第24話 女子の会話


【サイド:彩音】



 お昼になって、弟君を誘おうと思っていると、同じクラスの友人――高橋志津乃から声をかけられる。

 志津乃は愛想の悪い私にも積極的に話しかけてくれて、友達になろうとしてくれた、いいやつだ。


「ねえ、お昼一緒にたべよ?」

「あ、うん、でもまって、弟くんも誘っていいかな?」


 さっきから弟くんのこと避けてたみたいになってたから、弟くんの誤解をときたい。別に弟くんのこと避けてるわけじゃないのだ。ちょっと前と違って意識しちゃって恥ずかしいだけ。ほんとは弟くんともっと一緒にいたい。


「だめー」

「え……?」

「ちょっと今日は女同士でいろいろきかせなさいよ、その弟くんのこと」

「あ、ちょっと……」


 すると志津乃は私を引っ張って、教室の外へ連れ出す。

 西沢さんまで一緒についてきて、連行される。

 いったいなにを聞き出そうというのだ。

 私たち三人は食堂へやってきた。

 志津乃たちは食堂で定食を注文して、私はその横でもってきたお弁当を食べる。


「もう、弟くんと食べたかったのに……なんなの」

「その弟くんよ。なんか今日、昨日とようす違わない?」

「え……?」

「なんか二人が急にぎこちないなって、見てて思ったの」


 志津乃はするどいところついてくる。

 彼女にはなにもかもお見通しというわけだ。


「もしかして、昨日ヤった?」


 西沢さんがあけすけにきいてくる。

 ギャルってこういうこと平気でいうのか。

 女子の下ネタはえげつないっていうからな。

 普段私はそういう話をあまりしない。


「な、なにもしてないよ~」

「え~うそうそ! 絶対なんかあったって! ねえ、実際のところ、シンくんとはどこまで進んでるの?」

「え~?」

「だって、同じクラスメイトで、いきなりひとつ屋根の下で一緒に暮らすことになったんだよ? お互い思春期でいろいろお盛んな時期じゃん? なにか起きないほうがおかしいって」


 もう、志津乃はゴシップ好きなんだから。

 でもなんか、恋バナって感じで楽しいかも。


「だって、彩音ってもともとシンくんのこと好きだったじゃん」

「ふぇ……!?」


 いきなり志津乃にそんなこと言われて、びっくりする。

 たしかに私は、入学式のころからシンくんのこと見てて、気になっていた。

 でも、そんなこと誰にも話したことはなかったのだ。


「な、なんで……!?」

「わかるって。目線見てたらバレバレだもん。彩音って隠すの下手だし。で、その愛しのシンくんが弟くんになって、なにも起きないってはずないでしょ? どこまでいったのか、きかせなさいよ~!」

「え~……その、お風呂一緒に入ったり、一緒に寝たりはしたけど……」

「ひゅ~! まじか! やるじゃん彩音! けっこう奥手だと思ってたからびっくりだよ!」


 志津乃はまるでおじさんのような反応をする。

 西沢さんは、


「ほら、やっぱりヤったんでしょ!?」


 って下品な感じできいてくる。


「だから、やってないって! だいいち、私たちって姉と弟なんだよ? そんなことするのってやっぱりへんでしょ!」

「お風呂はいいのかよ……」

「お風呂は、家族だから平気だもん!」

「うーん、私はその感覚よくわかんないけど……。でも、別に姉弟でそういうエッチなことしてても、私は別に変だと思わないけどな~」

「え……?」


 西沢さんは、いろんな男子とそういうえっちなことしてるってきいてる。

 ギャルだから、その辺の感覚がちがうのかな。


「だって、弟くんのこと好きなんでしょ? だったら、別に関係なくない? やっちゃってもいいっしょ。だって、好きなんだし。それに血も繋がってないんだから、付き合っちゃいなよ!」

「で、でも……私の好きは弟として好きってだけだから……」

「それって、そんなに区別する必要あるのかな~? たぶん弟っちも、彩音のこと好きだと思うよ?」

「それはまあ、そうかもしれないけど……」


 もしかして、西沢さんの言う通り、姉と弟でもエッチなことするのは普通なのかも……?

 だったら、もっと弟くんとえっちなことしてもいいってこと……?


「姉弟で恋人になるって、おかしくないかな……?」

「うん、おかしくないおかしくない。付き合っちゃえ!」


 二人はそんなふうに私の背中を押す。

 もしかして、そういう選択肢もありなのかもしれない。

 弟くんと、恋人になってもいいのかな……?

 でも……やっぱ恋人って意識すると恥ずかしいな……。

 あくまで弟と姉と思ってたから、ちょっとえっちなことでも平気だった。

 家族でするキスと、恋人とするキスだとやっぱりいろいろ違うよね。


「実はね……弟くんに恋人になってくれって迫られたんだ……でも、私、弟だからって断っちゃった……」

「えーもったいない! てかシンくんあれで結構やるな~。いいじゃん、マジで付き合っちゃえば!」

「うん……二人がそう言うなら、いいのかも……」

「だって両想いなんだから。お姉ちゃん彼女ってことでいいじゃん!」

「お姉ちゃん彼女……」


 なんだか素敵な響きだ。

 お姉ちゃんで彼女って、なんかさらに特別でいい。


「次は彩音のほうから迫ってみたら?」

「わ、わかった。ちょっと恥ずかしいけど、やってみるよ!」

「よし、そのいきだ! 私たち応援してるからね!」


 二人と話したら、悩んでたこととか考えていたことが吹き飛んだ。

 やっぱり友達っていいな。

 ご飯を食べて、教室に戻ると、弟くんと目があった。

 やっぱり、弟くん可愛い。

 私の弟くんである前に、やっぱり異性としても、好きだ……。

 よし、がんばろ……!

 私は弟くんににこっと微笑み返して手を振った。

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