第22話 照れ期


 はあ、昨日はすさまじい一日だった。

 彩音とついに一線を越えてしまったからな……。

 けど、結局僕は振られたみたいな感じになっちゃったんだよなぁ……。

 でも、彩音と恋人になれなくても、彩音は僕のお姉ちゃんであることに変わりはないんだ。

 こうなったら、いっそ開き直ってたくさんお姉ちゃんに甘えるとしよう。


 朝、目が覚めると、すでに布団に彩音はいなかった。

 おそらく起きて朝ごはんをつくってくれているのだろう。

 僕は一人で、ベッドの中で、目が覚める。

 さっきまで、横で彩音が寝ていたんだよな……。

 なんだか、こうして彩音の布団に包まれていると、彩音に抱っこされているような気分になる。

 いかんいかん、僕もはやく起きて支度をしないと、遅刻してしまう。


 下に降りると、彩音は思った通り、朝ごはんを作ってくれていた。

 ちゃんとお弁当も用意してある。

 ありがたいなぁ……。


「おはよう、お姉ちゃん」

「あ、うん。おはよう、弟くん」

「なんか、今日も可愛いね。お姉ちゃん」

「ふぇ……!? う、うん……あ、ありがとう……えへへ……」


 ちょっと勇気を出して、照れさせてみた。

 ほんとに可愛い。

 彩音と恋人になれなくても、こうやって思いを伝えるだけなら、なんにも不思議はない。

 だって、姉弟なんだから、そのくらいのコミュニケーションは当たり前だ。


「お姉ちゃん、今日もご飯つくってくれたんだね。ありがとう。大好きだよ、お姉ちゃん」


 僕は弟であることをいいことに、彩音に思いを伝える。

 家族なのだから、愛情を確かめ合うことはなにも変なことじゃない。


「ふぇ……!? う、うん……。私も弟くんのこと大好きだよ。もう……朝からなにいってるの……」


 彩音は照れて目を逸らす。

 すごくかわいい。

 

「も、もう! おかしなこといってないで、早くご飯たべよ?」

「う、うん」


 一緒にご飯を食べて、支度をして、家を出る。

 今日は、僕から手を繋いでみようかな。

 僕がいきなり手をつなぐと、彩音はすっと手を跳ねのけた。


「え……? どうしたの? お姉ちゃん」

「あ、いや……なんでもないの。いこ」

「うん」


 一瞬、手を跳ねのけられてびっくりしたけど、彩音はすぐにまた手を求めてきた。

 よかった、もしかして嫌われたんじゃないかと……。

 家の前で、友人の「とも」とも合流して、三人で学校まで行く。

 もう三人で手を繋いで歩くのにも慣れた。


 学校についてからも、彩音はどこか上の空だった。

 僕が話しかけても、あまり話をきいていない気がする。

 いったいどうしたというのだろうか。

 なんか、避けられているような気もする……。


 昼休みになっても、彩音にご飯に誘われなかった。

 あれ、おかしいな……。ちょっと寂しい。

 彩音はどうやら女子たちに連れ去られて、別の場所でご飯を食べているみたいだ。

 みんなで食堂にでもいったのかもしれない。

 弁当を持ってきている生徒でも、付き合いで食堂でいっしょに弁当を食べるというのはよくあることだ。


 一人になった僕は、友人の瀬尾正樹と一緒にご飯を食べることにした。

 教室で僕の机で、正樹と二人で食べる。


「おい、どうしたんだよ。今日はあの鬱陶しいお姉ちゃんいないの?」

「鬱陶しいお姉ちゃんって……彩音のことね……」

「さっそく姉弟喧嘩か? 傍からみててなんだか今日は距離があるように感じたけど」

「そうなんだよね……なんか避けられているような気がするっていうか……」

「お前、昨日なんかしたのか……?」

「いや、まあしたといえばしたけど……」


 一緒にお風呂入ってあんなことしたりとか、一緒に寝たりとか……。

 あげくに僕が告白まがいのことをしたりだとか……。


「なにをしたんだ? 正直に言ってみろ。この正樹さまが相談に乗ってやる」

「実は……告白めいたことを言ってしまった……気がする……。その場の流れで、そういう風になっちゃったんだよね……」


 一緒にお風呂であんなことをした、なんて話はさすがに他人にはできない。

 だけど、告白のことなら、いいだろう。

 正樹は深くため息をついた。


「はぁ……なんだ、惚気るのもいい加減にしろよ?」

「え……?」

「あのな、それはおそらく、霜月さんは照れてるだけだ」

「えぇ……? そうなのかなぁ……?」

「霜月さんの気持ちにもなって考えろ、今まで弟くんとして見ていたお前が、急に男を出してきて、思いを伝えてきた……そうなれば、異性として意識してなくても、意識してしまう、それが女の子ってものなんだ」

「君に女の子のなにがわかるのさ……」


 正樹は女にモテるタイプじゃない。

 僕が言えたことじゃないけど、きっと女性経験は皆無だろう。


「とにかく、ちょっとお前が攻めたから、照れてるだけだって」

「そうなのかなぁ? 女心はよくわからないや……」

「昨日だって一緒に寝たんだろ? なら大丈夫だよ」

「うーん、まあそうだけど……」


 って、え……?

 なんで一緒に寝たこと、正樹が知ってるの……?

 まさかこいつ、カマかけてきたのか……!?


「おい、今お前なんつった!? うーん、まあそうだけどって言ったか……!?」

「あ、しまった……」

「おい、お前霜月彩音と一緒に寝たのかよ……!?」

「正樹、まさかカマかけたのか……!?」

「お前~羨ましすぎるだろ!!!! けしからん!」

「いやまあ、一緒の布団で寝ただけだって……それ以上はなにも……」

「嘘つけ~! このやろ~!!!!」


 はい、僕は今嘘をつきました。

 正樹は僕の首を絞めようとしてくる。

 やめてくれ。

 しばらく正樹とじゃれあっていると、教室に彩音が帰ってくる。

 彩音と目があう。

 彩音はこちらに微笑んで、手を振ってきた。

 僕も振り返す。


「おい、なんだよ。ぜんぜん仲良しじゃねえか。マジで羨ましい奴め……」


 正樹にめちゃくちゃ睨まれた。

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