第13話 やっと一息
お昼を食べ終わって、昼休み。
僕はトイレにいったあと、屋上に逃げるように移動した。
さっきまでクラスメイトに追い回されて、一人で落ち着く暇もなかったからな……。
屋上はいつも僕の隠れ家だった。
まあ、本当は入っちゃいけないんだけどね……。
屋上から景色を眺めていると、急に声をかけられた。
振り向くと、そこにはクラスメイトの瀬尾
正樹はクラスで唯一よく話す友人だ。
お互いにアニメが好きで、入学当初から仲良くしている。
「やっぱりここにいたか、シン」
「まさき」
「大変そうだな。人気者は」
「ほんと、勘弁してほしいよ……」
「俺も話しかけたかったけど、周りがあれだとな……」
「だよね……」
正樹もどちらかといえば、おとなしめの生徒だ。
だが、けっこうイケメンだしサッカー部だし、陰キャってわけでもない。
「ま、がんばれよ。弟くん」
「やめてよ……正樹まで」
「まじで、羨ましい限りだぜ」
「正樹は家での彩音を知らないからそんなこと言えるんだよ。かなりとんでもないんだから……」
「そうなのか? でもよ、実際シンとしてはよかったんじゃねえの? 前から霜月彩音のこと好きだっただろ?」
「まあ、そうだけど……って、なんでそのこと知ってるの……!?」
僕は好きな人の話なんか誰にもしたことない。
友人の正樹ですら、それは知らないことのはずだ。
いったいどこから情報漏洩が……。
「お前の視線見てたら気づくって……。たぶん本人も気づいてたんじゃねえ?」
「うっそだろ……おい……そんなに僕彩音のこと見てたのか……そんなつもりなかったんだけどな……」
「嘘つけ絶対見てたゾ」
「マジか……」
目は口程に物を言うというけど、まさかそれほどとは……。
じゃあもしかして、彩音も僕の思いに気づいてたってことなのか?
そのうえで、彩音は僕を弟として慕っている?
よくわからないな……。
「お前、あの霜月彩音にめちゃくちゃ好かれてるじゃん。これって、両想いってことなんじゃねえの?」
「うーん、どうなんだろう……彩音のはあくまで弟としてってだけだろうからな……」
「ここは思い切って、告白してみればどうだ……?」
「いや……ないでしょそれは……いきなりすぎるし、それにそんな勇気ないし……。それにそもそも姉弟だし……」
「まあ、告白とまではいかないでも、姉弟であることにかこつけて、いろいろやればいいんじゃねえか?」
「いろいろって……?」
「例えばだな、家族であることを利用して、ハグしたり、一緒に寝たりだな……なかなか妄想が捗るな……」
「あー、うん……」
はい、ハグは既にしてるんだよなぁ……。
それも、向こうから。
一緒に寝ようとしてくるし、主に彩音のほうから。
うーん、これも他人にいったら裏山死刑案件なんだろうなぁ。
「まあ、とにかく、男子としては羨ましい限りだって話だ。今のうちに幸運を楽しめ! きっとこれがお前の人生の頂点だ!」
「うえーこれが頂点なのは嫌だな……縁起でもないこと言うのやめてくれよ……」
たしかに宝くじが当たったような幸福の中に、今僕はいる。
だけど、僕はまだ知らなかった。
僕の人生の頂点は、まだまだこれからだということに――。
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