第22話 まだ一歩だが、大きな一歩だ

「アクア、これであんたは終わりね。叩き潰してあげる」


 ソードマジック学園には序列ランクが存在する。

 貴族の俺たちにとっては、命に等しい誇りをかけた制度だ。


 卒園の際、最終的に一位だった場合、当然だが、国から引く手あまたとなり、王家から直属に仕えてほしいと言われることもある。


 だからこそ必死だ。誰もが少しでもランキングを上がろうとする。

 だがアクアは違う。既に諦めていたのだ。

 自分で限界を決めて、殻に閉じこもっていた。


 ――しかしそれは全て過去形だ。


「負けない。私は――あなたになんか負けない」


 するとアクアは、強く杖を握りしめた。

 そのまま真っ直ぐ見据えて言い放つ。


 その堂々たる所作に、いじめっ子が驚いていた。

 怯えたような表情を見せた後、すぐに切り替えて睨みつける。


「試合は相手が降参、もしくは気絶すれば終わりです。それでは十秒後、魔法音と共に開始です」


 先生がそう言って離れる。

 二人は対照的だ。


 アクアの相手は攻撃特化の魔力砲を放つ。


 だがそれを、逆手に取れるだろう――。


 パァッンと音が響く。同時に鋭い魔力砲が放たれた。

 ぐんぐんと伸びていく。


「――防御シールド


 当然、アクアはをそれを防ぐ。

 それ自体はいつもと変わらない。

 

 だがまったく違うのは――その面積だ。


「あんた、なにそれ……」

「私は、あなたに勝つ」


 魔力砲といっても、一直線に向かってくるわけじゃない。

 魔力の振れ幅によって多少はズレるのだ。

 それにはもちろん距離も関係する。


 だからこそ防御の面積は広くとるのが普通だ。

 

 しかし今アクアは、ほんの小さな、まるで手鏡のようなシールドで防いだ。

 それも彼女の得意技を更に昇華させている。


 ごくごく小さな魔力の消費、たとえるなら10の攻撃に対して、1で防いだのだ。

 周りがおおっとざわめく。


 しかし――本当に凄いのはこれからだ。

 俺の隣にいたルビィが、関心しながら声をあげる。


「すごい……クラインと訓練しているのは知っていましたが、これほどとは思いませんでしたわ」

「驚くのは早いぞ。――これからだ」


 アクアは駆けた。弱気で臆病は彼女はもういない。


 だがそれに対し、いじめっ子はほくそ笑んだ。

 防御一辺倒の相手が、自らやってくるのだ。


 魔力砲がふたたび放たれる。


 しかし――アクアは空中に防御シールドの欠片を置いた。

 右足を駆けて飛び上がり魔力砲を回避、その勢いを生かしたまま上段から杖を大きく振りかぶる。


 そして更に先端に防御を展開させている。


 攻撃は最大の防御、だがその逆も叱り。


 あえて防御を攻撃に使う彼女だけの技。

 原作の終盤でも防ぐことが難しい連携だった。


「――アクアのくせに!」

「私はもう、弱虫じゃない」


 アクアはいじめっ子の拙い防御をぶち破ると、肩に一撃を与えた。

 痛みから項垂れるように膝を折る。


 その後は見ても無残なものだった。

 全ての攻撃はアクアの防御に遮られる。だが逆に攻撃を防ぐことができない。


 攻撃力はまだ足りない。だがそれは今だけだ。

 今の彼女は、防御も攻撃も可能なオールラウンダー。


「勝者、アクア・ミーティング!」


 そのままアクアは、杖を握りしめたまま戻ってくる。

 満面の笑みで。


「やったな」

「――ありがとう、デルクスくん」


 俺は原作を改変することができた。

 これはまだ一歩だが、大きな一歩だ。


 彼女はこれから強くなるだろう。


 あの悲しいエピソードはもうどこにもない。


「発動、防御シールド

「く、くそ!」


 そして俺にも変化がある。

 魔剣が防御シールドを習得したことだ。

 やはり剣を出現しておかないといけないが、これで随分と戦闘の幅が広がった。


 そして――。


「最終結果、一位は――デルクス・ビルス」


「流石デルクスですわ」

「凄いです!」

「デルクス君、やっぱ強いなあ」


 俺は一位をまた取ることができた。

 だが驚いたのは、オリヴィアが明らかに強くなっていたこと。


 今回は戦わなかったが、またいずれそうなるだろう。


 今まで俺はただフラグを壊す事だけを考えていた。

 その手段で強くなることを考えていたのだ。


 だけど今は、戦うことが楽しいとも思っている。


 アクアやルビィ、エマを見ていて気付いたのだ。


 もっと強くなりたい。


 それも、純粋に。


 新しい目標、それも悪くない。


 

 

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