第2話 人間やめてる?
「さて、35階層か。コカトリスは森の奥深くにいるんだっけな」
元いたゲートをくぐって、35階層へとワープしてきた。ダンジョン階層内はこのゲートを通って移動する。それぞれの階層にはゲートが存在し、そこを通れば次の階層へと進めるようになっている。
階層の広さはその階層により、狭い階層だったり、洞窟内で入り組んだ階層だったりと様々だ。この35階層は広い森の階層となっている。コカトリスはこの森の奥に生息している。
”というか、シレっと35階層とか言っているけれど、ここはどこのダンジョンなんだ?”
先ほどの新規視聴者さんからコメントが入る。どうやらまだ見てくれているようだ。ダンジョンは世界中に出現し、この日本にもダンジョンはいくつもある。
「ここは大宮ダンジョンの35階層だ。すまないが、ここからは落ち着くまでコメントを見られないからよろしくな」
そう言いながら俺は腕輪を設定してコメントを非表示にする。
ここはダンジョンの中で、一瞬の油断が死を招く。ダンジョン配信者の中にはコメントを読み上げたりしながら配信を行っている者も多くいるらしいが、俺はソロだ。この階層なら、やろうと思えばできるだろうが、そういった危険を招く行為はできるだけ排除する。少なくとも俺は今までそうしてきた。
”大宮ダンジョンって今調べたら、公式の最高到達階層まだ40階層の激ムズダンジョンじゃん!? えっ、ソロでこの階層を攻略したって、このヒゲダルマってそんなに強いの?”
”へえ~今は40階層まで攻略が進んでんのか。ちょっと前まではまだ全然だったのに…… @月面騎士”
”最近はダンジョン攻略もだいぶ効率化してきたもんな。いやまあ強いというか……見ていれば分かるよ。 @†通りすがりのキャンパー†”
”てか、この人走るの速すぎん!?”
「さて、この辺りか」
”……すげーな、このヒゲダルマって人、かなりのモンスターに遭遇したけれど、全部ぶっちぎったぞ。本当に人間か?”
”いくらダンジョン内では外以上の力が出せるといっても、さすがに人間じゃないわよね…… @WAKABA”
”それな! 人間やめているって意見には禿同w @月面騎士”
”ヒゲダルマの味方が一人もいなくて草w @†通りすがりのキャンパー†”
「おっ、ちょうどコカトリスの巣があるな。卵もいくつかあるぞ」
ここに来るまでに結構なモンスターと遭遇してきたが、そのすべてをスルーしてきた。森の奥へ移動してくると、前方にコカトリスの巣を発見した。巣の中には卵があることも確認できた。
巣には親であるコカトリスもいる。周囲にはこのコカトリス2匹以外のモンスターの気配はない。コカトリスを狩って、卵を食べるのには若干罪悪感もあるが、俺も生活していくためには命を奪わなければならない。その分しっかりと味わって食べるとしよう。
「うし、行くか!」
俺は背中に背負っていたモンスターの素材を使って、自分で作った大剣を持ち、コカトリス2匹の正面に立った。
”ちょっ!? コカトリスって石化ブレス吐くやつだろ! ソロで真正面から突撃とか馬鹿じゃねえの!?”
”そう思っていた時期が俺にもありましたわ~ @たんたんタヌキの金”
ザンッ、ザンッ
”……はあ? ねえ、なにあれ? 勝手にコカトリス2匹の首が落ちたんだけど?”
”スロー再生してみ。ものすごい高速で真正面から突っ込んで首切っただけだから。俺も見えてないから多分だけど…… @月面騎士”
”そもそもカメラも追いついてないから、毎回何が起こっているのかよくわからないんだよねえ…… @WAKABA”
”速すぎて戦闘シーンが見えない配信とか致命的過ぎてワロタw @たんたんタヌキの金”
周囲に他の魔物がいないことを確認し、腕輪の設定を変更してコメントを表示する。
「月面騎士さんの言う通り、正面からこの大剣で首を落としただけだよ。コカトリスの血抜きをする時は動脈をスパッと切ると、肉がうまくなるし、この後の解体作業が楽になるんだよね」
”いや、血抜きとか肉のうまさとか今どうでもいいから!?”
「何を言っているんだよ。モンスターをうまく食べるには血抜きは大事だぞ! まあ、たぬ金さんのいう通り、配信者として戦いを見せられないのはすまんが、こっちも命がかかっているからな。コカトリスの石化ブレスには一応耐性があるけれど、動きが鈍くなって嫌だから、ブレスを吐く前に倒したんだ」
”……石化ブレスに耐性がある人とか見たことないんだけど。普通高価な石化回復薬を使うんだよな。俺の知識のほうが間違ってんの?”
”いや、間違っていないぞ。少なくとも、俺もそんな耐性を持っているやつはこいつしか知らんw @†通りすがりのキャンパー†”
「状態異常耐性については苦労したよ。特に俺はソロだし、麻痺や石化なんて食らったら本気でヤバいから、死に物狂いだったな。さて、それじゃあ、解体作業は安全な家に戻ってからやるか。マジックポーチにしまってと……」
俺は腰につけているポーチを外し、首を落としたコカトリスの肉を収納した。そのまま続けて1メートル近くあるコカトリスの大きな卵を収納する。
”ちょ、あんな容量が入るマジックポーチなんて存在するの!? めちゃくちゃヤバいマジックアイテムじゃん!”
”相変わらずこの配信見ていると感覚おかしくなってくるよねえ~ ダンジョンの深部にはああいう性能壊れたマジックアイテムがあるらしいよ。 @WAKABA”
”考えるんじゃない! 感じるんだ! @†通りすがりのキャンパー†”
”いや、それ考えるのを放棄しているだけだからwww @たんたんタヌキの金”
そう、ダンジョンからは食材や資源だけでなく、このマジックポーチのように人知を超えたマジックアイテムというものを手に入れることができるのだ。
だが、ダンジョンから持ち帰ったマジックアイテムについてはこの何十年もの間、世界中で研究されているにもかかわらず、何もわかっていないのが現状だ。もちろんマジックアイテムの複製なんかも成功したという例は挙げられていない。
「よし、それじゃあ戻ってゆで卵でも作りますかね」
「きゃあああああ!」
収納が終わり、元のゲートへ帰ろうとしたところで、女性の大きな悲鳴が辺りに響き渡った。
”なんだ、悲鳴が聞こえたぞ! @月面騎士”
”誰かがモンスターに襲われているんじゃね! @たんたんタヌキの金”
「この階層にも探索者が来ているのか。しょうがない、悲鳴を聞いた以上は行くか……」
”なんかめっちゃ嫌そうに助けに行くのな。てか、速すぎてまたカメラ置いてけぼりじゃん!?”
”まあ、こういう人なんだよ…… ドローン、頑張ってくれ! @†通りすがりのキャンパー†”
”ヒゲダルマが駆けつけるまで耐えてくれればどうとでもなるんだが…… @たんたんタヌキの金”
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