第5話 契約成立
ベヒーモス。巨大な身体を持った4足歩行のモンスターで、頭からは2本の角が生え、紫色の肌をしているのが特徴だ。筋肉質で、一見するとどう見てもうまそうには見えないのだが、実際に食べてみると、その肉は牛や豚なんかとは比較にならないくらいうまい。
ブラックドラゴンとまではいかないが、レッドドラゴンの肉より少し高いくらいが市場の相場だろう。しかし肉質はドラゴンとは異なり、違った味が楽しめるのだ。
そしてなにより、イレギュラーモンスター大半はその肉質が元のモンスターより、おいしくなることが多い。
これもどうしてそうなるのかは未だに解明されていない。俺も少しだけイレギュラーモンスターを食べたことはあるが、確かに一般的なモンスターと比べると遥かにうまかった。
「もう一度確認するぞ、そのイレギュラーモンスターは確かにベヒーモスだったんだな?」
「は、はい。肌の色は少し黒かったですけれど、確かにベヒーモスでした……」
イレギュラーモンスターは外見的な特徴が他のモンスターと異なる。そうなると彼女の言い分には十分信憑性が持てる。
”ベヒーモスのイレギュラーとか本気でやばくね!? ガチ攻略組でも勝てるか怪しいじゃん! とりあえず通報だけでもしておくべき!?”
”とりあえずもちつけ! 通報はもうちょっとだけ様子を見てからでも遅くはないだろ。どうせ連絡しても、調査や人集めなんかで、かなりの時間がかかる @たんたんタヌキの金”
”それにさっきまで華奈ちゃんが配信していたんだから、きっとそっちのリスナーさんがもう通報していると思うよ。でも討伐部隊が来るのは当分先だと思うけれど…… @WAKABA”
「よし、わかった。君の妹さんを探すのを手伝おう」
「えええっ!?」
”なんで今の話の流れで引き受ける流れになっているんだよ! 普通逆だろ!?”
”ヒゲダルマに普通の流れを求めても無駄だぞ。 @†通りすがりのキャンパー†”
”こんなに可愛い女の子が何でもしてくれるというのに断る時点で普通じゃない件についてw @たんたんタヌキの金”
”確かにw 俺なら命がかかっていても引き受けるわ。モンスターに遭遇せず見つけられる可能性もあるわけだし。 @†通りすがりのキャンパー†”
「ただし、条件がある。ひとつはそのベヒーモスを俺が倒したら、素材はすべて俺がもらう。そしてもうひとつは俺のことについて他の人には話さないという条件だが、どうだ?」
「は、はい、もちろんです! で、でも本当にいいんですか?」
「ああ、イレギュラーのベヒーモスなんて食ったことがない! それには俺の命をかける価値が十分にある!」
「そ、そうなんですね……」
”なんか華奈ちゃん、すごい複雑そうな顔をしているな…… @月面騎士”
”そりゃ、自分の全財産やなんでもするってことよりも、肉の方の価値があるって言われたようなものだからなwww @たんたんタヌキの金”
”女の子なら誰でもショックに決まっているでしょ! ヒゲダルマさんももう少し女心を分かってほしいなあ…… @WAKABA”
”今ので完全にフラグはへし折られましタワー…… @†通りすがりのキャンパー†”
……相変わらず外野がうるさい。だが今はそれどころじゃない。
「契約成立だな。それじゃあ今回の件で、俺はできる限り君たちの助けになることを約束する。そっちもちゃんと契約を守るんだぞ」
「は、はい!」
”うわ~女の子を助けるのに契約とか言っているよ、この男…… @月面騎士”
”相変わらずブレなすぎてワロタw @たんたんタヌキの金”
「……いろいろ言いたいことはあるけれど、今は視聴者のみんなも力を貸してほしい。ドローンを固定方向に向けておくから、そっちの方向に何かあったらコメントで教えてくれ」
”おお、そういうことなら任せてくれ!”
”もちろんです! @WAKABA”
”おう、当然協力させてもらうぞ! @†通りすがりのキャンパー†”
「ありがとう、感謝するよ」
「あの、みなさんありがとうございます!」
コメントの通知音をオンにしておく、これで何かコメントが入れば音がなるようになった。
「それで、どっちの方向から来たんだ?」
「あっちの方向です。森を超えた丘の下あたりで遭遇しました!」
「とりあえずその付近をしらみつぶしに探してみるしかないか。ちょっと失礼」
「えっ、きゃあ!?」
困惑している彼女に有無を言わせず、彼女を抱きかかえる。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。
そしてそのまま彼女の指差した方向へ走り始めた。ちゃんと彼女の負担にならず、ドローンがついてこれるくらいのスピードにしてある。
「君と一緒に走るよりもこうした方が速い。しばらく、我慢してくれ」
「は、はい!」
”わお、ヒゲダルマさん、やるじゃない! @WAKABA”
”こんな可愛い女の子をお姫様抱っこだと……爆発しろ! @†通りすがりのキャンパー†”
”こりゃ華奈ちゃんのファンに見られたら刺されますわ…… @月面騎士”
ピコンッ、ピコンッとコメント通知の音が鳴る。背中には大剣を背負っているし、前に抱きかかえるしかできないからしょうがない。
「みんなもこれから先は無駄口禁止で頼む。何か見つけた時だけコメントを頼む!」
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