第19話 入学式――前。

「――10連撃」


 リミット先生の鋭い連撃が、俺の胸に突き刺さる。

 だがそのすべてが――無敵エフェクトの波紋が広がって弾かれる。


 そのまま返しに刺殺――初めて見る防御に驚くこの時を待っていた。


「ようやく完璧な勝利だぜ――リミット先生!」

「――惜しいですね」


 しかしリミット先生はあえて前に身体を突き出した。

 やられてみると、これしかない最高の一手だった。目測していた距離感がズレてしまう。


 チャンスとピンチは表裏一体。次の瞬間、俺の喉元には、鋭い剣の先端が突きつけられていた。


「……負けか」

「ですね。とはいえ今のは素晴らしかったです。正直、追い抜かされるのも時間の問題でしょう」

「よくいうよ。かなり余裕がありそうに見えたけどな」

「どうでしょうか」


 ニヤリと笑いながら眼鏡をあげる。

 まったく、底が知れない人だ。


 後ろでは、エマとルビィが見ていた。


「それにしても、入学式の前にまで仕合をしなくても良かったのではありませんか?」

「カッコつけようと思ってな。ま、ダメだったが」

「デルクス様はいつもお強いです。そういえば、今のルビィ様と戦っているところもみてみたいですね」


 エマのぽんとでた一言で、俺とルビィの視線が合う。


「だそうだ、ルビィ」

「確かにハッキリさせておくのもいいかもしれませんね」

「ええ!? もうすぐ入学式ですよ!?」


 ということで、俺たちは時間ギリギリにもかかわらず対峙することなった。


 彼女は炎を自由自在に操る。

 俺が助けるまでは能力を扱うことがほとんどなかったらしいが、今は意欲的だ。


 リミット先生の掛け声で、まず俺が駆けた。

 するとルビィは、連射性の高い炎を手のひらから放出した。


 たとえダメージが低くとも回避しなければならず、足が遅くなる。

 魔法の使いどころをよくわかっている。


 だが俺には飛行がある。

 むやみやたらに飛ぶのではなく、地面を滑るように移動しながら近づく。


「それは――悪手ですわ」


 俺の移動を予測していたのだろう。

 ルビィが巨大な炎を放つ。

 

 無効化を使う。彼女はそう思ったはず。

 だからこそ次の攻撃を仕掛けようと溜めていた。

 

 だがそれは――悪手だぜ。


「痛覚耐性があるんでな」


 一撃目の魔法を剣で叩き切る。

 そのまま突っ込んだ。これは炎だが魔法だ。


 術式を解除することで著しく効果は下がる。

 そのまま、剣を突き付けた。


「――俺の勝ちだ。ルビィ」

「ぐ、ま、負けましたわ……」

「すごい! デルクス様も、エマ様もすごいですよ!」


 嬉しそうに飛び跳ねるエマを見ながら自身の腕を見つめる。

 俺がデルクス・ビルスになってから無我夢中でここまできた。


 魔剣のレベルあげ、ルビィを助け、勝てないはずのオリヴィアとの勝利、無敵のドラゴンをも倒した。

 だがまだこれからだ。


「さあいこうぜ。遅刻しそうだ」


 だがそのとき、ルビィがふと一言。


「そういえば、今のデルクスとエマさんってどちらがお強いのですかね?」


 自然と、エマと目が合う。


「だそうだ、エマ」

「ふふふ、そうですね」


「え、もうすぐ入学式ギリギリですよ!?」


 

 結果だけいうと俺が勝利した。

 しかしエマは持ち前の怪力で俺を10メートル以上も空に飛ばした。

 初めてのタカイタカイは、案外気持ちが良かった。


 入学式は、もちろん遅刻した。

 

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