第14話 幼馴染

 

 学校のすべての授業が終わって、ようやく放課後だ。

 なんだか今日はどっと疲れたな……。

 みんなに囲まれて、質問攻めにあって……。

 普段目立たなかった僕が、まるでクラスの中心だよ。

 転校生って、こんな気分なのかな。


 かばんを持って、帰ろうとしていたら彩音がやってきた。


「一緒に帰ろ、弟くん」

「あ、うん。そうだね」


 まあ、そりゃあ帰る家が同じなんだから、一緒に帰るのは当然か。

 僕も彩音も部活はやってないしね。

 僕らが一緒に教室を出ていくもんだから、溝口くんたち男子が「ひゅーひゅー」と茶化す。

 ほんと、やめてほしいよな……。

 まあ、次第にみんなも慣れるだろう。

 僕もなんだか段々彩音に慣れてきた。

 もう自分が弟であることを完全に受け入れちゃってるもんね。

 いやー慣れって恐ろしい……。


 教室を出ると、そこに待っていたのは、僕の友人である「とも」だった。

 とも――本名は家永ともこ。

 そう、彼女はこんな地味な見た目をしているが、れっきとした女性である。

 僕の唯一の女ともだち。

 まあ、ともとはずっと一緒だから、異性っていう感じはしないんだけどね。

 ともも地味な見た目で、眼鏡におかっぱ頭で、化粧もしてないし。


「やあ、ともじゃないか。今朝はごめんね。一緒に帰ろっか」

「う、うん……」

 

 そういえば、朝でるとき、ともに先に行くってLINEしてそれっきりだったな。

 なにを隠そう、僕とともはいつも一緒に登下校しているのだ。

 ともは僕の家の隣に住んでいるから、目的地が一緒なのだ。

 まあ、幼馴染ってやつだ。

 今日も一緒に帰ろうと、待っていてくれたのだろう。


「どうしたの……? とも?」


 ともはなんだかいつもと様子が違う。

 なんだか委縮した感じっていうか、遠慮がちだ。

 元々地味な感じのともだけど、今日は一層地味だ。

 ともの視線を追うと、彩音のことをじっと見ているのがわかった。

 そっか、彩音か……。

 僕が彩音みたいな可愛い子と一緒にいるから、ともはびっくりしているんだ。


「お友達?」


 と彩音が僕にきく。


「ああうん、お隣さん。幼馴染なんだ。名前は家永ともこ。いっつも一緒に登下校してるんだけど、いっしょにいいかな?」

「もちろんだよ。弟くんのお友達なら、私も大歓迎! 三人でかえろっか」


 彩音は誰に対しても人当たりがいい。

 さすがは陽キャだ。

 初対面のともにも気さくに笑ってみせる。

 だが、人見知りのともは全然違う。

 ともは恐る恐る、僕に尋ねる。


「あの……シンくん。その人って、……今弟くんとか言ってたけど……。どういうことなの……?」


 あ、そっか。

 ともは隣のクラスだから、知らないのか。

 っていうか、隣のクラスにも噂されてそうなものだけどな……。

 ともは友達少ないから知らないのか?

 まあ、普通に説明しておくか。


「ああ、こちらは成瀬彩音。まあ、昨日までは霜月彩音だったんだけど。僕の姉だよ」

「そうだよ! シンくんのお姉ちゃんなのです! 彩音です! よろしくね? ともちゃん」


 彩音の元気な挨拶に、ともはちょっとびっくりして、ぎこちない笑みを浮かべる。


「よ、よろしく……。お姉さん……って、でも……シンくんって一人っ子じゃなかった?」

「あーうん、親が再婚したんだよ。それで、同じクラスの彩音が姉になったってわけ」

「そ、そうなんだ……。でも、仲いいんだね……」

「あ、ああ……うん、まあね」


 ともの視線は、僕と彩音の手にいっていた。

 僕と彩音が手を繋いでるのを見て、仲がいいと思ったのだろう。


「手、繋いでるから、最初彼女さんかと思った……。でもまあ、シンくんに彼女って、あり得ないよね……」

「ちょっと! ともさん? それどういう意味かな……!?」


 まったく、ともの言いぐさは酷いな。

 僕にだって、万が一彼女ができていてもおかしくないだろい!

 

「でも……よかった。彼女じゃなくて……」

「ん? それどういう意味かな……!? 僕に彼女ができちゃいけないのかよ!」

「そ、そうじゃないけど……」


 まったく、友人なら友人の幸せを願ってくれよ。

 僕なら、もしともに彼氏ができたら喜ぶけどな。

 いや……でも親友をとられたような気分になって、ちょっとは落ち込むかもしれない。

 

「ま、とりあえずかえろっか」


 ということで、三人で下校することになった。


「……で、なんでこうなった……?」


 僕の右手には、彩音の手が繋がれている。

 そして僕の左手には、ともの手がつながれている。


「ねぇ、なんでともまで僕の手を繋いでるさ……?」

「なんでって、彩音ちゃんも繋いでるんだから、いいじゃん。別に」

「いや、まあいいんだけどさ……。その……友達同士で手をつなぐってどうなの? おかしくない……?」

「それをいうなら、姉弟で手をつなぐのだっておかしいし……」

「いやまあ、そうだけど……」


 朝、彩音と二人で手を繋いでいただけでも、かなり周りから注目された。

 三人で手を繋いでいると、今朝以上の注目を受ける。

 これ……かなり恥ずかしいな……。


「ねえ、どうしても僕と手をつなぎたいの……?」

「もう……いいでしょ別に……! 私だけ仲間はずれなの……!?」

「いやぁ、ともがこんなに嫉妬深いとは思わなかったなぁ……」

「べ、べつに嫉妬してへんし!」

「関西弁……!?」


 まあ、僕にとも以外の仲のいい人なんて、いままで正樹くらいだったからな。

 女友達はとも以外にはできたことがなかった。

 まあ、彩音は女友達じゃなくて、姉だけどさ。

 僕もともに仲のいい男友達とかできたら、嫉妬するかもしれないな。

 まあ手をつなぐくらいなら、別にいいか……。

 なんだか彩音のせいで、僕も常識がおかしくなってる気がするぜ……。

 前はこんなスキンシップは苦手だったけど、もう慣れてしまった。


「「両手に華だね」」


 二人は両脇から、顔を見合わせて言う。

 

「そうだねぇ……はは……ま、これはこれでいいか……」


 僕は両手にあたたかいぬくもりを感じながら、家に帰るのだった。




===========

【あとがき】


次話からまた姉とイチャイチャするぜ……!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る