第15話

「何人かの冒険者にも、お願いはしているんですけどね。もう五年ぐらい見つかっていないんですよ」


「そんなに長い間ですか……。でも、私に見つけられるかどうかはわかりませんが」


 冒険者でも見つけられなかったのに、端っこでうろちょろしているのが精いっぱいの私に、どうにかできるものなのだろうか。

 するとギルド職員が微笑む。


「こういう探し物は、当たりやすい人ってのがいるんですよ」


「当たりやすい人?」


「当たりを引きやすい人と言った方がいいのかな。どんな玄人でも見つからない物を、その日始めたばかりの新人がひょいと見つけることがあるものですし、普通の物は見つけられないのに、珍しい物ばかり遭遇する人というのもいるんですよ」


「私は、珍しい物を見つけやすいと?」


「そう期待しているんですよ」


 私の言葉に、ギルド職員が側の書棚から紙を探し出しながら応じる。


「急いではいないので、他の仕事のついでに気に留めていてくれればいいんですよ。これがその植物の詳細図です」


 渡された紙には、ラッパ咲きの花が星のように無数についた植物の絵があった。

 その葉と根が必要らしい。


 絵の横には説明書きもあった。

 それによると、これは光っている植物の一つだという。

 花の色は青で、中心へ行くにしたがって白くなる。茎や葉は薄い緑と書かれていた。


「以前見つけた人によると、発見したのは白の領域の中でも、それほど深い場所ではなかったんだ。だから君――リーザさんが入る場所あたりでも、見つかるかもしれない。まぁでも、見つかったらでいいからね」


 私が気負い過ぎないようにと思ったのだろう。

 ギルド職員はそう言って話を終わらせた。


 私がお礼を言って立ち去ろうとしたところで、横で話を聞いていた肩幅の広いおじいさん職員が、ひょろっとした職員に話しかけるのが聞こえた。


「おい、ほいほいと子供に白の領域の仕事を依頼して……」


 あ、これは注意されてるんだ。


「でも見つからないと、いずれ困る物ですよ。誰かが見つけてくれないと」


「そうだがなぁ」


「今回も、ちゃんと依頼を達成してますし、落ち着いた様子でしたから、無謀なこともしないでしょう。報酬を別に出す話をした時だって、浮足立って喜んでいたわけではありませんでしたし」


「……何を見つけたんだ、あの子は?」


「これですよ。ちょっとセレーヌ草に似てますよね。だから調べてみた方がいいかと思って、買い取りました」


「ちょっ……」


 このあたりで私はギルドの建物を出てしまったので、二人の会話が聞こえなくなってしまう。

 本当は気になったけど、さすがにがらんとしたギルドの中で、聞き耳を立てるのもどうかと思ったし。


「うん、疲れた……」


 早く宿に戻って休みたい。

 そうだ、宿泊の延長を頼まなくちゃ。


 宿に戻ると、ちょうどカウンターの近くに宿の主人がいた。


「あらお帰りなさいリーザさん」


 六十歳になる白髪の小柄なおばあさん、アルダさんは今日も元気に掃除に励んでいたようだ。

 アルダさんは私のことを子供扱いするでもなく、さん付けで読んでくれる。

 子供だからと警戒されたり、妙に何も知らない子のように扱われるのは困ると思っていた私は、アルダさんの対応がとても嬉しい。


「ただいま帰りましたアルダさん。あの宿の宿泊を一か月延長しても大丈夫でしょうか?」


 採取ができることはわかった。

 今度は、採取の依頼を受けて生活していけるかどうかを確認したい。


 ギルドに毎日のように新しい依頼が出てるとは限らないし、季節的なものがあるのかどうかも、一か月続けながらあちこちで聞いたりしていけば、判断できるようになるんじゃないかと思っているのだ。


 三日毎とか、四日毎ぐらいで依頼を受けて暮らしていけるとわかったら、今度はきちんと部屋を借りれるようにするつもりだ。

 やっぱり宿に泊まり続けるより、部屋を借りて自炊した方が安く済むから。


 アルダさんはにこにことしてうなずいた。


「大丈夫ですよ。昔は予定が混んでいて難しい時もありましたけどね。今はこの周囲も落ち着いていますからね」


「宿が混んでしまうような行事が、この町にあったんですか?」


 遠くから沢山の人が来るのでなければ、宿が混むことはない。

 だからお祭りのような行事があったのかと思ったが、アルダさんは首を横に振った。


「いろいろ状況が重なってしまいましてねぇ。遠くの地方で飢饉があって、あぶれた者が冒険者になった末に、ここに来ていたんですよ。植物を採りに行けば多少の儲けになるから、初心者でも……と思ったのでしょう」


 アルダさんは遠い目になる。


「ちょうど白の領域に、どこからか魔物が群れで次々にやってきていた頃だったのも悪かったんです。冒険者がやってきては亡くなって騒ぎになったり。でも魔物を倒せば一攫千金だと、今度は腕に覚えのある者が押し寄せてきて、町が冒険者であふれていましたっけ」


 思い出してため息をついたアルダさん。


「今は、白の領域にうかつに入るのは危険だし、それなりに覚悟が必要だということも広まっていますし、他の土地に魔物が出るからと、腕を磨きたい人は移動して、穏やかなものですよ」


「そんなことがあったんですね」


 アルダさんの話を聞いていて思い出す。

 故郷のロイダール王国では、飢饉があっても一攫千金を狙って白の領域に行こうという人はいなかった。

 恐ろしい場所で、すぐに死んでしまうからと。


 もしかしてガルシア皇国では、危険な場所だという認識はあっても、ロイダール王国ほど恐れられていないんだろうか。

 不思議に思ったものの、自分の出身を話すのも嫌だったので、私はそこで話を終わらせたのだった。

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