第20話 序列最下位の少女

 太陽を遮るほどの深い森中、深いブルーの訓練服に身を包んだオリヴィアが、俺の前に立っていた 


「――デルクス、今回は負けませんよ」

「ああ、だといいな」


 オリヴィアは俺と同じく構築術式の聖剣を扱う。

 おそらくだが、彼女にもレベルが存在しているだろう。


 それを他人に話すことはないが、原作より強くなっていたとしても20レベル前後。


 だが俺は――50レベルだ!


「ハァアッ!」


 オリヴィアの聖剣は綺麗だ。白く輝いた剣、軌跡が光り輝いている。

 悪を断罪する正義の剣であり、呪いをも断ち切る性質を持つ。


 だが俺の魔剣も同じく魔法を切り裂くこともできる。


 小悪党のデルクスと、かたや原作主人公。


 歪なほどの対極だ。笑えるぐらい釣り合っていない。


 だが――。


「悪いなオリヴィア、俺に勝つなんて気持ちは、早々に捨てた方がいい」


 彼女の聖剣を下から薙ぎ払い吹き飛ばし、のど元に剣を突き付けた。

 このまま切りかかっても死なない。


 その理由は、俺たちの訓練服にある。

 最新型の訓練服。


 とても丈夫な素材でできていて、ダメージを食らうと身体の魔力が失われるだけだ。

 防御魔法を詠唱しなくとも自動で守ってくれる。


 また身体中の全ての魔力が消えると安全装置が働く。

 これ以上は戦えないと信号を放つ。


 学園ではその音が聞こえると終了だ。

 それ以上戦うことは学園での規律違反となる。


 とはいえそれは本当に全てを失った場合のみ。


「――私はまだ、負けていない!」


 オリヴィアは素手での戦いを挑んできた。


 俺はあえて魔剣を解除。


「そうだな。――これで終わりだ」


 【模倣】と【飛行】を繰り返しながら気絶させる。

 

 そのとき、とある場所からとんでもない炎が上がった。

 そして何かが大きくぶつかった音。


 ルビィとエマも終わったらしい。


 そのままゆっくりと陣地まで侵入し、完全勝利だ。


「さて、今日は食堂で何食べようかな」


 振り返って去ろうとすると、オリヴィアがまさかのゆっくりと起き上がる。

 完全に気絶していたと思っていたが、ハッ、さすが主人公だ。


「どうして君は……そこまで強い。強くなれるんだ?」

「俺には、やるべきことがあるんでな」


 せっかくだから魔剣を出現させ、イケメンヴォイスで言っておいた。

 同級生からは、「あいつたまにめちゃくちゃいい声だよな」と言われたりもする。


「……かっこいい」

「なんか言ったか?」

「な、なんでもない!」


 なぜか頬を赤らめているオリヴィアに不思議に思いつつ、俺はその場を後にした。


   ◇


「んーっ! この胸肉唐揚げ定食は絶品ですわ!」

「こっちの南蛮定食もですよ、エマ様!」

「しかし本当によく食べるね君たち」


 ソードマジック学園、食堂。


 三学年合同なのでそれなりに広く、店内は温かみのある木を基調としているが、設備は最新型だ。

 食堂時間の利用は24時間、スイーツもジュースも食べ飲み放題。


 にこの学園には入学費用の負担はない。


 その理由は、この学園の運営元、つまりスポンサーは国だからだ。


 まったく、つくづくいい学園に入学したと思える。


「んっ、このパスタ美味しいな」

「女性みたいで可愛いですわ、デルクス!」

「ほっぺに赤ケチャがついてますよ!」


 原作では知らなかったが、この世界の住人はよく食べる。

 いや俺も普通よりは食べるが、それにしても二人は凄い。


「もっと食べて強くならなきゃ……」


 視界の端で俺に負けたオリヴィアは、ご飯をこれでもかというぐらい大盛にしていた。

 いつもの唐揚げ定食、原作通りだ。


 ていうかあの白米、座ったときの身長ぐらいないか?

 大丈夫かな。デブヴィアはちょっと見たくないが。


「そういえばお祝いはいつにしますか?」

「お祝い?」

「デルクス様の学年一位ですよ。一か月間、全ての試験で満点なんて凄いです!」

「まあそうだな。けど、まだこれからだ。俺たちは三年間、この学園にいるんだから」

「謙遜しすぎですわ」

「はい、ルビィさんの言う通りです!」


 気持ちは嬉しいが、あくまでも一位は現状の結果だ。

 俺の目指すべきものは違う。


 そしてその時、食堂の端で連れられている女の子を見つけた。


 髪の毛は綺麗な青色。


 間違いない、彼女だ。


「ご馳走様。ちょっといってくる」

「デルクス、どこへいくのですか?」

「デルクス様?」


 急いで追いかける。見失ったかと思い焦ったが、遠くから高圧的な声が聞こえてくる。

 校舎の裏、ご丁寧に教員は通らない場所だ。


「アクア、あんたいい加減邪魔なのよ」

「そうよ。早く消えたらどう?」

「正直、邪魔なんだよね。ちょっとばっかし防御が得意だからってえこひいきされて」


 嫌味な赤髪のビビを筆頭に、小さく縮こまっている青髪は、アクア・ブルー。


 原作で彼女は成績最下位の落ちこぼれだ。

 俺はそれが――たまらなく嫌だった。


 なぜなら彼女は類まれな才能を持っている。


 唯一無二といってもいいほどの防御シールド魔法。

 将来の彼女は攻撃を完全に防ぐ不可侵領域をも使えるようになる。


 だがそれまで彼女はずっと落ちこぼれだ。


 それを原作で見ているのはつらかった。

 途中で救済ルートはなく。ただ裏で語られるエピソードだ。


 だが――違う。


 赤髪のビビたちが去っていく。

 だが俺は助けなかった。


 それじゃ意味がないからだ。


 静かに項垂れているアクアに声をかける。


「弱虫だな」

「え、だ、だれ!?」

「どうして言い返さないんだ? 悔しくないのか?」

「…………」


 怯えているが、俺は畳かける。


「学園に入学したのに、親がなくぞ」


 その言葉に、アクアは顔を赤らめて反撃をし返してきた。


「そ、そんなに言われなくてもわかってる! なんでそんなことあなたに言われなきゃならないの!」

「だったら反撃しろ」

「私じゃ……何もできない。それに学年一位のデルクスくんにはわからないよ」

 

 あと一歩だ。お前に足りないのは。

 だがそれは俺ではなく、お前が歩かないと意味がない。


「違う。俺は必死に訓練してきた。この学年で戦う為に、やるべきことをやるためにな」

「私も……頑張って……きた……」

 

 ああ知っている。

 お前がどれだけ頑張ってこの学園に入学したかも全て知っている。


 彼女は貴族だが、裕福ではない。

 この学園を卒業すれば宮廷魔法使いになる可能が一番高い。

 だから頑張っている。


 そして俺は知っている。彼女の魔法を習得できれば、俺ももっと強くなれることを。


「俺がお前に戦い方を教えてやる。だからお前も、俺に防御シールド魔法を教えてくれ」

「……私が、デルクスくんに?」

「ああ、悪い条件じゃないだろう。お互いにとって良いはずだ」


 アクアは――ゆっくりと立ち上がる。

 その目は、光を宿していた。


「わかった。私で良ければ、お願いします。――デルクスくん」

「ああ、よろしくな」

 

 学園に入っての最初の目標。

 それは、序列最下位のアクアの自信を取り戻させ、俺も強くなることだ。


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