第27話 やっぱり俺は、この世界が好きだ

「ガルルァッ!」

「――お前で、百体目だッ! 半魚人ッ!」


 上半身は魚、下半身は足、の人魚もどきを倒していた。

 凶暴な性格で、口から酸を吐く。

 更に目玉も大きいのでぎょろぎょろして怖い。

 

 その時、スキルを習得したとステータスが更新された。


 気づけば四時間ほど狩りを続けていただろうか。

 最初のと合わせて、四つほど新スキルを会得した。


 New:『水治癒』

 水に魔法を付与することで『弱』ポーションほどの効果を発揮する。

 ただし24時間で水に戻る。


 New:『水生成』

 手のひらから少量の真水を錬成することができる。

 ただし数時間で消失する。


 New:『水操作』

 錬成した水を魔力を通して操作することができる。


 ザッとみたところ使いやすそうなのばかりだ。

 試しに左手で水を錬成する。


 手汗みたいなのだと嫌だったが、丸い水の塊が出現した。


 ホッと胸をなでおろしつつ、水治癒で魔法を付与し、更に水操作で口に含むと、身体がポカポカしはじめる。

 体力が戻って、気だるい倦怠感が治っていく。


「これは使い勝手がよさそうだな」


 とはいえ魔法は精神力も使う。

 擦り傷に水を垂らしてみると、じゅくじゅくと塞がっていく。時間はかかるが、こういった小さな怪我を治せるのはありがたい。

 もしかしたら虫歯にも効くのか?


 ……毎朝これでうごいしてみるか。


 気づけば夜が明けようとしていた。

 スキルを習得しすぎても使いこなせなきゃ意味がない。

 そもそも戦闘中に一気に使うのは不可能だろう。


 基本はレベル上げと俺自身が強くなり、たまにこうやって魔物を狩るぐらいがちょうどいいだろう。



 帰り道、森の中で集落を見つけた。

 

 こうやって知らない場所に来るたびに思う。


 俺は、ソードマジック・ファンタジーの世界の中にいるんだと。


「……ん?」


 そのとき、少女が森の中で薬草らしきものを取っていた。

 ああやって生活をしているのだろうか。


 しかし、随分と危険な場所だな。


 って――。


「グッルウゥ!」

「え? きゃああっああ」

「――水斬」


 早速覚えた新技の組み合わせで魔物を倒す。

 手を差し伸べると、少女はペコリと頭を下げた。


「す、すみません。危ない所を助けてくださりありがとうございます!」

「ああ。なんでこんなところに一人で? 朝方の森は危険だぞ」


 魔物の活動時間は夜が多い。

 その為、朝方はまだ危険だったりする。


 そのくらいこの世界の住人は知っているだろう。

 名はカリルと言って、集落に住んでいることを教えてもらった。

 そして――。


「弟の調子がなかなか治らなくて」

「……病気か?」

「風邪だと思います。昔から身体が弱くて……。でも今回はずっと熱が引かないんです。それで薬草を探してたらこんなところまで……」

「なるほどな。医者には見せたのか?」

「ええと、お医者様は高くて……」


 ふむ。

 クラス集合は昼過ぎ。

 まだ時間はある……か。


「良かったら様子をみさせてもらえないか」


 せっかく魔法を覚えたのだ。

 効果を試してもいいだろう。


  ◇


「――『水治癒』」


 さっき試飲した時よりも強く魔法を付与する。

 そのままカリルが弟に飲ませると、魔力が回復していくのがわかった。

 顔色もよくなって、熱が引いてひくのもわかる。

 後はじわじわと良くなっていくはずだ。


「俺が見た感じでは悪くない。とはいえちゃんと医者にみせたほうがいいな」

「ありがとうございます! は、はい……」


 父親はいるらしいが、今は出稼ぎで戻って来るのが少しかかるという。


 流行り病ではないだろうが、抵抗力がなければ命を落とす事もめずらしくはない世界。


 俺の錬成ポーションは一日しか持たない為、大量に渡すわけにもいかないしな。


 ……そうだ。


「カリル、これをギルドで買い取ってもらえ。冒険者じゃなくとも、買取なら問題はないはずだ」

「え、こんなにも!? そんな……悪いです……」


 俺は、さっきまで討伐していた魚の魔核や素材を手渡した。

 一つ一つは高くないが、換金すればそれなりの量だ。


 だが本当にいい子なのだろう。弟の事を心配しながらも、申し訳なさそうにしている。


 そのとき、俺はとあるものを見つける。

 このあたりの地域ではめずらしくないものだ。


「だったら、あれをいくつかくれないか」

「え、あれでいいんですか?」

「ああ、大助かりだ。お土産も必要だしな」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

「気にしないでくれ。俺も、この世界ゲームが好きだしな。できるだけみんなには幸せになってもらいたい」


   ◇


 帰りの船、汽笛が響く中、俺はくちゃくちゃとスルメを頬張っていた。

 もちろん、ルヴィとエマもだ。


「これ、美味しいですわ」

「噛み応えがあっていいですね! デルクス様、いつのまに買ったんですか?」

「ちょっとな。にしても、うまいな」


 隣を見ると、オリヴィア、ルナ、エヴィルが魚の帽子を被っていた。


 全てのフラグをぶち壊すと決めたあの日から必死に動いていたが、たまにはこうやってのんびりするのも悪くない。

 まあ、夜中はずっと狩りしていたが。


 大量にもらったスルメは、帰りの船で半分以上消えた。

 カリルと会うこともないだろう。弟が無事だといいが、安否を確認するほどの仲ではない。


 とはいえもし俺が運命を変えられていたのとしたら、それはいい事だ。


 やっぱり俺は、この世界が好きなんだなと実感したいい課外授業だった。


 

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