第7話 ハイポーション


「ふう~」


 ベヒーモスの首を落としたが、まだ油断はしない。このダンジョンには首を落としても平気で反撃してくるおかしなモンスターもいるからな。


 ……よし、どうやらもう動く気配はないようだ。


”瑠奈ちゃんは見つかったか! @†通りすがりのキャンパー†”

”とりあえず、連絡はよ! @月面騎士”

”速すぎてドローンで追えんて! @たんたんタヌキの金”


 おっと、どうやらドローンも追いついてきたようだ。


「瑠奈!」


 その後ろからは先ほど契約をした女の子もやってきた。どうやら無事に追いついてきたようだ。


「とりあえずイレギュラーモンスターのベヒーモスは倒したぞ!」


”早っ! てか、マ!? ベヒーモスのイレギュラー討伐とか、ニュースのトップページに載るレベルのやつなんだけど!”

”本当に倒してるし! てか、また戦闘シーンカットかよ! @月面騎士”

”相変わらず配信しているのに戦闘シーンがない配信w @たんたんタヌキの金”


「いや、今回は結構やばそうなやつだったぞ。一度攻撃を大剣で受けたが、かなりのパワーだった。ダンジョンでは何が起こるかは分からないからな、とりあえず倒せてよかったよ」


 ベヒーモスがまだ俺の動きに慣れていないうちに、俺の最速をもって懐に入り、白牙一文字でその首を一刀両断した。


 その巨体と硬い肌がベヒーモスの特徴なのだが、俺の相棒の前ではそれも脆いものだ。それにこいつは戦闘の経験がほとんどなかったのだろう。そのため、簡単に懐に入ることができた。


 実際のところ、こいつと何百回、何千回と戦えば俺が殺されていた可能性だってゼロではない。それこそダンジョン内でのモンスターとの殺し合いは何が起こるか分からないからな。


「瑠奈! 目を開けて、瑠奈!」


 おっと、今はベヒーモスよりもこっちか。


「お姉……無事でよかった……」


「酷い傷! 待ってて、今ポーションを……」


「この傷は……無理だよ……でも、最後にお姉と会えて良かった……」


「お願い、目を開けて、瑠奈!」


「お姉……大好き……」


「いやあああ! 死なないで瑠奈!」


「……取り込み中悪いが、ちょっと失礼するぞ」


 月9のワンシーンみたいな姉妹愛を見せてもらっているところを悪いが、無理やり割り込む。さすがにこの子の傷はすぐに治療しないとちょっとまずい。


 俺はマジックポーチから出した瓶に入っている青色の液体を女の子のえぐられた傷口にかけた。


「えっ、傷口が!」


”なんじゃこりゃ! ぐちゃぐちゃだった傷口が一瞬で塞がっていったぞ!”

”うわあ、相変わらずすごい治癒効果ですね。 @WAKABA”

”どう見てもチートです。本当にありがとうございます。いや、文字通りの意味で。 @たんたんタヌキの金”


「えっ、うそ……痛みが消えていく」


「傷口は塞がったみたいだな。他にまだ痛むところはあるか?」


「えっと……大丈夫です。あれ、でも僕……なんで?」


「瑠奈! 良かった!」


「お姉!」


 相変わらずダンジョン深部の宝箱で稀に出てくるハイポーションの効き目はものすごい。ついでに余ったハイポーションを姉の方にも使ってあげた。






 イレギュラーモンスターであるベヒーモスをマジックポーチに収納し、一旦安全なセーフエリアへと場所を移す。契約も終わったことだし、このままサヨナラでも良かったのだが、向こうが少し話をしたいらしかった。


「ヒゲダルマさん、この度は本当にありがとうございました!」


「僕とお姉を助けてくれてありがとうございました!」


 ここに移動するまでにお互いに軽く自己紹介をした。


 姉の名前は華奈といい、黒いロングヘアでスタイルの良い女の子だ。妹の名前は瑠奈といい、茶色の短髪でこちらも姉と同じでとても整った顔立ちをしている。2人とも配信用の名前ではなく本名で配信をしているらしい。


 瑠奈の方が双子の妹で、華奈をお姉と呼ぶようだ。双子だとあまり兄や姉と呼ぶことはないと聞いたことがあったが、そうでもないらしい。


 双子というだけあって、髪型以外は顔つきや背丈など本当によく似ている。……唯一他に違うのは、あえてどことは言い難い身体の一部が、姉がとても大きく、妹はとて小さいという点くらいか。双子でもその辺りの成長は違うんだなという、どうでもいい知識を得た。


「俺は契約を履行しただけに過ぎないから気にするな。そっちもちゃんと約束を守って、俺のことは他の人には秘密にしておいてくれよな」


「はい、もちろんです!」


「僕も絶対に守るよ!」


 契約のひとつに俺のことは秘密にとあった。これについては口約束だし、この2人を信じるほかない。まあ、バラされたところで、そこまで困るものでもないけどな。


「あと瑠奈を助けられたのは、俺の配信を見てくれていたリスナーのおかげだからな。この人にもちゃんとお礼を言っておいてくれ」


”へっ、俺!?”


 そう言いながら、俺のドローンを指差して、腕輪のコメント欄を2人にも見せる。


 華奈はともかく、瑠奈の方を助けられたのは今日たまたま来てくれたこのリスナーさんのおかげでもある。この人のコメントがなければ、咆哮を聞き逃していたかもしれないし、助けが間に合わなかった可能性も非常に高い。さすがに俺も走りながら全方向を確認できるわけではないからな。


 ちなみに最初はちゃんと2人のことをさん付けで呼んでいたんだが、命の恩人にさん付けはいらないと言われた。俺としては女の子を名前呼びする方が抵抗感はあるんだけど、苗字だとどっちか分からなくなるからな。


「妹を助けてくれて、本当にありがとうございました!」


「ありがとうございました! あの、できれば何かお礼をしたいんだけど……」


「ああ、そうだな。俺も何か礼をしたい。少しだが、さっきのイレギュラーのベヒーモスの肉とかどうだ?」


 うん、感謝の気持ちを伝えることはとても大事だが、相応の報酬を渡すことも重要だ。彼女たちもそこのところをちゃんと分かっているみたいだな。


”いやいや、報酬とかいらないから! ただ暇つぶしに配信見ていただけで、役に立てたのもたまたまだったし!”


「謙虚な人だな。命の恩人なんだから、お金とか受け取っても全然いいと思うぞ」


”いや、なんか人の役に立てたって思えるだけで満足だわ。俺の話はもうこれでおしまいでいいから!”


「……分かった、もうこれ以上は言わない。IDはメモッとくから、なにかしてほしいことができたらそのIDで伝えてくれ」


「うん、僕も絶対に忘れない! 本当にありがとう!」




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