第3話 このお姉ちゃん、グイグイきすぎやろ……。


「じゃなくて、彩音おねえちゃんでしょ?」

「はい…………?」


 わけがわからなかった。

 そんないきなり、クラスメイトを、しかも好きな子を、おねえちゃんと呼べだなんて、無理すぎる。羞恥プレイだ。


「あ、あの……彩音さん。それはさすがに……ほら、僕たち同い年だし……、それにその……」

「クラスメイトだから?」

「あ、うん。そう」


 あ、僕がクラスメイトだってわかってたんだ。ちょっとだけうれしい。

 僕みたいな目立たない生徒でも、彩音さんは把握しているんだな。


「でも、私のほうが誕生日先だし……? おねえちゃんでしょ?」

「いや、親からきいた話だと、2か月しか違わないけど……」

「で、でも……! おねえちゃんにかわりはないでしょ! ね、弟くん!」

「その弟くんってのなに……」


 なんだかさっきから、彩音さんが僕を見る目が怖い。まるで小さな子供を見るような感じで、僕のことを見てくる。しかも弟扱いしてくるし、いったいどういうつもりなんだ……!?


「私、ずっと弟がほしかったの! だから、ね? いいでしょ? しんくん? おねえちゃんって呼んでみて?」


 あ、彩音さんちゃんと僕の名前も知ってくれてるんだ。ちょっとうれしい。


「お、おねえちゃん……」


 僕はしぶしぶ、そう呼んでみた。てか呼ばされた。恥ずかしい。めっちゃ恥ずかしい。


「きゃあああああ! おねえちゃんですって! もうかわいいなぁ弟くんはぁ! はぁいおねえちゃんですよー! よしよしー」


 そう言いながら、彩音さんは僕の頭を犬のようにわしわししてくる。そして僕のあたまを抱えるようにして、自分の膝に。


「うぇえええ……!?」


 彩音さんのふとももが目の前に……!?

 しかも、胸とか腕とか、いっぱい当たってる……。

 いったいどういうつもりなんだ……!?


「ちょ、ちょっと……! あの……恥ずかしいんですけど……!?」

「私たち姉弟なんだから、このくらい普通だよ! 恥ずかしくないよー?」

「えぇ……!? その前に僕らあったばかりなんですけど……!?」

「でも、クラスメイトでしょ? いつもあってるじゃん」


 とはいえ、クラスでほとんど話たこともない。

 それなのに、家族になったからとはいえ、いきなり距離がちかすぎじゃないか……!?

 なんでこの人こんなに弟好きなの……!?


「と、とにかく……おねえちゃんって呼ぶのは家でだけだから……! その、学校で弟くんとか呼ばないでね……?」

「えぇ……? なんでぇ……?」

「呼ぶつもりだったんかやっぱり……」


 僕はあきれてしまう。

 彩音さん……いや、おねえちゃんは。

 こいつはとんでもねえブラコンだ。

 しかも、さっきできたばかりの弟に対してのこの溺愛よう。

 筋金入りの妄想変態ブラコンやろうだ……!!!!

 僕はそう確信した。


「あの……なんでそんなに僕のこと、弟にしたいの……?」

「だって、ずっと弟が欲しかったんだもん。かわいい弟をかわいがりたい、それって普通のことでしょ?」

「いや、そりゃ本当の弟ならそうかもしれないけど……さっき会ったばかりの、しかも同じクラスの男子だよ……? 僕陰キャだし……」

「そんなことないよ! 同じクラスの男子であるまえに、神くんは私の家族で、大切な弟だよ! だから、全然変なことじゃないよ! ほら、もっとおねえちゃんにぎゅーって、させて?」

「うええええええ!!!!??!!?」


 そう言うと、お姉ちゃんは――いや、もう彩音でいいや。

 彩音は、両手を広げて、僕のことをぎゅーっとハグしてきた。

 く、苦しい……。

 主に胸とかがあたって、鼻から甘ったるい女の子の臭いが入ってきて、いろいろと、その……ズボンとかが苦しいです、ハイ。


「マジで学校では他人のふりしてくれよ……?」

「えぇ……ん。お姉ちゃんそれじゃさみしいなー」

「マジでか……霜月さんがこんな人だとは知らなかった……」


 僕の中の霜月さんはもっと、クールでシャイな人ってイメージだった。

 もっと清楚でおとなしいイメージだったのに、まさかこんなブラコンだとは……。


「霜月さんじゃなくて、彩音おねえちゃんでしょ?」

「は、はい……彩音おねえちゃん……」


 彩音は僕にまたハグしようとしてきた。

 僕は逆らえずに、とりあえずお姉ちゃんと呼んでおくことにする。

 まったく、この先が思いやられるぞ……。

 このお姉ちゃん、グイグイきすぎやろ……。

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