第60話 料理配信


「……ええ~と、一番多そうなコメントは『動きが速すぎて見えなかったから、詳細を教えてくれ』みたいな質問か。これはビーダルディアを倒した時のことだろうな。単純に突進してくるビーダルディアを寸前でかわすのと同時に首をこの大剣で斬り落としただけだ」


 俺が反応をすると、さらにまたたくさんのコメントが流れた。マジックポーチに入れていた水を入れたタンクを取り出し、首を落として木に吊るしたビーダルディアの解体作業を行いながらコメントに答えていく。


「次は『どうしたらそんなに早く動けるのか?』か。これも前のツインズチャンネルの配信で伝えたと思うが、ダンジョン内ではモンスターを倒せば倒すほど身体能力が向上していく。俺は一時期ひたすらダンジョンを攻略していた時に深い階層のモンスターを倒しまくって、身体能力を上げまくった結果だ。何度も言うが、ダンジョンへは絶対にソロで入るなよ、ほぼ100%死ぬからな」


 これについては寝る間も惜しみ、自らの命を省みないでひたすらダンジョンをソロで攻略してきた結果だからとしか言えない。


 だけど俺が今こうして生き残っているのは完全に運が良かっただけだから、警告だけは何度でもしておく。俺のせいでダンジョンでの事故率が増えてしまうのは困る。


「……質問じゃないけれど、斬首人とか処刑人とか言っているコメントが多いな。基本的にはダンジョンに出てくるモンスターの多くの弱点となる場合が多いから首を狙っているだけだぞ。モンスターとの戦闘は時間を掛けない方がいいに決まっているからな。とはいえ、階層が深くなると首を斬っても反撃してくるモンスターなんかも出てくるから気を付けてくれ」


 以前の2人の配信でも伝えたが、どこにあるのか分からない心臓を狙うよりも首を狙った方が確実だ。とはいえ、首が急所じゃないモンスターもいるのは言った通りだ。


「それと単純に首を斬って血抜きをした方がモンスターの肉はよりうまくなるぞ。とはいえ、もちろんモンスターを安全に倒すことを優先すべきだ。相手モンスターとの戦闘で余裕があれば首を狙うようにした方がいいかもしれないな」


 俺の言葉に対して、『モンスターとの戦闘中にそこまで余裕ねえよ!』とか『いや、首を斬るためには敵の爪や牙や角なんかの攻撃を全部かいくぐらないときつい!』というコメントも入ってきている。


 そりゃまあ敵のモンスターもに知性があるわけだし、自分の弱点くらいは守ってくるだろうから、それを上回る速さと力で攻撃をしなければならないわけだ。


 それと『モンスターの味なんかどうでもいいw』とか『確かにモンスターの肉の味は血抜きで変わるな!』で2つの異なる意見が出てくるのも面白いな。なるほど、リスナーさんの中からもいろんな意見が聞けて面白い。


「よし、それじゃあ解体作業も終わったし、そろそろ飯にするか」


 リスナーさんたちのコメントにいくつか答えながら、無事にビーダルディアの解体作業が終了した。




「さて、今日の飯はビーダルディアのハツの竜田揚げとレバーを使ったレバニラだ!」


 56階層のセーフゾーンにテーブルと調理道具を出して料理した2品とご飯を用意した。


 早速コメントの方ではうまそう、美味しそうというコメントが溢れてきている。いつもの配信でもそうだが、見てくれているリスナーさんたちには悪いのだが、この瞬間だけは何とも言えない優越感があるんだよなあ。


 モンスターの肉もダンジョンの外の動物の肉も熟成した方がうまくなる肉は多く、内臓系は痛むのが早い。まあ、マジックポーチに入れてしまえば関係ないのだが、今日は久しぶりにモツを食べたい気分だった。


「うん、サクサクとした衣の中に柔らかく濃厚なハツの旨みが溢れてくるな! このハツ特有のコリコリとした食感もたまらないし、この下味の付いた肉の味がこれまた炊き立ての白米とよく合うんだよ! レバニラの方は新鮮なレバーを使っているだけあって臭みもまったくなく、プリプリとした舌触りにレバー特有の味がニラや他の野菜と一緒にタレと合わさって本当にうまい!」


 うん、今日作った料理も我ながら上出来だ。時間はいっぱいあるから、ついつい料理は毎回凝ってしまう。このレバニラのタレもわざわざ自作しているもんな。


「『ダンジョンの中でめっちゃ本格的な料理を作っていてワロタw』ね。まあ、解体もしたついでにそのまま食べることが多いから、調理道具一式もマジックポーチに入れているんだ。『ビーダルディアの肉、めちゃくちゃうまそう!』か。ああ、かなりうまいぞ」


 野菜については俺の家があるセーフゾーンに作った畑で育てた野菜も一部使っているのだが、うっかりそれをしゃべらないように気を付けなければならない。ちなみに俺の家があるセーフゾーンの畑とは別に、同じ階層の別のセーフゾーンにも俺の作った畑があったりする。


 ……いや、俺の家があるセーフゾーンだけじゃ、敷地が足りなかったんだよ。さすがに誰も来ないとはいえ、ダンジョン内のセーフゾーンに自分の家を作ったり、畑を作って野菜を育てていたらまずいのは自覚しているから、誰かが来る前にはきっと処分するぞ。たぶん……




「それじゃあ今日の配信はここまでだな。こんな感じでこのチャンネルは適当に魔物を倒したり、料理をしたりする配信だ。そこまで大した配信じゃないが見てくれると嬉しいぞ」


 そして俺の配信が終了した。結局今日はダンジョン56階層を少し探索してビーダルディアを倒し、それを解体して料理を作るという俺のいつもの配信に近い内容となった。


 実際のところモンスターとの戦闘があっただけまだマシな方で、一日中武器や防具の整備をしたりするだけの配信もあったりするからな。


 しかし俺が思っていたよりも大勢に見てもらう配信というのは悪くないのかもしれない。やはり何かをすると反応が返ってきてくれるのは嬉しいことだ。


 とはいえ、虹野のような例を見てしまったわけだから、あまり登録者数が増えたからといって調子に乗らないように気を付けるとしよう……

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