第13話 気づかぬうちにぶっ壊す。

 中庭のベンチから、ソードマジック学園の建物を眺めていた。

 全ての試験が終わったからだ。


 後はルビィの魔法使いの試験と、エマのメイドとしての試験が終わるのを待っている。


 剣士と違って、魔法テストは秘匿な部分が多い。

 

 1人だけ応援ができないのは申し訳ないが、二人が合格すること信じている。


 そのとき、俺を見つけた受験生たちがヒソヒソと話していた。


「あいつ、ヤバすぎだろ」

「ああ、さすがに……」

「マジで殺すつもりだったんじゃねえのか?」


 その言葉に、心がズキズキとする。


 ……やりすぎだったのか?


「ねえ」


 そのとき、ふと声を掛けられる。

 綺麗な金髪が揺れる。ハープのような声、原作主人公のオリヴィアだった。


「……なんだ?」


 なぜここに?

 すると、突然――頭を下げた。


「ごめんなさい! 私が、間違ってた」

「――え?」

「あなたの事、噂だけを聞いて鵜呑みにしてた。あの剣、あの強さ。間違いなく正義の剣だった。私にはよくわかった」


 ……驚いた。

 オリヴィアは正義感に溢れている上に真面目だ。

 にもかかわらず、たった一回の試験で戦ったことで認めてくれたとは。


 嬉しかったが、一方で返事にも困っていた。

 認められたことはいいが、あまり仲良くなりすぎると未来に影響ができるかもしれない。


 今後俺は、色んな死亡フラグを止めるつもりだ。

 そう考えると、原作主人公の行動はそこまで変わってほしくない。


 ありがとうと返したいが、それは――許されない。


「俺は俺だ。噂なんてどうでもいい」

「――そっか。君は強いんだね。――隣いい?」


 すると、突然座ってくる。

 何がしたいんだ……?


「手加減しないでくれたこと、嬉しかった。――おかげで、まだまだ強くなれるかも」


 えへへと笑った笑顔は、とても綺麗だった。

 俺はつい数時間前――彼女を叩き潰した。


『はぁっ……はぁっはぁあっ――ハアアアアアアア!』

『魔剣――飛行』


 圧倒的だった。

 俺は、自分が思っているよりも強くなっていた。


 だが彼女は血反吐を吐きながら何度も起き上がった。

 そのたびに叩き潰した。


 俺は無傷だった。一太刀も浴びせられることはなかった。


 だれそれよりもオリヴィアに驚いた。

 冷静沈着で傲慢という設定だったはずだが、そうは見えない。


 遠目から見た時は綺麗な肌だったが、今こうして近くで見ると無数の傷跡がついている。

 

 努力家なのだ。そして、間違ったことを訂正する正しい心を持っている。


 俺に負けても周りの目も気にせず声をかけてくるなんて、普通じゃできない。


 彼女は戦うのが好きだ。

 それは、原作の設定と同じだろう。


 強さの確認ができた上に、彼女からも認められた。

 これ以上は求めない。


「そうか。まあ、頑張ってくれ」

「ふふふ、自信満々だね。――それじゃあありがと、次は同級生としてよろしくね」


 そういって、オリヴィアは離れていく。

 彼女は二位だが、合格は間違いないだろう。


 筆記よりも実技が重要視されている学園で俺も一位だった。


 完璧に近い成功を収めた。


 後は原作で不満に思っていたイベントをクリアしていく。

 更に死亡フラグを回避、そして――自分自身の幸せも勝ち取る。


 まだまだこれからだ。

 けど――戦うのは思っていたよりも楽しかった。


 リミット先生、ルビィ、エマのおかげだろ――。


「……デルクス、浮気はいけませんわ」

「え? ル、ルビィ!? あれ、いつのまにエマも!?」

「金髪美少女の正統派美人、更におっぱいも大きい……これは強敵ですね、ルビィ様」

「絶対にデルクスは渡しませんわ!」

「何の話だよ。二人とも終わったのか」

「はい! 合格間違いなしですわ!」

「自信満々だなルビィ。エマは?」

「私も大丈夫だと思います。学園もみんなで一緒に登校しましょうね」

「そうか。ならよかった。――ありがとう、二人とも」


 どうやら試験に満足のいく結果だったらしい。

 内容まで聞く必要もないだろう。


 試験の結果、学園が始まるまでまだ時間もあるはず。


 さあ、次の死亡フラグを砕きにいくか。


 ――――

 ――

 ―


「――はああ……かっこよかったああ」


 デルクスと話した後、オリヴィアは物陰に隠れて頬を赤くしていた。

 圧倒的なまでの強者、更には自身をも超える努力を感じ取ったのだ。


 絶対的強さを求める彼女にとって、その感情は当然だった。


 ――カッコイイ。


「デルクス・ビルスか。噂ってやっぱりあてにならないな。反省……。次は、登校日かな」


 すべてのフラグをぶっ壊すと決めたデルクス。


 本来のオリヴィアは、誰も好きになんてならない。

 ただひたすらに強さに向かっていく。


 これこそが最大のフラグ破壊だったことは、知る由もなかった。


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