住所不定の引きこもりダンジョン配信者はのんびりと暮らしたい〜双子の人気アイドル配信者を助けたら、目立ちまくってしまった件〜

タジリユウ@3作品書籍化

第1話 引きこもりダンジョン配信者


 ジュ~


 肉が焼ける際に奏でる音、肉汁があふれて脂の焼ける香ばしい香り、高温で一気に焼き上げることによってできた美しい焼き目。


 高温で両面を一気に焼き上げてから、すぐにアルミホイルで肉を包んで、数分間休ませる。こうすることで、余熱を利用して中までじっくりと熱を通し、肉汁を封じ込めることができるのだ。


「よし、ドラゴンステーキの完成だ!」


”んほお~うまそう! 昼間っからの飯テロはきついぜ! @月面騎士”

”飯の前に見るものじゃないな、腹の虫が鳴っちまう。 @たんたんタヌキの金”

”くそっ、マジでうまそう! 一口で良いから食ってみたい! @†通りすがりのキャンパー†”


 俺の左腕につけている金属製の腕輪から宙に文字が浮かび上がった。俺の周りを浮いている丸いドローン型のカメラが映像と声を配信しており、その配信を見た人が書き込んだコメントを宙に表示するという仕組みとなっている。


 ふっふっふ、みんな羨ましそうに俺が作ったドラゴンステーキを見てくれているな。それでは冷めないうちに早速いただくとしよう。


「かあああ、うまい! 噛めば口の中に肉汁が溢れ出して肉の旨みが広がっていく、肉なのにあまりにも柔らかくて舌の上で溶けていくような感覚だ! うん、やっぱりブラックドラゴンの肉はドラゴンの肉の中でも断トツの旨さだな」


”ぐあああ、頼む! ダンジョンにいるみんな、オラに肉を分けてくれ! @月面騎士”

”相変わらずうまそうなもん食ってるなあ。昔に比べたらだいぶ調理方法も凝ってきているし。 @†通りすがりのキャンパー†”


「ちゃんと焼く時には牛脂ならぬドラゴン脂を使っているからな。これだけ良い肉だと、別の油を使うだけで雑味になっちゃうんだよ。それと塩コショウは焼く直前で少し多めにかけるのがポイントだ」


”いや、調理方法とかでそこまで変わんね~からwww 問題はそのブラックドラゴンの肉だっての! @月面騎士”

”ブラックドラゴンの肉、一度でいいから食べてみたいよなあ…… @たんたんタヌキの金”

”いや、シレっとブラックドラゴンの肉とか何言ってんの!?”

”おっ、このチャンネルに新規の視聴者なんて珍しいな。最近新しい人はまったく来ないのに。 @たんたんタヌキの金”

”確かに。てかこの配信内容なら、普通にもっと他の人に見られていてもおかしくないんだけれどね…… @月面騎士”

”そりゃ髭だらけの怪しい男が飯を食ってる配信を見るより、可愛い女の子が映っている配信を見るわな。 @†通りすがりのキャンパー†”


 どうやら今日は珍しく新規の視聴者さんが来てくれているらしい。


 俺のチャンネルの常連視聴者さんの言うことは尤もだな。俺でも女の子が映っている配信の方を見ると思うぞ。


”キャンパーがなんで厨二なハンドルネーム付けてんだよ……じゃなくて、ブラックドラゴンってマ? あれって確かダンジョンの奥にしか出てこないモンスターだろ。釣りにしてもせめてレッドドラゴンくらいにしておこうぜ?”

”気持ちは分かるんだが、これマジなんだよな。 @月面騎士”

”俺が初めてこの配信を見た時もそんな反応だったわ。懐かしみが深いな…… @†通りすがりのキャンパー†”


「まあ、信じるかどうかは置いておいて、本物のブラックドラゴンだぞ。ほら、普通の肉よりも黒っぽいだろ。それでもレッドドラゴンの鮮やかな赤い肉より美味いんだから、本当にこのダンジョンってのは不思議だよなあ。うん、うまかった、ごちそうさま」


 大きめに焼いたドラゴンステーキを平らげ、コメントに対して反応をする俺。


 普段はあまりコメントに反応しない俺だが、やはり新規の視聴者さんが来てくれることは嬉しい。とはいえ、いつも通り視聴者さん相手にタメ口だし、そこまで親切な回答でもない。配信した動画の編集をしたり、タイトルを考えたりもしていない。


 これだから俺の配信は人気が出ないのだろう。そもそも人気者になったり、有名配信者になってお金を稼ごうと思って始めた配信じゃないから、別に構わないんだけれどな。


「さてと、午後はどうするかなあ。あ、そういや卵を切らしていたんだ。確かコカトリスは35階層辺りに生息していたはずだな。コカトリスの肉も少なくなっていたし、ちょっと狩りに行ってくるか」


”……いくら何でもツッコミ待ちだよな、これ? コカトリスの卵って、あの高級食材のコカトリスの卵だろ、何でこの人はちょっとスーパーで卵買ってくるか、みたいなノリで言ってんの?”

