第15話 ドラゴン探し
「ドラゴンは元々、伝承や神話における伝説上の生物とされていました。しかし一人の冒険者が見つけたことをきっかけに、世界上の至る所で目撃されるようになりました。おそろしいのは、やはりその強さです。食べるほど強くなると言われており、魔物や人間を捕食し、力を増やしている、と言われています。更に世界中を飛び回ることができる体力、知力、魔力、防御力、個体によって魔法も使えるとのことです」
椅子から立ち上がったエマが、淡々とわかりやすく説明してくれた。
ルビィが、パチパチと拍手する。
「流石エマさん、博識ですわ!」
「えへへぇ、そうでもないですよ」
「ありがとう、絶望的なことがよくわかったよ」
そのタイミングで、頼んでいた料理が運ばれてくる。
ホロホロ鳥の肉詰めと山草のクリームスープ、ホクホク芋とブドウジュースだ。
「うお、うまそうだな」
「これは、手づかみで食べるのですか?」
「ああ、熱いからアチアチっていいながら食べるんだ」
「デルクス様、嘘はいけませんよ。ルビィさん、そこの箱に入っています」
「なるほど、既に置かれているのですね!」
今いる場所は王都で人気の食堂屋さんだ。
といっても下町寄りなところで、貴族のルビィはこういった場で食事をしたことがないらしい。
特に嫌がることはないが、使い勝手がわからないらしく、全てが新鮮で喜んでいる。
そのまま同時に一口、すぐに表情が緩んだ。
「「「美味しい……」」」
ソードマジックファンタジーに来て一番驚いたのは、ご飯の美味しさだろう。
この店を知っていたのは、原作で美味しいと書かれていたからだ。
そのあたりも同じとは。
開発陣の心意気がありがたいぜ。
ドラゴンも原作と同じでヤバイみたいだが。
「それで、ドラゴンはいつ頃に来るんでしょうか?」
「夜、だった気がするな」
「気がする? 場所はどこですか?」
「谷、だった気がするな」
「谷……?」
ルビィとエマが首をかしげる。
俺だって全部を覚えているわけじゃない。
実際俺と同じよう立場なら、国はともかく、狩場の地名を律儀に覚えているやつなんてほとんどいないだろう。
「それよりいいいのか。俺はマジで戦うつもりだ。死ぬかもしれないんだぞ」
俺が1人で王都へ向かおうとしていたとき、偶然ルビィが家に訪れてきた。
どこへ行くのかと何度も訊ねたので、ドラゴンが王都の近くで人を襲う情報が入ったと伝えると、すぐに用意を始めたのである。
そのままエマも一緒に。
覚えているのは、明日の夜にどこかの谷で現れること。
そのとき、大勢が襲われること。
まずは情報を集める必要があるので、前乗りで王都に来たというわけだ。
とりあえず腹ごしらえ、それから記憶を頼りに地名を特定、さらにドラゴンを倒す手立てを考えるというフルコース。
原作でオリヴィアは退けているが、決して1人の力じゃない。
彼女は護衛と共に戦った。
つまり俺が一人で退けるなんて、そもそも相当難易度が高いというわけだ。
さらに欲張りな俺は、魔剣のレベル上げの為に倒そうと思っているのだから、余計に大変だろう。
けど逆に考えれば、ここでドラゴンを倒すことができれば一気に強くなれる。
さらにドラゴンの能力の一部なんて得ることができれば、それこそ最強に一歩近づく。
最悪死ぬかもしれないが、そんなことは考えても仕方がない。
俺は既に不可能を可能にした。
原作で勝てるはずのないオリヴィアを試験で倒したのだ。
なら、ドラゴンだって倒せるに違いない。
と、思うが……。
「大丈夫です。デルクスに恩返しもできていませんし」
「同じく、私もデルクス様に拾われたのです。この命は、あなたのものです」
二人の忠誠心には、ほどほど頭が下がる。
だが手伝ってくれるとは思っていた。
気持ちを利用する気がして、言えなかったのだ。
ただ1人でも勝てるわけがないともわかっている。
俺はしっかりと二人に感謝し、気合を更にいれる。
「じゃあまずは情報を仕入れよう。冒険者ギルドならドラゴンについての資料もあるはずだ。くれぐれも絡まれないようにおとなしくな」
二人はすごく綺麗だ。
めちゃくちゃ可愛いし、もめ事にならないように気を付けなきゃな。
「はい! 行きましょうですわ!」
「変な輩がいたら、私がとっちめますね」
ルビィが俺の腕を掴み、エマが曇りなき眼で言った。
何にせよ1人じゃないだけでありがたい。
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