第12話 どうやら俺、結構強かったみたいだ

「お前も悲惨だな。――オレ様が相手だとは」


 地下にある試験会場。

 原作ではコロセウムを模倣して造られたこの場所の中心に、俺は立っていた。


 ――全員叩き潰す。


 そう思っていた矢先、とんでもない奴と当たってしまった。

 刈り上げられた短髪、デカい体躯、その手にはデカすぎる斧を持っている。


「そうだね。――ウルト・リーファリ、また・・デカくなったか?」

「お前のこと、よく虐めてたよなァ! 小さい癖にぴーちくうるせえからよお」

「ああ、そうだった・・・・・かも」

「ハハッ忘れちまったか! 都合のいい頭だな!」


 原作でのウルトは、主人公が学園に入学してから立ちふさがる最初の敵みたいなものだ。

 悪党としては小物だが、その力は凄まじい。


 恵まれた体躯には、やはり恵まれた魔力が宿っている。


 反対に俺――デルクスは小物中の小物。


 悪の影に隠れながらも出来る限り自分を誇示するだけのキャラクターだ。


 だが今は違う。


 ――俺は、変わったのだ。


 たとえこいつが強くても勝てばいい。

 泥臭くても勝てば自身の強さを証明することができる。


「デルクス、ファイトですわ!」

「デルクス様、頑張ってください!」


 ルビィとエマの声援が、唯一木霊する。

 視界の端で、原作主人公のオリヴィア・フェルトが涼しい顔で試合を見ていた。


 本来は自身が操作するのでわからなかったが、設定としてはクールなキャラだ。


 なるほど、俺たちの戦いをも研究するつもりだろう。


 この試験は勝ち抜き、試験では魔法使いと剣士は別の枠になっている。

 ルビィとは当たらない。


 ――なら、本気でやれる。


「試合は一本勝負、決闘内でダメージはあるものの、実際に損傷はない。とはいえ、身体の反動を舐めると痛い目にあう。気を付けろよ」


 試験官の言葉通り、この辺りはゲームと同じで、怪我はしないらしい。

 便利な魔術結界だ。


 俺は、手に魔剣を出現させた。


 すると周りが――笑い出す。


 対峙していたウルトも「ハハッ」と笑う。


 それはなぜか?


 この世界では武器を具現化させるのは効率が悪いからだ。

 基本的に弱者の技として認識されている。


 なぜなら、生まれ持って火を扱える奴もいるのだ。

 それはそうだろう。


「じゃ、秒殺するか」

「――ふうふう」


 深呼吸しながら、身体を小刻みに動かす。


 本気を出してちょうどいい相手だ。


 ルビィを助けた奴らは所詮本編には関係のない奴らだった。

 だがここにいる連中は違う。


 才能のある本編に関係している子供たちだ。


「試合開始――」


 声と共に、俺は駆けた。

 魔剣のレベルは30。


 リミット先生と何度も訓練をした。

 デカい斧、デカいやつ相手でも震えたりなんかしない。


 一歩一歩近づいていく。


 だがウルトは微動だにしなかった。

 こいつ、カウンターをするつもりか?


 やがて寸前のところまでたどり着く。

 ようやく、少しだけ動いた。


 ――何考えているんだ?


 そして俺はそのまま――ウルトの首を切り落とす――。


 だが、魔法結界によって実際にはそうならない。

 エフェクトだけ響いて、ウルトは――。


「ぐぁぁっあっあああ」


 大きな悲鳴を上げて、そして倒れこんだ。


 ……は?


「――しょ、勝者、デルクス!」


 次の瞬間、静寂から一転、歓声が――響く。


「ど、どういうことだ!? ウルトが一撃で!?」

「何が起きたんだ!? 何で倒れたんだよ!?」

「俺、見えたぞ。あいつ、一撃でウルトを倒したんだ!」

「嘘だろ。ウルトのやつ、防御もとんでもないはずだぞ」


 受験生たちが驚いている中、一番びっくりしていたのは俺だった。

 魔剣を消して、ウルトの死体(気絶)を眺める。


 ……あれ、もしかして俺、強い……のか?


 席に戻ると、ルビィとエマが喜んでくれた。


「流石ですわ。まあでも、余裕だとわかっておりましたが」

「当然ですね。負けるわけがありません」

「……え、そう思ってたの?」

「当たり前です。ルビィの炎を切るお人ですよ?」

「はい、その通りです」


 どうやら鼓舞する為に言ってくれているとばかり思っていたが、そうではなかった。


 俺は――強いらしい。


 だが俺だけの力じゃない。


 鍛えてくれたリミット先生、ここまで支えてくれたエマ、応援してくれたルビィの存在だ。


 そして続く二回戦、三回戦、同じように俺は原作での強者を倒した。


 それも想像よりもあっけなく。


 あまりにも弱すぎるので何か間違えているかのようだった。


 気づけば最後、決勝だ。

 これで勝てば、俺は試験トップだろう。


 だが当然――。


「オリヴィア・フェルト、前へ」


 俺の前に立ちふさがったのは、金髪の美少女、乳白色の肌、その手には弱者の象徴とされる構築剣――聖剣を手にした主人公だった。


「あなたの噂は知ってる。デルクス・ビルス。メイドをいじめてたり、他にもいい噂は聞かない。――私がひん曲がった性根を叩き潰す」


 それは、原作と全く同じ台詞だった。


 ……でも今の俺、割と優しいからね!?


 ――とはいえ、これでようやく本編スタートだ。


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