第2話 お姉ちゃんでしょ?弟くん?


「こちらが、あたらしい義母さんの真理さんだ。そして、娘の彩音ちゃんだ」


 父が週末、再婚相手とその娘を家に連れてきた。

 どうやら今日からうちで住むらしい。まあ、勝手にどうぞと思っていた。

 その顔を見るまでは……。


「どうも……こんにちは……」

「ど、どうも…………」


 恐る恐るあいさつし、玄関にいくと、そこにいたのはあの、クラスメイトの霜月彩音だった。

 まさか、僕の見間違いじゃないだろうな……?

 っていうか、幻覚?

 霜月彩音が好きすぎて、僕はとうとうこんな幻覚まで見るようになったのか……!?

 向こうは……僕になんか気づいていないよね。きっと……。

 一応同じクラスメイトだけど、どうなんだろう……?

 くそ、決まずい。


 親同士がなにやら話ているが、まったく頭に入ってこない。

 肝心の霜月さんはというと、もじもじと恥ずかしそうにしている。

 僕が目を合わすと、目線をそらそうとする。

 これってもしかして、僕嫌われてる……?

 クラスメイトだとは、さすがにバレてないよね……? どうせぼくなんて覚えられてすらいないだろう。


「とにかく、立ち話もなんだし、あがって」

「そうね。お邪魔するわ」

「じゃなくて、今日からはここが君の家なんだから」

「そうだったわね。ただいま……雄二さん」


 新婚夫婦がそんなラブラブなやりとりをする中、僕と霜月さんもそれに連なってリビングへ。

 親たちはリビングのテーブルに座り、僕と霜月さんは少し離れたソファに座った。

 親同士で話があるから、二人で仲良くなっておけとのことだ。

 いきなり二人きりにされたって、なに話ていいかぜんぜんわからないよ……。

 霜月さんは僕のよこにかわいらしくちょこんと座る。


 なんだか横を見ると、うちに霜月さんがいるなんて……信じられない。

 今までは遠くで見ることしかできなかった、あの霜月さんがだぞ。

 しかも、その霜月さんは今日から僕の義姉になるのだという。

 まあ、義姉っていっても学年は同じだし、誕生日のおそいはやいでしかないんだけど。

 僕これからどうなっちゃうんだ……やっていけるのか。


 横を見ると、霜月さんの端正な横顔が見える。

 いつも遠くからながめているのとは違って、とても近くにいる。

 うわ……まつげなっが……。めっちゃいい匂いするし……。

 なんて考えていると、なんだか決まづくなってきた。

 そうだ、さすがになにかしゃべらなきゃ。


「あ、あの……飲み物でものむ……?」


 僕はきょどりながら、もごもごした声でなんとかそう声をかけた。


「そうだね……。うん、お願いするね」


 霜月さんはこんな僕にも、満面の笑みで応えてくれた。

 はぁ……天使だ。

 僕は冷蔵庫から、二人分のジュースをとってきて、グラスに注ぐ。


「はいどうぞ、霜月さん」


 僕がそういって手渡すと、霜月さんは僕の手をぎゅっとグラスごと握ってきた。

 グラスを受け取る手を、そのまま離さない。


「あの……霜月さん? 手離さないと、グラス渡せないよ」


 僕がそう言うと、霜月さんはまるでいつもとは人が変わったように、


「ねえ、弟くん?」

「はい……?」


 僕にそんな呼びかけをする。まるで、小さな歳の離れた弟にいうように。

 あのぼく、一応クラスメイトなんですけど……?


「霜月さんじゃないでしょ? だって、私たち今日から姉弟になるんだし、苗字は同じに成瀬でしょ?」

「あ、そ……そうだね……じゃあ、あ、彩音さん……?」


 僕は恐る恐る、その名を呼ぶ。

 いくらなんでも、クラスメイトの女子の名前を呼ぶなんて、僕にはいささかハードルが高すぎる。

 だけど、他に呼びようもないし、しかたない……。

 だが、僕の勇気出して呼んだその名前にも、彼女は御満足いただけなかったようで。


「じゃなくて、彩音おねえちゃんでしょ?」

「はい…………?」


 僕は素っ頓狂な声をあげた。

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