第12話 お弁当


 お昼の時間になって、彩音が僕の席にやってくる。


「弟君、いっしょにご飯たべよ?」

「うん、いいけど。僕食堂にいくけど」


 僕はちょうど、食堂に行こうとしていたところだった。

 いつも父さんは忙しいし、僕も料理なんかできないから、昼飯は購買か食堂で済ませる。


「え? 私、お弁当つくってきたよ?」

「え……?」


 すると、彩音はお弁当箱を2つとりだした。

 も、もしかして……僕の分も……?


「僕の分も作ってきてくれたんだ。ありがとう」

「お姉ちゃんだもん、当然だよ」


 そういえば、朝ごはんも作ってくれたんだよな。

 しかも、二人分のお弁当まで……。

 彩音はどれだけ早起きしたんだろう。

 とてもうれしいし、ありがたい。


 二人で席をくっつけて、お弁当を食べる用意をする。

 するとそこに、高橋さんもやってきた。


「私も一緒に食べていいかな?」

「うん、もちろん」


 そういえば、彩音はいつも多くの女子生徒に囲まれてご飯を食べていたっけ。

 高橋さんがやってきたのを皮切りに、他の女子生徒も集まってきた。


「私も私もー!」


 気がついたら、僕は女子5人に囲まれて、お弁当を食べていた。

 どういう状況なんだこれ……。

 お弁当に集中したいけど、それどころじゃない。

 しかもみんな、僕に興味津々って感じで、じろじろ見てくる。


「シンくんは、彩音のことどう思ってるの?」


 ギャルの西沢さんが聞いてくる。

 いきなりそんなこと言われてもな……。


「どうって、普通に、面倒見のいいお姉ちゃんって感じかな……。ご飯もつくってくれるし、朝もおこしてくれるし、正直ありがたいよ……」

「へー、いいなぁ。仲良しなんだねぇ」


 僕が褒めたせいで、彩音は照れている。


「ふふ~ん。弟君に褒められたー♪」

 

 女子たちの質問攻撃のせいで、なかなかお弁当に手を付けられずにいると……。

 彩音が、「食べないの?」ときいてきた。


「あ、いや……食べるよ」

「よかったら、お姉ちゃんがあーんしてあげようか?」

「えぇ……!? みんなの前で、やめてくれよ……」

「いいからいいから、はい、あーん」

「あーーん」


 彩音からのあーんは正直、欲しい。

 僕は流れであーんってしてしまう。

 彩音が可愛いから、つい乗ってしまう。


「どう? おいしい?」

「うん、おいしいよ」


 実際、彩音の作る料理はどれもおいしかった。

 そんな僕らの様子を見て、西沢さんは、


「二人って超なかいいよねー! いいなー私も弟ほしいよー!」


 とか言い出した。

 なんか、みんな弟ってほしいものなのか?

 僕みたいな弟いても、羨ましくないだろ?


「ねえ、私にもあーんさせて?」

「は……?」


 すると西沢さんは自分のお弁当からおかずを一個とって、僕にあーんしてきた。


「はい、あーん」

「あー……ん…………」


 断るわけにもいかず、僕は西沢さんからもあーんされてしまう。


「どう? 美味しい?」

「うん、おいしい」


 彩音のとは味が違うけど、西沢さんのお弁当も確かに美味しい。


「よかったぁ。これ私がつくったんだ」

「え……? 西沢さんが?」


 西沢さんってギャルだし、自分で作ってるのは意外だった。

 てか女子ってみんな料理うまいんだな。

 ていうかなんで僕は女子の手料理をあーんされまくってるんだ!?

 これって他の男子から見たら嫉妬ものなんじゃ……!?


 ふと教室を見渡すと、周りの男子たちからの怨念を感じた。

 なんかめちゃくちゃ見られている……。


 すると高橋さんも悪乗りなのかなんなのか、


「あ、私も私も! 私もシンくんにあーんする!」

「えぇ……!?」


 と、僕は女子たちから次々にあーんされるのだった。

 しまいには、彩音が嫉妬で怒りだした。


「もう! 弟くんは私だけの弟くんなんだから! みんなそこまで! 弟くんも気軽に誰からでもあーんされるんじゃありません!」

「は、はい……」


 私だけの弟くんか……。

 なんか独占欲を向けられるのも、悪くないな……。

 僕もつい、断るのが苦手で、乗せられてしまった。

 だって、可愛い女子たちからあーんされたら、断り切れないよ……。

 僕は久々に、贅沢な昼休みを過ごした。

 

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