第21話 彩音


 私の名前は、霜月彩音……じゃなかった。

 私はもう、成瀬彩音なんだった。


 そう、私の母は再婚して、最近、私には同じ年の弟ができた。

 前から、弟ってほしかったんだよね。

 それに、お姉ちゃんになるってことに、憧れがあった。

 だって、お姉ちゃんって、いつも優しくて、とっても素敵じゃない?

 私も、立派なお姉ちゃんになって、弟くんから愛されたいなぁ。


 私の弟になるのが、同じクラスの成瀬神くんだって知って、最初とてもうれしかった。

 だって成瀬くんのことはもともと知っていたし、とても可愛い男の子だと思っていたから。

 特に成瀬くんは、背も低くて、弟タイプだ。

 たくさん甘えてくれそう。

 あんな男の子が弟だったらいいなって、思ってた。

 そんな成瀬くんが弟になって、すごくうれしかった。

 私も、ちゃんと素敵なお姉ちゃんになれてるといいな。


 弟くんとはすぐに打ち解けた。――たぶん。

 私は魅力的なお姉ちゃんだと思ってもらえるように、頑張った。

 まあ、ちょっと張り切りすぎちゃったところもあるけど……。

 だって、弟くんができて、ほんとにうれしいんだもん。

 もっと、弟くんを喜ばせたい。

 もっと弟くんと仲良くなりたい。


 初日は上手くいったと思う。

 そして、ついに2日目、お父さんとお母さんが家にいない。

 私は、思い切って弟くんのお風呂に乱入した。

 裸の付き合いをしたら、仲良くなれるっていうしね。

 それに、家族なんだからなにも恥ずかしくないよ。

 

 私はお姉ちゃんとして、たくさん弟くんを愛したい。

 弟くんになら、なんだってしてあげたい。

 ちょっとえっちなことでも、弟くんになら、って思ってしまう。

 だけど、お風呂からあがって、布団に入って、弟くんは、私にその先を求めてきた。

 弟くんに求められることは、うれしい。


 だけど、家族なんだから、その先はできない。

 私だって弟くんのことが大好き。

 だけど、どうやら弟くんは私のこと、異性として好きみたい。

 付き合ってほしいって言われたけど、それはできないよね。

 だって、私はお姉ちゃんなんだもん。


 私だって、弟くんとできれば一つになりたい。

 弟くんの願いは全部かなえてあげたい。

 けど、私はお姉ちゃんなんだから、しっかりしないとね。

 ちゃんと、いけないことはいけないって、一線はひかないと。

 

 だけど、困った。

 一緒に布団に入って寝ようとするも、なんだか眠りにつけない。

 弟くんは横でもう寝息を立てている。

 だけど私だけなんだか、寝付けずにいたのだ。

 なんだか、心臓がバクバクいって、身体が熱い。


(うう……どうしようどうしよう……)


 布団の中で、私は考える。

 隣には、弟くんが寝ている。

 今日は、かなり大胆になっちゃった。

 弟くん、喜んでくれたかなぁ……。


 私は、弟くんのことが大好きだった。

 だって、私はお姉ちゃんなんだから、当然だよね。

 弟くんのこと、いっぱい愛してあげるのがお姉ちゃんだよね。

 だって、家族なんだから。


 でも、さっき弟くんに「好き」って言われて、不覚にもどきっとしてしまった。

 弟くん、私と付き合いたいって、私と一つになりたいって、そう思っていてくれたんだ。

 それって、なんかうれしいし、恥ずかしい。

 誰かから、こんなふうに好きって言われたことなんかない。


(どうしよう……好きだって……)


 でも、弟くんの気持ちに答えることはできない。

 だって、家族だし。

 私がお姉ちゃんなんだから、そこは惑わされないように、私がしっかりしなくちゃ。

 だけどなんでだろう、弟くんの顔が見れない。

 なんか、弟くんのこと意識すると、すごく赤くなる。

 前は全然平気だったのに、なんでなんだろう。


 でも、弟くんだって、男の子なんだし、そりゃあ、お姉ちゃんのこと好きになっちゃたりするよね。

 けど、私のほうが弟くんのこと、ちゃんと弟として面倒みないと。

 私は、絶対に弟くんのこと異性として好きになっちゃったら、だめ。

 そうなったら、このせっかく築いた姉弟の関係が壊れちゃうから。


(ダメったら、ダメなんだから……)


 私は自分にそう言い聞かせる。

 弟くんが、ふとこちらに寝返りをうった。

 弟くんの寝顔が、目の前にある。

 かわいい。

 思わず、ドキッとしてしまった。


(んもう、可愛いんだから……ずるいよ……そっちだけ好きになって……)


 私は弟くんの可愛い寝顔に、つんつんした。

 写真でもとっておこう。

 私は弟くんの寝顔をこっそり撮って、待ち受けにした。

 これで、いつも一緒だ。


 弟くんには、ほんとうに、なんでもしてあげたい。

 えっちなことだって、お姉ちゃんにできることならいくらでも。

 弟くんだって男の子なんだし、えっちなことはしたいと思う。

 私も、可愛い弟くんをたくさん愛してあげたいし、なんでもしてあげたい。

 けど、恋人になることだけは、できないんだ。

 だから、どうか、この心臓の鼓動がはやく止まることを祈って。

 私は目を閉じた。

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