第10話 休み時間1


 先生がとんでもないことを言うもんだから、クラスがざわつく。


「霜月さんち、再婚したんだー」

「へー、うちもだよ」

「でも、成瀬って苗字、うちのクラスにもういるよな。ややこしー」

「成瀬となんか関係あんのか? まさか再婚相手は成瀬の親父だったりして」

「ないない」


 いや、そのまさかです。

 クラスメイトのざわつきに、彩音は素直に答える。


「うん、そだよー。シンくんは私の弟になったんだー」


 その一言で、クラスに一瞬の静寂……の後――


「うおおおおおマジかよ!」

「うっそだろおい」

「クッソォ成瀬うらやましいぜ」

「裏山死刑な」

「てか成瀬ってだれだよ」

「ああ、なんかいたな。地味な男子」

「霜月彩音が姉になるとかどんな幸福だよ」

「宝くじにあたったようなもんだな」


 いやまあ、それは僕も感じてる。

 彩音が姉になるなんてほんと幸福だ。

 まあ、いいことばかりじゃないけどね……。

 みんなは彩音の弟狂いを知らないからなぁ……。

 実際のところ、彩音は超やばい弟狂いで、僕は嬉しさ半分、困ってもいるのだ。

 てか、僕クラスでの影薄いな……。

 まあ、実際僕は目立たないし、そういう認識のされかたでも不思議じゃない。

 むしろ、僕のことを可愛いなんて言ってくる彩音と高橋さんがおかしいのだ。


「いいなぁ、霜月が姉とか、家にずっと霜月がいるってことだろ……!?」

「いや、もう霜月じゃねえって、成瀬」

「成瀬じゃややこしいだろ、俺彩音ちゃんって呼ぼうかな」

「きもいからやめろ、成瀬もお前なんかに彩音って呼ばれたくないだろ」


 陽キャ男子たちが勝手にもりあがる。

 それに対して、彩音も、「いいよー、彩音って呼んでも」と軽く答える。

 彩音って誰にたいしてもフランクで、やっぱ陽キャだなぁ。

 僕とは全然タイプが違う。


「やった! さすが彩音ちゃん! 話がわかるね~」

 

 陽キャ男子の溝口くんがガッツポーズ。

 やっぱりみんなからしても彩音は人気なんだなぁ。

 そりゃあ、可愛いもんな。

 他人の評価をきくと、やっぱり今の状況がいかに異常かわかるな。

 霜月彩音が家にいるなんて、かつての僕が聞いたら仰天して喜ぶだろうな。

 でもなんだか、彩音が他の男子に名前で呼ばれているのをきくと、なんかもやっとするな。

 これ、嫉妬なんだろうか。

 いや、姉が名前で呼ばれただけで嫉妬するのもおかしな話だ。


「はいはい、静かに。みんな、成瀬姉弟にはいろいろ聞きたいこともあるだろうが、続きは休み時間なー。まあ、二人とは変わらずに仲良くしてやってくれ。私からは以上だ。それじゃあ、授業はじめるぞー」


 先生が手を叩いて、みんなを静止する。

 しばらくざわつきはおさまらなかったけど、先生が怒りを見せるまえに静かになった。

 そして、来る鬼門の休み時間。

 授業終了のチャイムが鳴ったと同時、僕と彩音の席に、クラスメイトたちがそれぞれ群がった。

 彩音がなにをきかれているのかは、こっちからだとよくわからない、が、おおよその見当はつく。

 彩音を取り囲んでいるのは、ほとんどが女子だった。

 僕の方には、もっぱら男子が集まってきた。

 普段話したこともないような、陽キャ男子まで僕のもとに集まってくる。

 こんなに注目されたのは、高校に入って以来初めてだった。


「おい成瀬、お前マジかよ。超うらやましいじゃん!」


 溝口くんが話しかけてくる。


「いや……僕もびっくりだよ。まだ現実味がない」

「いいよなぁ、彩音ちゃんのパジャマ姿とか見放題だろ?」

「まあ、それはそうかもね……」

「他にも、パンツとか一緒に洗濯するんだろ……!?」


 その発想はちょっとキモイな。

 一緒に洗濯どころか、あの人洗濯物から僕のパンツパクってましたけどね……?

 まあ、そんなことは口が裂けても言えないよね……。

 

「……それで、みたのかよ」

「え……? なにが?」

「なにがって、彩音ちゃんの裸だよ裸! 家族なんだろ!? 風呂とか覗き放題じゃねえか!」


 いや、そんなことはない……。

 てか家族でも風呂は覗いちゃだめだろ。

 裸はまだ、幸いなことに?見てないけど……でもパンツは見たな……。

 彩音のことだから、裸くらい見られても平気とか言ってきそうだけど、逆に怖いなそれは……。

 他にも下ネタでセクハラギリギリのことをきいてくる男子たち。

 みんな考えることは一緒か……。

 てか、みんな馬鹿だよなぁ……。

 彩音が重度の弟狂いだって知れば、みんなも僕の苦労がわかるだろうに……。

 彩音と一緒に暮らすってことは、そういいことばかりってことでもない。


 すると、溝口くんの頭を、ぽこっと叩いて、高橋さんが会話に参加した。


「もー、男子って馬鹿ばっか。彩音のこと、そういう目でみないでくれる?」




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【あとがき】


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