最弱の悪役貴族に転生した俺、進化する魔剣を育てていたら規格外の魔力も発覚したのですべてのフラグをぶっ壊す

菊池 快晴@書籍化進行中

第1話 最強のモブ、誕生

「デルクス様、ああっあぁあっあぁっ!?」


 女性の叫び声、いや、喘ぎ声がその場に響く。


 ……え? なにこれなにこれ?


 俺はついさっきとあるゲーム・・・・・をクリアしたところだった。

 だが気づけば、目の前に女性がしゃがみ込んでいる。


 いや、正しくは裸で魔法陣・・・のような上で座っていた。


「……え?」


 風が巻き起こっている。周りは暗くてよく見えないが、家具が倒れていく。

 同時に、女性の身体が黒く何かヘビのような模様で蝕まれていくのがわかった。


 これはマズイと本能的に感じた。


 そして俺は、同時に気づく。

 もしかしてこれは――。


術式解除マジックキャンセル


 生まれて初めての言葉を口にすると、周りが光り輝き、そして、収まっていく。

 女性はようやく落ち着いたのか、息を切らしながら項垂れる。

 

 俺は急いで近くにあった布をかぶせた。


「デルクス様、どうなったの……ですか」

「もう大丈夫だ。――エマ……か?」

「……はい?」


 ああ、やっぱりそうだ。

 金髪ストレートのメイド姿の女性、碧眼で綺麗な瞳を持つ彼女の名は、エマ。


 そして俺は――デルクス・ビルスだ。

 デルクスとは、剣と魔法の恋愛アクションRPG【ソードマジックファンタジー、略してソドマ】にでてくる、貧乏悪役貴族モブの名前だ。


 隣に立てられた姿見を見てみると、まさにその特徴が映っていた。

 といっても、今の俺の姿だが。


 金髪で傲慢そうな顔、それなりに整ってはいるが、大嫌いな顔だ。

 いや、それより――。


「エマ服はどこにある?」

「え? あの後ろに……」

「待っててくれ」


 驚いているエマをよそに、服を手渡す。


「え、ええと?」

「すまないな。その、き、着てくれるか?」

「え、あ、ははい……」


 その場で着替え始めたので、俺は急いで後ろを向いて思考を整理する。


 デルクス・ビルスとは、ゲームや映画でもよくいるようなモブ雑魚悪役貴族のことである。

 悪党の横にいる金魚の糞みたいなやつだ。


 好きなものは魔法、だが才能は一切なく、使用人に適当に魔法を試してはいつも失敗し、迷惑ばかりかけている。

 俺はこのゲームが好きだった。自由度が高くて、剣と魔法だけじゃなく、旅に出たり、恋愛だってできるからだ。


 だがこいつのことが俺は大嫌いだった。


 その理由は、デルクスのゴミみたいな性格にある。

 こいつは今、エマを殺す寸前だった。


 後に明かされるエピソードなのだが、いま行った魔法が失敗し、メイドを殺したことがあると明かされるのだ。

 そのときの一枚絵が、まさに今このシーンだったので気づいたのだ。


 努力もせず、偉そうにするだけで知力もない。

 そしてゲームでは、主人公に絡んだ挙句の果てに死ぬ。


 デルクスは、本当にカスみたいな奴で、雑魚の癖に主人公の邪魔ばかりする。

 最終的には悪役のボスにも裏切られて完全に一人となり、誰からも見捨てられてしまい、後に現れる魔王に無残に殺される。


 それもあって、雑魚モブ悪役ランキングのトップを飾っていた。


 ああ、想像しただけでも吐きそうだ。


 いや……待てよ?


 それって、これから起こりうる未来・・ってだけだよな?

 つまり、俺次第で何とかなるってことじゃないか?


 俺はこのゲームが好きだったし、これから起こることも全て知っている。

 となると、色々できることがあるんじゃないか?


 そしてこのゲームには、悪だけが使える能力ギフトが存在する。

 悪役のボスもそれを使っていたが、この雑魚ポンチキデルクスが使えるかどうか――。


「――魔剣」


 ……どうなる?


 すると俺の手がに現れたのは、小さな黒いナイフだった。


 まるでバターナイフだ。


 だが俺は、喜びに満ち震えていた。


 同時に、ステータスと声にしてみる――。


 ──────────────


 【デルクス・ビルス】

 レベル:1 年齢:13 性別:男。

 体力 :F。

 攻撃 :F。

 魔力 :F。

 素早さ:F。

 知能:F。

 能力:魔剣Lv1。

 魔法:無属性。

 称号:New:生まれたての金魚のフン

 状態:New:封印状態が解除されました。


 やだ私のステータス低すぎ!?

 生まれたての赤ん坊でもレベル1はすぐ超えるはずだが、むしろどうやってこのレベルで生きてきたんだ……?


