第56話 事情聴取②


「……そんな感じで華奈と瑠奈とダンジョンを脱出しました」


「なるほど、貴重な話をありがとうございました」


 昨日の出来事を百武さんへ話した。俺が話している間は後ろにいた秘書のような人が話を聞きながらメモを取っている。


 リスナーさんから2人の前へ虹野が現れたことを聞いて急いで華奈と瑠奈を助けに向かい、36階層にいるモンスターから逃げたり倒したりしながら虹野の前へ辿り着き、虹野が攻撃してきたため反撃して最後は魔物の群れに呑みこまれていったところまで正直に話した。


「昨日ツインズチャンネルのおふたりより聞いたお話と一致しております。ツインズチャンネルの配信および、ヒゲダルマ様の配信に残っていた映像と音声からも皆さまが罪に問われることはないと思われますのでご安心ください」


「それはよかったです」


 やはり俺の配信チャンネルもすでに確認済みか。とりあえず俺や2人が罰せられることはないようで少し安心した。


「ヒゲダルマ様には先日の六本木モールでの件で立てこもり犯の逮捕にご協力していただき、その際に貴重なマジックアイテムを提供していただきましたことにもとても感謝しております。今回の件につきましても謝礼金をお渡しさせていただければと思います」


 先日の六本木モールでタヌ金さんを助けに行った時のことだな。


「……あれはたまたま事件が起きた際に現場の近くにいただけで、マジックアイテムを提供した対価もしっかりもらっているのでお気になさらず」


 その件についてはそういう話で店の人たちに伝えているし、透明腕輪を渡したことについては対価として結構な金額をもらっている。


「おかげさまであちらのマジックアイテムにつきましてはダンジョンの外でなんらかの事件が起こる前に使用禁止マジックアイテムとして指定できることができました。また、対策についても事前に研究できることができるので感謝しております。まあ、対策についてはまだしばらく時間が掛かりそうですが」


 さすがにあの透明腕輪はダンジョンの外で悪用されたらまずいもんな。このダンジョンのそこそこ奥から出てきたマジックアイテムだから、解析して対策をするには少し時間が掛かるかもしれない。


「そういえば使用禁止マジックアイテムについてですが、虹野はどこから誘引の蜜や狂戦士の腕輪、高性能な魔石、マジックシールドなどを手に入れたのかわかりましたか?」


「大変申し訳ないのですが、そちらも現在調査中となっております。禁止マジックアイテム入手の足取りは難しいのですが、マジックシールドにつきましては入手先が非常に限られておりますので、現在そちらの線から調査を進めております」


「なるほど」


 虹野が持っていた禁止マジックアイテムや貴重な魔石などの入手先はまだ不明な状況だが、これについてもまだたったの1日しか経っていないし、マジックシールドから探っていくというのも理にはかなっている。


 昨日のうちにリスナーさんたちと話し合って想定していた対応の中でもまともな対応だし、もしかしたら本当に今回の件にかんしてはダンジョン協会が仕組んだということではないのかもしれない。


「虹野虹弥が所有していた禁止マジックアイテムや魔石などは持ち帰れなかったのですよね?」


「はい、さすがにあのフロア内に魔物が集まってきていて一刻を争う状況だったので、虹野が持っていた武器やマジックアイテムなんかは回収できなかったですね」


 ……それについては真っ赤な嘘である。あいつが持っていた使用禁止マジックアイテムについては重要な証拠にもなり得るので、リスナーさんたちと予め相談してダンジョン協会へは提出せずに俺が持っていることにした。


「承知しました。ヒゲダルマ様、この度は本当にありがとうございました。謝礼をお渡ししたいのですが、もし可能でありましたらヒゲダルマ様のご連絡先をお教えいただけないでしょうか? こちらに登録されている連絡先はつながらなかったものでして」


「そうですね、こちらになります」


 以前に華奈と瑠奈に渡した配信チャンネル以外の連絡先を百武さんへ渡す。すでに配信チャンネルのことは知られてしまっているので、そちらの連絡先を渡すか迷ったのだが、今あっちの方は見ず知らずの人からの連絡で溢れているからな。


 俺の外での素性も知られてしまっていることだし、ここは大人しく連絡先を渡しておく。こちらもこの百武という男の名刺はもらったので、こちらからダンジョン協会へ連絡を取ることも可能だ。


「ありがとうございます」


「そういえば私の配信チャンネルはこのまま続けても問題はありませんよね?」


「ええ、もちろんでございます。他のダンジョン探索者様や配信者様の刺激にもなりますので、むしろぜひとも続けていただきたいですね! どうやら以前の動画はすべて削除されてしまっていたようですが?」


「……個人的にあまり目立ちたくなかったので、動画を公開した翌日に削除していただけです。今回の件もあって十分に目立ってしまったので、今後は削除せずに残していくつもりですよ」


「そうですか、それは素晴らしいです! きっとヒゲダルマ様の配信を参考にしたり、楽しみにしている視聴者様は大勢おられると思いますよ」


 元々そういう理由で動画を削除していたわけだが、ここまで広まってしまったら、もう動画を削除する理由もなくなった。


「ちなみにですが、もしも何かダンジョン内で大きな問題が起こった際にヒゲダルマ様へ協力をお願いすることは可能でしょうか? ヒゲダルマ様は日本でもトップクラスの実力を持っておられるようですし、前回のようなイレギュラーモンスター発生時などでお力を貸していただけますと非常に助かります」

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