第146話 53階層


「……おっ、ようやく見つかったか」


「今日で5日目かあ~やっぱりヒゲダルマさんでも探索の時間だけは短縮できないよねえ……」


「当たり前だよ、零士。慎重に進んでいたら、探索にはどうしても時間がかかってしまうからね。むしろヒゲダルマさんのおかげで戦闘と解体も早く終わって、間違いなく普段よりも早く探索できているよ」


 那月さんたちと仮のパーティを組んでから5日目。ようやく52階層へ進む青いゲートが見えてきた。


 確かに那月さんの言う通り、探索自体は早く進んでいたけれど、実際には51階層を8割方マッピングした辺りでようやく青いゲートを発見できたので、時間は結構かかった方と言ってもいいだろう。


"那月様の言う通り、めちゃくちゃ早いからね! 普通に探索していたらこの倍はかかっていると思うよ!"

"まあ、次のゲートまでの道が分かる都合のいいマジックアイテムなんかもないからなあ。ダンジョンさんも手加減してもう少し探索しやすくしてほしいところだ。これじゃあ、人の寿命で100階層まで行けるか分からないぞ。もちろん100階層で終わるのかも知らないけれどさw"

"年々ダンジョン探索も効率化してきて、マッピングや武器や防具の性能も向上しているから、いずれはいけるだろうな。だけどワイの寿命の範囲内に誰か100階層まで到達してほすぃ~!"

"ダンジョンのある世代に生まれたら、そう思うのは当然だよな。まあ、今は地道にこうやって攻略を進めてもらうかないさ"


 100階層ねえ……


 確かにダンジョンで100階層を超えるとどうなるかはダンジョンが世界に出現した時から議論されていた。そもそも200、300階層と続く可能性もあるし、下手をしたらダンジョンに終わりなんてないのかもしれない。


 100階層を攻略すると、攻略した人の願いがなんでも1つ叶えられるとか、この世界を手にすることができるとか、天国に行けるとか、もはや何でもありな説も多く飛び交った。誰かが100階層まで到達したら、すべてのダンジョンが消えるという説もあった。もしそれが本当だったら俺は本気で困るが……。


 もちろん俺も100階層のボスモンスターを倒したらどうなるかは興味があるけれど、もう今の俺は攻略をやめてダンジョンの中でのんびり過ごすと決めたからな。100階層を目指すのは誰かに任せるとしよう。すべてのダンジョンが消えるというのだけは勘弁してほしいけれど。


「52階層は草原のエリアか。時間的にはまだ数時間あるから、この階層も少し回ってみようか?」


 青いゲートを進むとこれまでの沼地だったエリアから景色が一変し、青空の下の草原へと移動した。ダンジョンの中は階層によって天気が固定されているので、どんよりとした曇り空から天気も青空へと変わっている。


 やはりダンジョンの中とはいえ、先ほどの曇った沼地よりも青空の草原の方が気分はいい。


「ええ、そうしましょう。もしヒゲダルマさんが問題なさそうでしたら、52階層は以前に私たちがマッピングしてある道を進んで、直接53階層へ進みたいと思うのですが、いかかでしょう?」


「ああ、もちろん俺は問題ないよ。確か那月さんたちが今攻略しているのは53階層だもんな」


 ダンジョン探索者や配信者の中には、攻略やマッピングなど、すべて自分の力で行いたいという人も少なくない。俺は効率的に攻略できれば良い派だな。


 というか、そもそも横浜ダンジョンの攻略は時間との戦いだったため、40階層まではリスナーさんや華奈と瑠奈が集めてきたマップ情報で進んできたから今更である。


 那月さんたちは現在53階層まで攻略を進めているそうだし、草原エリアの52階層はショートカットしてもいいだろう。


「ありがとうございます。ええ、現在は53階層を探索しておりますので、ヒゲダルマさんアドバイスをいただければと思っております。これまでの探索スピードから考えて、おそらく今日中に53階層まではいけそうですね」


「52階層の青いゲートはそこまで遠くねえからな」


「今日はそこまででちょうどくらいかな」


 どうやら53階層へ進めるゲートはここからそれほど遠くないようだ。当たり前だが、この広い階層の中のゲートの位置さえ分かれば、先へ進むのにそれほど時間はかからない。


 マッピングの情報が価値を持つというのはそういうことだろう。今回も次のゲートまでの道がわからないように赤いゲートから出発する際は方向がわからないようにしばらく配信を止めた。


 これまで全員で探索をした51階層はともかく、那月さんたちが苦労してマッピングした52階層の情報を無償で渡すのは俺も嫌だからな。




「53階層は雪原か……」


 無事に3時間ほど進んだところで、青いゲートへと辿り着いた。51階層での探索の苦労を思うと、多少は味気ない気もするけれど、それよりもこの階層の景色の方が気になってしまう。


「しかも気候が吹雪で視界が悪くて、面倒くせえんだよ……」


「遠くまで見えないからゲートも見つけにくいんだよね。おまけに雪で足を取られるし、寒いから温かくて動きにくい装備をしないといけないから大変なんだよ……」


「……なるほど、攻略に手こずるのも当然だ。これだけの悪条件が重なる階層も珍しいな」


 横浜ダンジョンの53階層を見渡して、ダンジョン探索者や配信者なら誰もがそう思うであろう感想を述べた。

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