第150話 スノーフロストバニー


「……むっ、前方から敵影2を確認! 小型のモンスターだが、素早いぞ!」


「了解です!」


 積もった雪の上を歩きつつ探索を進めていると、前方から2匹のモンスターが現れた。


 そいつらは素早い動きで雪原を走り回りつつ、こちらへと向かってくる。


「小型のウサギ型のモンスターだ。1匹頼む!」


「了解だ!」


「うん、了解だよ!」


 2匹のウサギは1匹俺の方をターゲットとして、もう1匹は那月さんたちの方へ向かう。


 雪の上にも関わらず、かなりの速さで走ってくるウサギ型のモンスターは白い毛並みをしていて、頭には角が生えている。一見すると可愛らしいモンスターにも見えるが、ここは53階層だ。


 あれだけのスピードで突進してきているし、もしもあの硬い角が刺さったら結構なダメージになるに違いない。


「キューンッ!」


「ちっ、面倒だな」


 俺の方へ向かってきたウサギは雪原をあちこち走り回って俺を翻弄しながらこちらを襲ってくる。


 目では追えるが、深い積雪に足を捕られて反応が少し遅れる。


「キューンッ!」


「そこだ!」


 ザンッ


「……よし、こっちは終わったか」


 ウサギがこちらに突進してきたところをかわしつつ、相手の首を刎ねる。


 動きにさえ惑わされなければ、頭の角をこちらに向けて突き刺そうとしてくるため、その首を狙うのは容易だ。しっかりとウサギが絶命したことを確認してから、那月さんたちの方を見る。


「零士、蒼、頼んだぜ!」


「了解!」


「よしっ、止めだ!」


 どうやら向こうも無事に倒せたようだ。


 俺も多少はモンスターの動きだけでなく、パーティメンバーの様子を気にするようにして那月さんたちの動きを見ていた。どうやら大和さんがウサギの突進を盾で受け止め、その隙に零士さんがウサギにダメージを与え、動きが鈍ったところで那月さんが止めを刺した。


 うん、さすがの連携だったな。




「……ったく、なんでこんなに積もった雪をあんなに素早く走れるんだかな」


「それに身体が全身真っ白で分かりにくいったらありゃしないよ。角の色が微妙に灰色だったから、それで見分けるしかなかったね」


「こいつはスノーフロストバニーですね。周囲が真っ白だったから、毛皮の白いこのモンスターは他のモンスターよりも見えにくかったです。ヒゲダルマさんはよく気付けましたね」


 スノーフロストバニーをマジックポーチにしまい、先を進みつつ那月さんたちと先ほどの戦闘を振り返る。


「俺もだいぶ見つけにくかった。正面から来てくれたおかげで少しだけ色の違う角が逆に目立っていたよ。雪の上だと走る音もあまり聞こえないから、厄介だよな」


 完全に毛皮が雪の白色と同化していて見えにくいうえ、足音もだいぶ聞こえにくいから本当に厄介だ。3人の言う通り、完全にこの雪山に適応したモンスターで戦いにくい。


 唯一の救いは吹雪いているけれど、雪がそこまでは積もらないことだな。ダンジョンの仕組みは分からないけれど、雪は足元から30センチメートルほどまでしか積もらなく、俺たちが進んできた足跡もしばらく残ってくれる。


 雪が降り積もる一方だったら、まともに探索ができないところだった。


「おっ、ちょうどいいところにセーフエリアがあるぜ」


「そろそろお昼ですし、あそこで昼休憩をとりましょうか?」


「ああ、了解だ」


 少し先に光り輝くセーフエリアが見えた。


 ちょうどお昼時だし、休憩に賛成だ。


「ふう~ちょっとは落ち着くね。やっぱりだいぶ身体が冷えるよ」


「多少は身体を動かしているからいいけどよ、手の先や足の先はだいぶ冷えちまうな」


 ありがたいことにセーフエリアの中まで雨や雪は入ってこない。気温は寒いけれど、足元に雪がないのと吹雪いてこないだけでだいぶマシだ。


 マジックポーチからテーブルと人数分の椅子を取り出す。那月さんも自分のマジックポーチから強力な暖房を取り出してスイッチを入れると、一気に周囲が暖かくなった。ちなみにこの暖房は宝箱から出現する魔石をエネルギーにしている。


「それじゃあ軽く昼食をとろうか。ちゃんと身体が温まる料理を作ってきたよ」


 数日前からお昼の料理は俺が作ってくるようになった。


 きっかけは昼休憩に俺が作ってきた料理をみんなに少し分けてあげたら、零士さんから自分たちの分も作ってほしいと言われた。那月さんと大和さんは俺に悪いからと零士さんを止めようとしたけれど、俺も誰かに料理を食べてもらうのは好きだから、快く了承した。


"さて、今日の昼飯は何かな?"

"昨日の横浜ダンジョン産のローストワイバーンサンドはバチクソうまそうだったなあ~"

"普段のヒゲ姿からは考えられないほどうまそうな料理を出すから期待大!"

"そもそも食材が普通じゃないんよw モンスターの高級料亭に行かないと食べられないもんばっかだからな"

"ヒゲダルマはその道でも生きていけそうだなwww"


 テーブルの上にいつも華奈と瑠奈と一緒にいる時にも使っていたデバイスを置いてあるので、リスナーさんのコメントが見える。


 この階層の場合はあまりコメントを見ている暇がないから、セーフエリアエリアで休憩をする時にまとめて見るようにした。

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