第9話 最終テスト
「デルクス様、いきますわ」
「ああ、遠慮せず来てくれ」
いつもの中庭。
次の瞬間、ルビィが髪の毛よりも赤い炎を右手から放出した。
それは高密度の魔力を纏いながら、俺に向かってくる。
熱波が凄まじい。
――だが俺は臆することなく、それを魔剣で叩き切る。
炎は真っ二つ割れた後、後ろで離散していく。
そのままふうと息を吐くと、歓声が上がった。
「魔法を切るなんて……デルクス様、どこまでお強くなるのですか?」
「リミット先生、でもこれは俺の力じゃないよ。魔剣のおかげだ」
「いいえ、それもあなたの能力です。それに今の攻撃を臆することなく正面で立ち向かえるのは、努力の賜物ですよ」
言われてみればそうかもしれない。
以前の俺なら怖くてできなかっただろう。
「本当に凄いです。素晴らしいですわ、デルクス様!」
「はい、本当にカッコイイです!」
すると呼応するかのように、ルビィとエマが褒めてくれた。
二人とも動きやすい訓練服に着替えている。
これからまだ命を狙われるかもしれないので、合同訓練を始めたのだ。
驚いたのは、ルビィが炎魔法の使い手で才能があり、そして強かったことだ。
性格は心優しい(変な奴ではあるが)が、俺の戦っている姿を見て頑張りたいと思えてきたらしい。
改変すると新しい事が起きるということだろう。
俺のやろうとしていること、やったことは無駄じゃない。
魔剣のレベルも20から25に上がった。
追加の能力は以前の【特殊スキル:足音無音】だけだが、これは文字通りそのままである。
これから暗躍することも増えるだろうし、悪くない。
それから次に、エマが前に立つ。
驚いたことに、彼女も相当な腕前だった。
俺は魔剣を解除。
今回は素手で戦う。
次の瞬間、真正面から駆けてくる。
かと思えば、視界から消えた。
いや、凄まじい速度で動いたのだ。
だが同じ人間だ。俺を狙うときに微量な魔力と気配を感じる。
そこに一点集中すればいい。
――ヒュン。
左こめかみに遠慮のない蹴り。
それを受け止めると、返しざま、エマの体勢を崩して、右拳を寸前で止めた。
「――す、すごいです!!!!!!!!!!!! みえたのですか!?」
「まあ、感じ取ったって感じだが」
そのまま右手を差し出すと、エマが掴み、勢い余って抱き着いてくる。
たゆんっと胸が当たり、それに気づいたのルビィが駆けてきた。
「ずるいですわっエマさん!」
「何がだ……」
「では、最後は私ですね」
エマとルビィを引き離し、リミット先生と対峙する。
魔剣をふたたび出現させる。
この世界に来てから負けっぱなしだった。
だが違う。俺は――変わったのだ。
静寂な時間が流れる。
――俺から行く。
そのまま真正面から突っ込む。
リミット先生は強い。だがそれにプライドが高い。
そこを――突く。
思い切り振りかぶるが、これは囮だ。
すぐに切り替え、横で薙ぎ払う。
以前と違って速度が速い。
流石の先生も受け止めざるを得ないだろう。
だがそれこそが――勝機。
「――ふふふ、考えましたね」
「ええ」
【硬質】と【魔法糸】で粘着させ、魔剣とレイピアがくっついた。
リミット先生は生粋の剣士、原作で肉弾戦は見たことがない――。
俺は、思い切り蹴りを入れようとした。
だが――入れられたのは、俺だった。
「――なっ!?」
「私が、ただの剣バカだとお思いで?」
リミット先生ははカポエラのように身体をひねると、そのまま魔法糸を無理やりねじりとった。
ぶちぶちとちぎれた後、おまけといわんばりに更に蹴りを脇腹に。
なんとか右ひじで受け止めるも、威力が高すぎる。
――ヒビが入ったな。
はっ、まったくこの人は強すぎる。
「だが、まだまだだ!」
俺は諦めていない。
その動きは初めてだった。
だがおかげで【模倣】が使える。
この能力は、頭の中で残した記憶を再現するものだ。
よって見たことないものは使えないし、あまりに記憶が遠いと使えない。
だが今のイメージは完璧。
俺はくるくる魔剣を支点にし、回転しながら蹴りを入れる。
死ぬほどの力を込めた。
だがリミット先生はそれを受け流した。
しかしまだだ!
そのまま近距離で魔剣を振り続ける。
しかし――そのすべてリミット先生は回避していく。
「あははは! おもしろい、おもしろいです! デルクス様!」
狂喜とはこの人の為にあるだろう。
魔剣と俺のレベルは既に相当なものだ。
それでも避けられる。
――なら、奥の手だ。
【飛行】で身体を浮かせる。
次の瞬間、空中に出現した100ゴールドを回転しながら蹴りつけて魔力を込めた。
弾丸とまではいかないが、それなりの威力だ。
金を粗末にしちゃいけない。後で拾うから勘弁してくれっ!
「――ふふふ」
「これが、俺の――一撃だ!」
そのまま渾身の振りかぶり。
リミット先生は回避ができず、また受け止めるとレイピアが砕け散る圧力を込める。
獲った――。
だがその瞬間、リミット先生はすさまじく動いた。
「――残念、ですね」
「……すげえや」
「ふふふ、でもこれを使ったのは10年、いえ、20年ぶりでしょうか」
確実に倒したと思いきや、目にも止まらに速さでリミット先生は消えた。
次にレイピアは俺の頬に触れる。
完全にとらえたかとおもったが、そうではなかったらしい。
原作では見たことのなかった動きだ。
「ありがたいけど、負けは負けだ」
「いいえ、デルクス様。あなたはすでに学生のレベルを超えています。私もすぐに追い抜かされるでしょう。いずれ、師弟が逆転するのは時間の問題です」
「はっ、光栄です」
「入学式、デルクス様なら間違いなくトップを狙えるでしょう。後は気持ちだけです。頑張ってください」
「ありがとうございます。あの、その、レイピアどけてください」
及第点どころか、大満点をもらったらしい。
テストは来週、準備は整った。
「俺の力がどれくらいか、楽しみだな」
ちなみに最後は、使いどころがあまりないので【美声】を使った。
「かっこいいですわ、今の声!」
「はい! ルビィ様、デルクス様のお声は、イケメンヴォイスですッ!」
「確かに……かっこよかった」
ルビィとエマはともかく、リミット先生が声をあげた。
あれもしかしてこのスキル、一番使えるのでは?
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