第62話 リアルでの待ち合わせ
「おお、久しぶりだな、月面騎士さん。ここ4~5日くらい見かけなかったからちょっと心配したぞ。天使の涙――そんなマジックアイテム持っていたかな……ちょっと待っていてくれ」
俺もダンジョン攻略をしていた時はマジックアイテムについて必死に覚えた。有用なマジックアイテムはうまく使えば絶体絶命のピンチ覆すほどの能力を持った物もある。
それと狂戦士の腕輪や誘引の蜜のように使い方を誤れば自滅するようなヤバイ効果を持つマジックアイテムなんかも存在するので、マジックアイテムの効果を把握するのは非常に大事だ。
俺が知らない名前のマジックアイテムということは、まだ俺が手に入れたことがないマジックアイテムの可能性が高いな。
"天使の涙……なんのマジックアイテムだっけ? @ケチャラー"
"なんかニュースになっていたのを見た気がする。 @XYZ"
"画像を貼った方が早そうかな。ほい、これ。 @ルートビア"
「ああ、ありがとうルートビアさん」
俺が腕輪のデバイスを操作してどんな外見のマジックアイテムかを確認しようとしたところ、ルートビアさんが画像をもうコメントで上げてくれた。華奈も瑠奈もそうだけれど、みんななんでこんなにデバイスの操作が速いんだろうな?
ルートビアさんが表示してくれた画像を見ると、そこには中に液体の入っている天使の羽のようなデザインをした半透明の容器があった。
「……いや、このマジックアイテムは初めて見るな。こんな特徴的な容器なら、たぶん忘れないと思うぞ」
"確かにヒゲダルマの配信では見ていないな。 @†通りすがりのキャンパー†"
"うん、私も初めて見るね~ @WAKABA"
古参のリスナーのみんなも見たことがないということは、おそらく俺はこのダンジョンで手に入れたことがないのだろう。もちろん虹野のアイテムポーチの中にもそんなものは入っていなかった。
"そうか、持っていないか……ヒゲダルマ、本当に申し訳ないんだが、今から俺とリアルで会ってほしい。 @月面騎士"
そんなことがあってから1時間半後。俺はひとりで大宮ダンジョンのすぐ近くにある公園へとやってきた。
月面騎士さんからリアルで会いたいという申し出があり、さすがに待ち合わせ場所や時間を配信中のコメント欄に書き込むのはいろいろとまずいという話になり、別の連絡先を月面騎士さんに伝えてやり取りをして、この時間にこの場所で待ち合わせを約束した。
理由を聞くと俺に頼みたいことがあるらしく、詳細は直接俺へ会った時に話したいそうだ。月面騎士さんが大宮に着くには1時間ほどかかるらしいので1時間半後にして、場所については俺が指定させてもらった。
俺もこの数週間でヒゲを剃っていないからかなり伸びてきていて、ダンジョンの外では怪しく見られそうなこともあり、ちゃんとヒゲを剃って身なりをキチンとして変装もしてきた。今では俺も有名になってしまったからな。
「……15分前か」
やってきた公園は小さな公園ということと、日が暮れていることもあって人はほとんどいなかった。
さすがに俺も馬鹿ではないので、このダンジョンの外での呼び出しはダンジョン協会の企みによる可能性もゼロではないと思っている。もちろん月面騎士さんが嬉々として俺をハメようとしているわけではなく、職や家族なんかを人質に取られたり、騙されているということだ。
他にも月面騎士さんのダンジョン配信のアカウントを乗っ取ったりすることも可能だからな。現にキャンパーさんからも、会った時に念のため過去の配信で流していた月面騎士さんにしか分からないことを確認して、本人確認をした方がいいともこっそりアドバイスをもらった。
「ヒゲダルマか……?」
待ち合わせ時間の10分前になったところで、1人の男性が公園へとやってきた。
やってきたのは俺よりも年上で、おそらく30代くらいの男性だった。ボサボサした長めの黒髪でポロシャツにジーンズといった服装をしている。公園の明かりによって映し出されたその顔は色白くほっそりとしていて、とてもではないがこれから戦闘を始めようとしている人には見えない。
若干警戒を解いて、俺のマスクを外して顔を見せた。
「月面騎士さんか? すまないが、頼みとやらを聞く前にいくつか質問をしてもいいか?」
「もちろんだ。ヒゲダルマも俺が本物の月面騎士か確認したいんだよな?」
「……そういうことだ、すまない」
月面騎士さんも俺の身の回りがゴタゴタしていたこともあってか、すぐに質問の意図を理解してくれた。
月面騎士さんは俺の配信チャンネルを始めてしばらくしてから出会ったリスナーさんで、数年以上の付き合いがある。月面騎士さんは頭の回転が速く、すぐに現状を理解して機転が利くという印象だ。
個人的には実際に会ってみて、かなりイメージに近い雰囲気だったな。タヌ金さんは俺の想像していたイメージ姿とまったく違っていたから、少しだけほっとしている。まさか年齢どころか性別すら違うとは思わなかったもんなあ……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます