第7話 あーんして?


 一階のリビングに降りると、そこには出来立ての朝ごはんが置いてあった。

 それにしても、いつになく豪華な朝ごはんだ。

 父さんはこんなに料理うまくないし、義母さんかなと思ったけれど、二人の姿が見当たらない。


「ねえ、お姉ちゃん……父さんと義母さんはどこかな……?」


 まさか二人きりになるために殺したとか言わないよね……。

 でもこのヤンデレ気質の姉ちゃんならやりかねない……。


「ああ、二人はね、長めの新婚旅行にいったのよ」

「うえええ……!? 新婚旅行……!?」


 そういえば、昨晩そんなこと言ってたな。

 でもだったら、この家には僕と彩音だけだってこと……!?


「そう、二人っきりだね、弟くん!」

「うわあああああああ!!!! マジかあああああああ!!!!」

「どうしたの? お姉ちゃんと二人きりだよ? うれしくないの? あんなことや、こんなこと、なんでもできるんだよ?」

「僕と何する気だよぉ……」


 どうしようか、好きだったJKと家に二人きりとか、ただでさえ頭おかしくなりそうな状況だ。

 それなのに、とうのその相手が完全に頭おかしいんだもんなぁ……。

 こんなマジキチお姉ちゃんと二人きりなんて……。

 なにが起こるかわからない。

 不安だ……。


「ってことは、この料理は……?」

「そう、お姉ちゃんね。朝早くおきて、弟くんのためにつくったんだよ?」

「そ、そうなんだ……それは、ありがとう」


 それは素直にありがとうだ。

 彩音は家族になったばかりだというのに、こんな僕にも優しくしてくれる。

 しかも、僕とは同級生だ。

 本来どっちが上とかないはずだ。

 それなのに、朝ごはんを作らせてしまって申し訳なく思う。

 本来なら、僕も早起きして手伝うとかしなきゃいけなかった。


「ごめんね、お姉ちゃんだけに作らせてしまって」

「いいんだよ! 弟くんはぐっすり寝ていて。お姉ちゃんがやりたくてやってるんだから、これからも、毎朝弟くんのごはん作らせてね?」

「お姉ちゃん……ありがとう」


 それは素直にうれしいし、助かる。

 正直僕は料理なんて全然できっこない。

 彩音のつくった料理は、一流レストランにも負けないほどの見た目をしていた。


「それにしても、朝からこんなに……すごいな……」

「弟くんのために、愛情込めて作ったからね! いろいろお姉ちゃんのエキスが入ってるよ!」

「ん……? え……?」

「お姉ちゃんのあんなお汁やら、お姉ちゃんのパンツやら、お姉ちゃんの唾液やら……いろいろ入ってるよ!」

「うえええええええええ!??!?!?!! さ、さすがに嘘だよね……?」

「もちろん嘘だよ! お姉ちゃんジョークだよ!」

「だ、だよね……よかった……」


 さすがに冗談きついぜぇ……姉貴ぃ……。

 なんだか食べるのが怖くなってきた。

 見た目は完璧だけど、本当にこれ食べて大丈夫なのか……?

 僕が二の足を踏んでいると。

 彩音がフォークをとりだして、ぼくの口の前に食べ物を差し出してきた。


「な、なにしてるの……」

「なにって、ほら、あーんだよ。あーんして?」

「は、恥ずかしいよ……」

「ううん。恥ずかしがらないで。ここには弟くんとお姉ちゃんしかいないよ? ほら、あーんして」

「あ、あーん……」


 可愛い彩音に上目遣いでそんなふうに言われるとつい僕も乗ってしまう。

 これだからこのお姉ちゃんは質が悪いんだ。

 本当ならお姉ちゃんとか意味不明だし、無視すればいいんだけど、可愛いから、ついつい許してしまう。


「ほら、美味しいでしょ?」

「う、うん……美味しい」


 彩音の作った料理は、本当に美味しかった。

 さてと、そろそろ学校にいく時間だな。

 僕が立ち上がると、今度は彩音が僕のズボンに手をかけてきた。


「な、なに……? 今度はなに……!?」

「はい、じゃあ脱ぎ脱ぎしましょうね? お姉ちゃんがお着換え手伝ってあげますからね?」

「い、いらないよ!!!!」


 僕は急いで自室の鍵を閉め、制服に着替えるのだった。


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