第25話 原作の三人
百合とは女性同士の恋愛感情を差すものだ。
創作物では割とメジャーで(所説)、男の俺からすれば尊いものである(人による)。
結局、図書館でルナとエヴィルはお互いに距離を詰めることはなかった。
相思相愛だというのにだ。
ルビィとエマになぜそこまでするのですか、と問い詰められたが、幸せなことじゃないか?
と伝えると納得してくれた。
そういう所は純粋でありがたい。
「歴史学一位は、ルナ・ダイアルです」
テストが終わり、いつもは褒めない先生が言った。
それを聞いた同級生が、おお~と声をあげる。
俺はルナとエヴィルのことを知っているが、よく考えると本当の意味では知らない。
まずは観察してみることにした。
「……ありがとうございます」
それに対し、ルナは静かに言葉を返す。
だが内心ではおそらく。
ルナ「やったあああ、頑張ったかいがあった。エヴィルちゃん……見てるかな? 凄いって思ってくれてるかな?」
と思っているはずだ。
それを裏付けるかのように、チラチラとエヴィルに視線を向けている。
そしてエヴィルも気になっているのか、だが合わないタイミングで視線を向けている。
内心ではおそらく――。
エヴィル「しゅごいしゅごい、ルナちゃんしゅごい。放課後、図書館でずっと頑張ってたもんねえ。えらいねええらいねえ」
と思っているはずだ。
ふむ、やはり相思相愛は間違いない。
そして続く体育のテストでは、エヴィルが女子で一位を獲っていた。
「流石ですねエヴィル」
「ありがとうございます!」
ルナとは対照的で明るい性格だ。
満面の笑みでにへへっと笑って感情を表に出す。
まあ、出していない部分もあるが。
内心ではおそらく――。
エヴィル「やった、やったああ。ルナちゃん見てくれてるかな? 見てないだろうなあ。うー、凄いねって褒めてもらいたい……」
ルナ「えー凄い凄い凄い。エヴィルちゃん修練所で頑張ってたもんああ。凄いなあ。なのにそれを見せずに……もおお尊い!!」
となっているはずだ。
――もう付き合えや! *原作に基づいた高水準の予想。
お昼休み、俺はルビィとエマにふたたび相談していた。
どうやってくっつけるかを。
「無理やりはしたくないんだ。できれば隠れて背中を押したい」
「なるほど……二人が相思相愛だと仮定して、そもそものきっかけは何なのですか?」
「確かに、それが分かればヒントがあるかもしれませんね」
「きっかけか……」
俺が知っている二人のきっかけ。
それは、元々幼馴染なのだ。
といっても学園に入る前、ずっと前。
虐められていたルナを、エヴィルが助けた。
そこから仲良くなった。
しかし互いに貴族だ。忙しくて離れ離れになった結果、しゃべりづらくなったのだろう。
そんなことはリアルでもありがちだ。時間が空けば恥ずかしくなる。
ルビィとエマに二人が幼馴染だったことを伝えて、そこで仲良くなったと話した。
何で知っているのですか、と聞かれたら、幸せなことじゃないか? と答えた。
そして――。
「恋のキューピットってのは、必ずも天使じゃないかもしれないな」
「? どういうことですか?」
「デルクス様?」
「堕天使もあるってことだ。二人とも、協力してくれるか?」
ハッキリとは伝えられないのは申し訳ないが、二人は頷いてくれた。
「もちろんですわ」
「当たり前です!」
放課後、俺はルナの後をつけていた。
彼女は元々家が裕福ではなかった。そのとき手を差し伸べられたことをきっかけに週末だけやっていることがあるのだ。
「ルナ姉ちゃん、これはー!?」
「それはね、これを足すだけ。ほら、簡単でしょ?」
「わ、ルナお姉ちゃんすごい!」
「ルナ姉、オレのもみてー!」
孤児院の隣で、ルナの青空教室が開かれていた。
学校では見せない満面の笑みと明るい表情。
これが彼女の素だ。
「……凄いですわ」
「学園は凄く忙しいです。それなのに毎週ですか」
「ああ、そうだよな」
ソードマジック学園は入学式が難しいだけじゃない。
課題も多いし、修練も多い。
それでも毎週欠かさずにルナは通っている。
俺はただ二人のイチャイチャが見たいんじゃない。
いやまあそれもあるが、幸せになってほしいのだ。
こんなにも優しいルナが幸せになれないなんて、物語として間違っているだろう。
もちろんそれは――エヴィルもだ。
「デルクス、来ましたわ」
「では私たち行ってきますね!」
「ああ、頼んだ」
するとそこにキョロキョロとしながら現れたのはエヴィルだ。
