第14話 無敵のドラゴン

「ビア……それは本当の話か?」

「左様でございます」


 試験が終わってから少し日が立ち、肩の荷が下りた俺は、絶対死なせたくない推しノートをウキウキで作っていた。


 順番を付けるのは失礼なのでしないが、記憶を辿りながら死亡するキャラクターの名前と場所を記載。

 みるみるとノートが名前で埋まっていく。


 見る人が見ればデスノートだろう。

 実際、書いている俺の目も血走っていたかもしれない。


 さすがフラグ盛りだくさんのソードマジックファンタジー。


 だがもちろん幸せ恋愛フラグもある。といっても、俺が思い出していたのは叶わなかったキャラクターの破局エピソードだが。

 できればキューピットになりたい。


 とはいえ俺が一番したいことは、最高のソードマジックファンタジーをこの手で作り上げることだ。

 

 魔剣のレベル上げは、その手段に過ぎない。


 そしてその為には、原作主人公であるオリヴィアの動向を確認することが大事だ。

 行動が変われば当然フラグも変わる。


 俺に負けたことで何か変わるかもしれない。だがあれは必要だった。

 俺自身が主人公より強くないと、原作で止められなかったフラグを破壊できるわけがないのだから。

 

 それはいい、それはいいが――。


「七日間、武者修行の旅だと……?」

「みたいですね。入手した情報によると『私より強い奴に会いに行く』と書き置きがあったそうです」

「そんなどっかのゲームみたいな……」

「げぇむ? どういうことですか?」

「何なんでもない。ありがとうビア、今後もオリヴィアの動向を頼む」

「畏まりました。――青春は良いものですね」

「え?」

「あ、失礼。――それでは」


 扉を閉めてさっていくビアは、恋する男の子を見るような微笑ましい目だった。

 

 何か勘違いされてないか?

 だがエマに頼むわけにはいかない。


 問題は、オリヴィアの旅行期間だ。


 原作ではこの七日の間に、とある国で魔物を倒す。

 その結果、多くの人を助けることになる。


 だが今回の件に俺の推しや恋愛は含まれていない。


 俺は決して善人じゃない。


 全員を助けるなんて不可能だし、ただ自分の欲望を叶えようとしているだけだ。


 たとえ見過ごしても、何か変わるわけがない。


 ……とはいえ、未来は変え過ぎるのもよくないか。


 魔剣を出現させる。30レベルと表示された。


 面倒だが、レベルあげのついでと考えると悪くないかもしれない。


 俺は、とある文献を取り出す。


 この魔物は強い。

 それこそ、原作でも勝てなかった。


 オリヴィアができたのは、退けさせただけだ。

 

 だが魔剣のレベルを上げながら倒したほうがいい。


 俺は、とある本棚から魔物について書かれた書物を取り出す。


 そこには、俺がこれから出会う魔物の絵と生態が書かれている。


「さて……どうするかなあ」


 リミット先生は故郷に帰っている。

 ルビィとエマは来てくれるだろうが、危険すぎる。


 とはいえ、一人では勝てるとも思わない。


 イラストを眺めると、深淵の眼と鱗、巨大な鋭い爪は、全ての防御を貫通すると書かれていた。


「無敵のドラゴン相手に、どう戦うか……」



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