”懐かしい、俺もまさに今とまったく同じようなツッコミ入れたわw @†通りすがりのキャンパー†”

”やっぱり普通に考えたら意味が分からないよね……こうやって普通の反応をしてくれると、すごく助かる~ @WAKABA”


「おお、WAKABAさんはお久しぶり。珍しく今日は人が集まっているな。11人も見てくれているぞ!」


”……今度は11人で多いとか言い出したぞ。有名なダンジョン配信者なら、何万何十万とかが当たり前なのに。何なのこの配信者?”

”気持ちはもの凄くよく分かるが、もう少しだけ見てやってくれ。多分面白いものが見られるぞ。 @たんたんタヌキの金”

”ヒゲダルマさんお久しぶりです。相変わらずの凄いヒゲですね! もう少し身だしなみをちゃんと整えれば、もっと人気が出て話題になると思うのになあ…… @WAKABA”


 WAKABAさんはいわゆる古参と呼ばれる視聴者で、俺が配信を始めた当初からずっと俺の配信を応援してくれていた視聴者さんだ。


 彼女……実際には会ったことがないから、本当に女性かは分からないが、彼女やキャンパーさんには本当にお世話になった。それこそ、前に視聴者さんたちからいろいろなアドバイスをもらっていなければ、間違いなく俺は死んでいただろうな。


「まあ、人気とかはいいよ。それにここにいれば滅多に人と会うことなんてないから、身だしなみに気を付ける必要なんてこれっぽっちもないしな」


 ヒゲダルマというのは俺の配信者としての名前だ。昔から俺はヒゲの伸びる速度がとても早く、毎日ヒゲを剃らないと、すぐに今の俺のようにヒゲがボウボウになってしまう。


 それと最近は髪も切っていないから、それこそヒゲダルマという名前の通り、ヒゲモジャの達磨みたいになっている。さらに服はボロボロで、その上からはモンスターの素材を使って作った手作りの防具を着こんでいるので、どこからどう見ても昔の蛮族のような格好をしている。


 そもそもこの配信は外でいろいろとあって、ダンジョンに引きこもっていた俺が、あまりの孤独に耐えられなくなって始めた配信だ。目立ちすぎるとダンジョンで暮らしていることに突っ込まれてしまうから、むしろ少ない視聴者さんたちだけでいい。


「よし、それじゃあちょっくら行ってくるか」


 防具と同じようにモンスターの素材から俺自身で作った武器を担いで、このダンジョンのセーフゾーンと呼ばれるモンスターがいない場所に洞窟を掘って作った俺の家を出る。


 今の俺にダンジョンの外に帰る家はない。俺はダンジョンの中に住居や畑を作ってダンジョンで生活をしている。しばらくこの階層に人は来ないだろうからできることだ。


 軽く走って巨大な門のある場所へと移動した。この門はゲートと呼ばれ、どこの階層に行きたいかを念じながらこのゲートを通ると、行ったことがある階層に限ってだが、一瞬でワープすることができる。本当にこのダンジョンというものは人知の力を遥かに超えているな。


「相変わらずどういう仕組みをしているんだか……」


 ファンタジーの産物にしか過ぎなかったダンジョンが現実の世界に突如現れて、もう数十年が過ぎた。当然の如く、当時は様々な混乱が起こっていたようだが、法整備などが進んだ今では、ダンジョン内を探索して未知のモンスターの素材やアイテムを探し出す探索者という職業が生まれた。


 そしてここ最近では、ダンジョン内の様子を撮影し、配信するダンジョン配信者という職業まで現れた。もちろんダンジョンの中はとても危険で、命を落とす可能性だって十分にある。


 しかし、それ以上にダンジョンから持ち帰ることができる物には世界中の人間が魅了された。この世界上には存在しなかった魔石によるエネルギー資源、世界最高級の食材のさらに上を行く美味なる食材、そしてなにより不思議な力が宿ったマジックアイテム。


 ダンジョンには人生すべてを変えてしまうほどの魅力があった。……まあ俺にかんして言えば、そんな魅力に惹かれてダンジョンに入ったわけではなく、すべてを失い自暴自棄になって、半ば死ぬ気でダンジョンに入っただけなんだけど。




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この作品を読んでいただき、誠にありがとうございます(o^^o)


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