第20話 好きの距離


「弟くん……また、おっきくなってる……」


 僕は彩音のパジャマの上を脱がせて、胸を揉みしだく。


「いいよ、好きなだけ。好きにして……」


 何度もキスをしたり、胸を触ったり。

 そしてついに、僕は彩音のパンツを脱がせて、自分も下を脱ごうとした、そのときだった。

 急に、彩音から制止されて、拍子抜けする。


「あ、それはダメ……!」

「え……どういうこと……」

「だって、それはダメだよ。だって私たち、姉弟なんだよ? 家族なんだよ? だから、この先は絶対だめ。私たちは、恋人じゃないんだよ?」

「そ、それはそうだけど……え……? い、今更……!? キスはいいのに……!?」


 意味が分からなかった。

 彩音も僕のことが好きで、てっきり男として、僕のことを求めているのだと思っていた。

 布団に呼ばれたということはつまりそういうことなのだろうと思っていたのだが、違ったのか?

 いきなりおあずけをくらって、行き場を失った僕の情欲はどこへやら。


「キスはいいよ? だって、家族でする挨拶だもん」

「でも、けっこうエッチなキスだったよ……!?」

「うん、エッチなことは別にいいんだよ。だって弟くんのこと、気持ちよくしてあげたいもん」

「でも……その、最後までするのはダメなの……?」

「うん、それは、恋人同士ですることだから……」


 彩音の基準がよくわからない。

 普通は、キスも恋人同士ですることだ。


「じゃ、じゃあぼくと恋人同士になるっていうのは? 僕、本当に彩音のことが好きなんだ……! それは、家族としてだけじゃない。家族になる前から好きなんだ……!」

「それはできないよ……だって家族で恋人同士って変じゃんそんなの……」

「それはそうだけど……」


 変というなら、これまでだってそうだ。

 家族でお風呂に入ったり、キスするのだって十分変だ。

 彩音の中での基準がまったくわからない。


「じゃあ、僕は彩音の恋人にはなれないってこと?」

「そうだね……」

「もし、家族になる前だったら? 家族になる前に、僕が告白してたら、うまくいってたかな?」

「うん。そうだね。もしそれなら、OKしてたと思う」

「なんだよそれ……」


 じゃあ、僕は親が再婚してしまったせいで、一生好きな人とは恋人になることができないってことか……?

 それって、なんなんだよ。

 好きな人は姉だから、恋人にはなれないなんて。


「ごめんね……弟くんの気持ちはうれしいよ。でもお姉ちゃんはあくまでお姉ちゃんだから、弟くんのお姉ちゃんにはなれるけど、恋人にはなれないんだ」

「わけがわからないよ……」

「でも。弟くんのことは世界一大好きだからね」

「うん……」

「そうだ、その……こっちはダメだけど、代わりに、お口でしてあげるから、ね……?」

「え……?」


 それはいいのか……?

 わけがわからない。

 なにが基準なんだよいったい。


 すると、彩音は布団の中に潜って、いきなり僕のものを咥えはじめた。


「う……」

「ほう……? ひもひいい?」

「うん……気持ちいよ。あたたかい」

「じゃあ、いっぱいぴゅっぴゅして、気持ちよく寝んねしましょうね」


 そのあと、僕は彩音にたくさん癒してもらって、一緒に寝た。

 だけど、横に彩音がいて、僕らはたしかに好き同士だというのに、決定的に距離がある。

 このo.o1mmの距離がもどかしい。

 僕は、このさきいったいどうすればいいのだろうか。

 彩音は、お姉ちゃんでしかないのだろうか。

 僕の中にはっきりと芽生えた、この思いはどこにぶつければいいのだろう。


「彩音……好きだ……」

「弟くん、私もだぁいすきだよ」


 僕と彩音の「好き」は、別の好きなのだろうか。

 それとも、同じ好きなのだろうか。


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