第55話 事情聴取
「かしこまりました、それではヒゲダルマ様と呼ばせていただきますね」
「はい、そっちの方で呼んでください。ええ~と、
「ええ、
「………………」
目の前にいるのは灰色のスーツを着た30代くらいのメガネをかけた男性だ。身長は俺よりも高く、おそらく180cmくらいはありそうで、スラリと長い体躯をしておりヒョロリとした体格である。
対する俺も先日の会見の時に来ていたスーツを着てヒゲを剃り、伸びた髪を後ろに束ねてちゃんとした格好をしている。昨日華奈と瑠奈を助けたばかりということもあって、夜桜に髪を整えてもらう時間はなかったが、まあある程度はまともな格好に見えるだろう。
「それで百武さん、昨日の件についてですよね?」
今この男からもらった名刺には『ダンジョン協会大宮ダンジョン支部第一執務執行部代表執務専任者』とかいう長ったらしくてよく分からない肩書の横に百武という名前が記載してある。
そう、今俺はダンジョン協会が所有する事務所へとひとりでやってきている。というのも昨日ダンジョンの36階層で華奈と瑠奈を助けたあと、すぐに華奈と瑠奈を通してダンジョン協会から事情を聞きたいという連絡が入った。ダンジョン内の事件についてはダンジョン協会が主体となって調査を進めていくのが基本となる。
もちろん俺がヒゲダルマということが広がっているため、ダンジョン探索者の資格を取った際に登録した連絡先などは向こうも把握しているのだが、すでにその連絡先は使用できなくなっているので、華奈と瑠奈を通して連絡をしてきたのだろう。
当然俺の本名などの個人情報も把握されているが、本名はここ何年も使っていなかったので、相手にはヒゲダルマと呼んでもらうことにした。
「はい。この度はこちらまでご足労いただき、誠に感謝しております。まず今回の件にかんしまして、昨日ツインズチャンネルの華奈さんと瑠奈さんからお伺いしたお話によりますと、ダンジョン法による正当防衛が認められ、罪に問われることはございませんのでご安心くださいませ」
昨日華奈と瑠奈を助けて、しばらくセーフゾーンでリスナーさんや2人と一緒に話していたところで、ダンジョン協会から2人へ連絡が入った。そのあと2人が話を聞いたところ、ダンジョンに虹野が入ってしまったことによる謝罪があって、詳しい話を聞かれたらしい。
そして俺にも一度詳しく話を聞きたいということを伝えられて、次の日にこのダンジョン協会へとやってきたわけだ。
……昨日の件については俺もダンジョン協会に思うところがあったので、いろいろと警戒してマジックアイテムなどの準備をしてきたが、特に身体検査なんかもなくこの部屋へ案内された。そしてこの男と秘書のような女性が現れて、男から名刺を渡されたという状況だ。
「それはよかったです」
何年かぶりに慣れない敬語を使っていることもあって、なんだかとてもむずかゆい……
とりあえず2人から事前に聞いていた通り、今回の件で俺と2人がダンジョン法によって罰せられるということはないようだ。
「まずは今回の件につきまして深い感謝を。ヒゲダルマ様のおかげで2人の尊い命が救われました。本当にありがとうございます」
「……はあ」
「そして当ダンジョン協会の不手際によりまして、立ち入りを禁止していた虹野虹弥がダンジョンへ侵入し、ヒゲダルマ様にご迷惑をお掛けしましたことを深くお詫び申し上げます」
「………………」
百武さんと横にいた秘書が俺に向かって頭を下げる。一応そのことについては素直に認めて謝罪をするんだな。正直に言って、もっと言い訳をしたり、こちらの責任にするのではないかと少し疑っていた。
「昨日華奈様と瑠奈様から事態の状況をお聞きしましたが、ヒゲダルマ様からも状況をお伺いしたいのですが?」
「分かりました。ひとつだけ先にお伺いたいのですが、虹野はどうやってダンジョンの中に入ったのですか?」
「設置されておりました監視カメラなどによって確認しましたところ、大宮ダンジョンのゲートを警備していた者のひとりが虹野虹弥と繋がっていたようで、その者が協力して警備の隙をついてダンジョンのゲートへと侵入させたようです」
なるほど、ダンジョンのゲートを警備をしていた者のひとりが虹野の協力関係にあったわけか。普段は数人でゲートを警備していたが、そのうちのひとりが協力していたなら、確かに他の者の目を盗んでダンジョンに侵入することも可能かもしれない。
「それで、その協力者については話を聞いたのですか?」
「……いえ。その協力者につきましては昨日から行方が分からなくなっております。目下のところ、全力でその者の行方を追っております」
「……分かりました」
協力者については行方不明か。う~ん、怪しいところだけれど、まだ昨日の事件から1日も経っていないわけだから、そいつを確保できていなくても仕方がないと言えば仕方がないか。
さすがにこの段階でダンジョン協会が完全にクロとは決めつけられない。とはいえ、怪しいということに変わりはないので、こちらの情報については慎重に話すとしよう。
「それで昨日のことについてですが、配信中に華奈と瑠奈の配信を見ていた人から連絡があって……」
昨日の俺の行動についてを百武さんへと説明していく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます