダンジョンにこもってからは人付き合いなんてほとんどなかったし、あいつには昔からかなり世話になっていたんだ」


「……う~ん、微妙なところかな」


「……怪しいところですね」


 2人ともよく分からないところで何か引っかかっているらしい。


"ちょっと待て、ヒゲダルマが世話になっている店は夜桜屋だったろ? 確かあそこの店の店主は男性だったはずだ! @たんたんタヌキの金"


 タヌ金さんから質問のコメントが来ている。リスナーさんたちにはだいぶ前から夜桜屋のことは話していた。


 だけど夜桜のやつ本人のことは話していなかったはずだけれどな。


「男性? いや、夜桜のやつは女性だぞ」


"いや、前に店のホームページを見た時は男性だったはずだ。 @たんたんタヌキの金"


「ああ、それはたぶん夜桜の父親だ。ちょうど俺があの店へお世話になり始めた頃、父親からあの店を引き継いだんだって言っていたぞ。当時はホームページに父親の顔写真が載っていたかもしれないけれど、夜桜のやつが店を引き継いでからは顔写真の掲載はしなくなったはずだ」


 確かに俺が一番最初に店に行く際、店のホームページを見た時は夜桜の親父さんの写真が掲載されていた。夜桜が店を引き継いでからは、夜桜が女性ということもあって顔写真は載せていなかったはずだ。


「それにしても、よくそこまで調べてくれていたな。あの頃の俺はいろいろと危なっかしかったから、いろいろと心配してくれていたのか。ありがとう、タヌ金さん」


"……気にしなくていい。 @たんたんタヌキの金"


 あの頃の俺は無我夢中でダンジョン探索をしていたから、店の素材買い取りなんかで騙されないように俺が世話になっていた店をわざわざ調べてくれていたのだろう。本当にありがたいことだ。


"まあ、ダンジョンにこもってリアルな人付き合いがその夜桜さんとやらしかなかったら、さすがに多少は親しくなるか。 @XYZ"

"それにヒゲダルマさんに彼女さんがいたら、普通に隠さずに話してそうだよねえ~ @WAKABA"

"確かにヒゲダルマならそういう爆弾発言があったら、どこかでポロっと言っちゃいそうw @ルートビア"

"でも動画ではだいぶ楽しそうに話していなかったか? @たんたんタヌキの金"


「確かに!」


「私もそう見えました!」


「いや、あいつはダンジョン配信用のドローンや道具なんかが好きで、その手の会話になるとものすごく饒舌になるんだよ。俺も新しいドローンが思ったよりも使い心地が良くて、つい長話をしていた気もする。そういうシーンだけを動画の編集でうまくまとめたんだろうな」


 使われていた盗撮動画は俺と夜桜が楽しそうに話していたところや、夜桜のデバイスを見るために顔を近付けた場面をうまく切り抜いていただけだ。


 それにしても、こいつらはいつから俺のあとを付けていたんだ? それに一応変装もしていたつもりだったんだけれどな。


 いろいろ気になることがありつつ、俺は一時停止していた動画の再生ボタンを押した。

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