ルビィとエマが呼び出したる。
「エヴィルさん!」
「あ、ルビィさんにエマさん。突然ご飯だなんて、どうしたの?」
「色々と仲良くしたいと思いまして。ご迷惑でしたか?」
「そんなことないよ。嬉しいよ」
二人はエヴィルに手紙を書いていた。
一緒にご飯を食べたいと。
だがもちろんそれは嘘だ。
三人はそのままルナの孤児院の横を通っていく。
ここで、俺の出番だな。
「――おい、今日のあがりは?」
「! また来たんですか……」
俺は、フードを被ってルナの元へ来ていた。
孤児院にはショバ代といってせびってくる悪党がいるのだ。
ルナがここにきている最大の理由は、彼らから守るためである。
俺は、その悪党を演じている。
「いい加減にしねえと許さねえぞ。――何だったらお前でも」
「おい!!! 何してるんだ!」
そのとき、エヴィルが乱入してくる。
ルビィとエマが上手く誘導してくれたみたいだ。
俺はそのまま対峙、エヴィルを睨みつける。
「あァ? 金の代わりにこの女をもらっていくんだよ。邪魔すんな」
「……ルナに、手を出すな」
そこで俺は、激昂しているエヴィルに手を向ける。
この世界は魔法がある。それが何を意味しているのかすぐわかるだろう。
その時、ルナが前に出た。
「エヴィルちゃん!」
ここまでお膳立てすれば完璧だ。
戦う必要まではないだろう。
てか、俺が痛いのでそれはやめてほしい。
「けっ、覚えとけよ」
泣き言をいって離れていく。
ルヴィとエマと合流し、物陰に隠れる。
「上手くいきましたわね」
「良かった。これはきっかけになりそうですね」
「ああ、だがやることがある。危険だぞ。いいのか?」
「当たり前ですわ」
「はい、行きましょう。悪党退治です!」
――――
――
―
「ルナ、座っていい?」
「あ、エヴィルちゃん。もちろんだよ」
図書室、二人から以前のぎこちなさは一切なかった。
「この前、エヴィルちゃんが来てくれたおかげで、お金をせびってた人たちがこなくなったの」
「ほんと? 良かった。でも、私は関係ないと思うよ。ルナちゃんが頑張っていたおかげじゃないかな」
「ううん、私は全然。ありがとう、エヴィルちゃん」
「えへへ、えへへ。私も今日、放課後一緒にいっていいかな? 子供たちと遊びたいな」
「もちろん、みんな喜ぶよ!」
その裏では、俺たちがまた同じ縦並びで二人を見ていた。
「デルクス、うまくいってますわ」
「凄い。楽しそうです!」
「これで何とかなったな。最後の一押しは、流石に当人次第だ」
俺たちはあの後、嘘とから出た実の為、悪党のアジトへいった。
相手が多いので一苦労したが、ルビィとエマのおかげで叩き潰すことができた。
原作知識のおかげもあるが、お膳立てした手前、そのくらいは当然だ。
手伝ってくれたルビィとエマには頭が上がらない。
「なに……してるの?」
突然、後ろから声が聞こえた。
振り返ると、原作主人公のオリヴィアが困惑していた。
そりゃ物陰で並んでる俺たちを見つけたらこんな顔するだろうが。
「な、なんもないぜ!? なあルビィ、エマ、この本どうだ?」
「ほ、ほしいですわ!」
「わ、私もです!」
慌てて離れていく。一体なんでここにオリヴィアが?
不思議そうに横を通っていくと、驚いたことにルナとエヴィルに声を掛けていた。
「ねえ、いいかな? ――二人の話を聞いたんだけれど、炊き出しの件、私も参加していい?」
炊き出しとは、ルナとエヴィルが来週開催する戦争孤児の為のボランティアだ。
「え、いいの? オリヴィアさん」
「うん。エヴィルさんも構わない?」
「もちろんだよ! あ、どうぞ座って」
俺はそれを見てつい笑顔になった。
正義感に溢れ、気高く、そして綺麗な三人。
原作でこの面子を見ることができるのはもっと後のはずだ。
俺の行動が関係性を早めたのか。
「いいですね。なんだかうるっときます」
「はい。仲良しさんいいですね。あれ、デルクス様どうしましたか? なんか困惑してませんか?」
「あ、いや……」
でもよく考えると、三人はそろってからがすげえ強い。
あれ……俺、やらかした?
敵に塩送ってね?
「エヴィルちゃん、その時、凄い格好よくて」
「えー!? ルナも守ってくれたよ!」
「ふふふ、二人は仲良しなんですねえ」
までも、幸せが早まるのはいいことか。
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