第31話 罠

「どこにも見当たらないですわ」

「やっぱりもう王都から出てしまったのではないでしょうか?」

「いや、必ず滞在しているはずだ。何か見落としてるのかもしれない」


 安宿を転々としたあと、しらみつぶしにブリジットの特徴を聞きまわっていた。

 冒険者ギルドも確認してみたが、それらしき人物はいない。


 髪型はショートカット、ピンク色で、高かったはず。

 女性だということを考えると割と目立つほうだ。


 だただフードを被っているだろうし、髪型や髪色を強制的に変化させる魔法もある。


 先入観は出来るだけ持たないようにしているが、それでもわからなかった。


 原作通りならいるはずだ。

 いや……待てよ。

 

 よく考えると彼女を直接探す必要はない。


 向こうから仕掛ければいいのだ。


「ルビィ、エマ、こっちを向いてくれ」

「どうしましたか?」

「デルクス様?」


 身長はルビィの方が小さい。

 エマは金髪でストレート、確か似ている気がする。


「エマにお願いしたいことがある。けど、これは危険な任務だ。心配なら――」

「私はデルクス様の為なら何でもできますよ」

「ズルいです。私も同じ気持ちですわ」


 二人は真剣な瞳で言ったあと、ニコリと微笑んだ。

 時間を掛けすぎると最悪な未来が待っているだろう。


 なら、急いだほうがいい。


「わかった。ルビィもありがとう。――エマ、今日から君は冒険者だ」

「え? ど、どういうことですか?」


   ◇


「はい。登録が終わりました。名前はミリカ・・・さんですね。パーティーメンバーの募集のお願いと張り紙を張っておきます」

「よろしくお願いします」


 エマことミリカが登録終えて戻ってくる。


「これでいいのですか?」

「ああ、後は変装して2.3日この王都で過ごすだけだ。悪いが宿も離れることになる」

「わかりました。後は手はず通りですね」

「悪いな。ちゃんと見てる」

「エマ、私もいますから」

「ありがとうございます。それでは」


 そういってエマは俺たちの元から離れた。

 一日目を過ごし、二日目を過ごし、そして三日目。


 ついにエマの冒険者メッセージボックスに手紙が入っていたらしい。

 宛先はエリアロスという名前だが、偽名のはずだ。


 深夜二時、王都近くの森で待っている。


「よし、後は俺がエマの恰好をしてフードを被る。二人は遠くから見ておいてくれ」

「いいえ、最後までやらせてください。もしバレたら現れないかもしれません」

「でも危険が……」

「承知の上です」

「デルクス、エマは本気ですよ」

「……わかった」


 予定時間の少し前、森の中でエマは、ミリカとして待っていた。


 そして時間通り、フードを深く被った人が現れた。


「ミリカ、なのか?」


 その声は、俺が原作で知っているブリジットだ。


 エマが振り返る。だがその素顔に気づいたブリジットは驚いて逃げ出しそうになる。

 その瞬間、俺は魔剣を構えて前に出た。

 ルビィが手のひらをかざし、魔法をいつでも打てる状態で姿を現す。


「……お前らアブラグ家追手か。よくもの名をかたってくれたな」


 そう、ミリカとはブリジットの妹だ。

 あえて罠を誘ったのである。


「落ち着いて聞いてくれ。俺たちはアブラグ家じゃない」

「……何だと?」

「ミリカのことは知ってる。けど、彼女は王都にいない。南の街、アリエにいるはずだ。そこまでブリジット、君を連れて行く」

「……どういうことだ? 妹に頼まれたのか?」

ああ・・そうだ。だから、一緒に――」

「嘘を……つくな! 一目でわかった。お前たちは強い。ミリカにそんなお前たちを雇うお金なんてないはずだ。嘘をつきやがって」


 するとブリジットは、背中から剣を取り出して構えた。

 簡単に信用してくれるとは思ってもなかったが、下手に魔力が高いおかげで余計に疑われてしまったらしい。


 だがこうなるだろうと思っていた。


 深呼吸をする。


 なら、一度叩き伏せてから言うことを聞かせればいい。

 生殺与奪の権利を主張したあとなら、彼女も言うことを聞くだろう。


「――ルビィ、エマ。俺がやる。見ててくれ」

「なんだ? 手加減のつもりか?」

「そうだ。けど俺はお前を殺るつもりはない。嘘もついてない。それを、証明する」

「……信用できるか」


 ブリジット・パーカーは奴隷上がりだ。

 そして暗殺者、護衛としての戦いを徹底的に教え込まれた。


 今まで戦った敵の中でも最強格だろう。


 俺は『フラグ』をぶち折る為に来ている。


 けど、戦いの楽しさも知っているのだ。


 どうせなら、楽しんでやろう。


「つべこべ言わずにかかって来い。奴隷ブリジット」

「――のやろッ!」



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