第10話 試験当日。

 揺れる馬車の中、女子の声が、響いていた。


「ルビィ様、とても似合ってますわそのピアス」

「ふふふ、新しく新調しました。エマさんのそのメイド姿、凄くお似合いですよ」

「ありがとうございます! でも……本当にこんな素敵なドレスもらってもいいんですか?」

「もちろん。デルクス様のお付きとして試験を受けるんだから、少しの間だけだとしても、綺麗なのがいいでしょう?」

「はい!」


 今から試験なのだが、二人は嬉しそうだった。

 エマは学園でのお付き試験を受ける。


 屋敷でも支えてくれていたが、学園でも俺の傍にいたいらしい。

 

 お付きとして合格すれば、授業以外は一緒にいることができる。

 

 まあ元々貴族学校なので出席自体もそう多くないのだが、それでも大変な試験だ。

 その忠誠心には頭が上がらない。


 それより――。


「ルビィ、本当に受けるのか?」

「はい。私もデルクス様のおそばに居たいのですわ」

「そうか」


 驚いたのは、原作で死ぬはずだった彼女が、俺と同じ試験を受けることだ。

 これは改変、今後どうなっていくのかはわからない。


 そしておそらくだが、彼女は間違いなく合格する。


 それは、ルビィの魔法のセンスがあまりにも高すぎたからだ。


 みるみるうちに強くなり、最終的にリミット先生も認めるほどだった。


 むしろ、なんで原作で死ぬことになるのかわからないほどに。

 ふとルビィと目が合う。

 

 ニコリと微笑んでくれた後、真剣な表情に切り替わった。


「私は、デルクス様に心から感謝しています」

「……感謝?」


 いつもニコニコのルビィが、少しだけ手を震わせていた。

 突然のことで驚いたが、本気だとすぐに伝わった。


 彼女が話し始めるまで、ゆっくりと待つ。


「私が殺されそうになったのは、あの日が初めてじゃないんです」

「……そうだったのか」


 それは知らなかった。

 原作では、あのシーンしか描かれていないからだ。


「大きな怪我をしたこともあります。ですが、犯人が特定できず、泣き寝入りするしかありませんでした」

「ルビィさん……」


 エマが、そっと手を掴む。


「ずっと眠れない日々が続いていました。あの日も、眠れなくて廊下を歩いていたんです。でも、デルクス様が現れ、私を助けてくださいました。私の恐怖を取り除いてくれました。だから私は、あなたの力になりたいのです。これから先、あなたに怖いことが起きたとき、私はそれを取り除くことができる女性になりたい。だから――試験を受けにきたのです」


 手をぎゅっと握りしめて、ルビィは最後の言葉を強調しながら俺を見つめた。


 彼女は本当に心優しい子だ。

 訓練中、俺にはもちろん、エマのことを一度も下に見たことがない。


 貴族ならばそんなことはありえない。

 本当にいい子なんだろう。


 俺はどこかルビィをゲームの登場人物だと思っていた。


 だが違う。彼女はこの世界に生きている。

 そして、ちゃんとした明確な意思を持っている。


 俺は彼女を助けることができたのだ。


 ――誇らしい。


 だがこれから先、まだまだ困難はある。


 しかし力強い味方がいる。

 ルビィやエマ、リミット先生だ。


 きっと大丈夫だろう。


「ありがとうルビィ、そしてエマ。――絶対合格しよう。俺も、二人と一緒に試験を受ける事が出来て、嬉しいよ」

「……デルクス様っ!」

「デルクス様!」


 そして二人は抱き着いてきた。

 お、おもい。だがいい重さだ。


 愛を感じ――。


「――すぅすぅ」

「おいルビィ、匂いを嗅ぐな」


 とはいえ気合が入った。


 この試験は難易度が相当高い。

 原作でも、入学試験失敗でゲームオーバーになる画面を何度も見た。


 ――絶対に合格してやる。


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