 だが封印状態が解除ってのはよくわからないな。

 後、生まれたての金魚はやめてくれ。


 だが魔剣が出現したことに俺は高揚感が抑えきれなかった。


 これなら――何とかなる。


「デルクス様、着替えが終わりました」

「――ああ」


 メイド服のカチューシャ姿のエマは、とても綺麗だった。

 過去回想でしか知りえなかったが、凄く可愛くて評判だったのだ。


 だがデルクスに仕えたせいでいつもひどい事ばかりされていたはず。


「身体は何ともないか?」

「え? あ、な、ないですが、どうしたのでしょうか?」

「いや……今まで、悪かったな。その、気づいたんだ。もうこんなことしてはいけないと」


 突然の心変わりに驚くだろうが、伝えるなら早い方がいい。


 すると――。


「うぐ……うっぐうぐ……」


 すると突然、エマが号泣している。


「え、エマ!? どうしたんだ!?」

「い、いえ。その、怖かったと安心したのと、嬉しくて色々と」

「え、ええ!?」


 俺野郎・・・よくもこんな健気な子を泣かせやがって……。

 くそ、次会ったらただじゃおかねえぞ。


 たしか、夜中に限定品のお菓子を隣街まで買ってこいと命令したこともあったはずだ。

「すみません。――ぐぅ」

「え? もしかしてお腹が空いてるのか?」

「は、はい」

「そうか、なら何か持ってこさせ」

「今屋敷に食料は殆どありません。それに今使用人は……」


 エマの言葉で思い出す。

 この屋敷は、とにかくお金がないのだ。


 その理由は、デルクスの散財にある。外に出ている父親からもらったお金も使い込みすぎている。

 それに嫌気がさして、使用人も逃げ出したところだったはず。


 いや……そういえば隠しているお小遣いがあったはずだ。


「ちょっと待っててくれるか?」

「……はい」


 怯えた顔、一体何をされるのかと不安なのだろう。

 だが俺は急いで自室に戻って、小さな箱から金貨を取り出す。

 

 これもくだらないことで使う予定だったはず。

 なら――。


「エマ!」


 勢いよく扉をあけ、満面の笑みで彼女の名を呼ぶ。

 だが肩を震わせていた。


 暴力もしていたんだろう……。


「悪い、怖がらせてしまって。――今から、食事に出かけないか?」

「え? 食事って……あのその……探してこいということでしょうか?」

「……違うよ。王都にいい料理屋さんを知ってるんだ。それを一緒に食べに行こう。もちろん、金は俺が払う」

「で、でも……」

「ああ、今まですまなかった。俺は、変わるよ」

「……え?」


 まだ不安げなエマだったが、俺自ら馬車を使って、王都の料理屋まで出向く。

 メイドの姿のままでは悪いと思い、母の服を着せてあげた。


 こじゃれた料理屋に入って、さっそく料理が届くと、エマは満面の笑みで料理を食べる。


「美味しいか?」

「はい! とても……でも、お金が……」

「大丈夫だ。これからは、が何とかする」


 デルクスの一人称は僕だったが、このくらいはいいだろう。


 俺は、さっきの魔剣のこと思い出していた。


 小さなバターナイフにしか見えないが、あれはまだレベル1だからだ。


 どうやってレベルをあげるのか、それは、自分が強くなると比例して上がっていく。

 それは、デルクスだけに許された固有魔法なのだ。


 これは、プレイヤーに「こいついい能力は持ってるのにカスだなw」と笑わせる為だけに作られたプログラム。

 猫に小判をさせることで、ざまぁを強く意識させるためだ。


 だが俺はそれを逆手に取ればいい。


 俺のやるべきことは二つ。


 魔剣を強くする。

 それは、原作で最悪だった自分の未来を改変する為だ。


 確か最終的に屋敷も無くなるはず。だがそんな未来はぶっ潰す。


 そして二つ目、このゲームは、別名フラグゲームとされている。

 それは、キャラクターとの恋愛も死亡フラグもビンビンに立つからだ。


『俺、この試験が終わったら』

『私、この戦いが終わったら』


 などを言いまくる魅力的なキャラクターが多く存在し、俺はそのたびに消えていくキャラクターを見て涙を流した。

 

 だが今の俺ならそいつらを助けることができる。

 もちろん、その中にエマも含まれていた。


 つまり、未来は変えられるということだ。


「美味しいです、デルクス様」

「ああ、よかったよ」


 俺は、エマの満面の笑みを眺めながら誓った。


  ――――――――――――――――


 このたび新連載を始めました。

 異世界ガイドマップというスキルを得た主人公が、クチコミや様々なスキルで旅をするお話です。

 今までの培った面白い部分が出すことができたらなと思います。


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