第14話
冒険者ギルドへ入ると、建物の中にはそんなに人がいなかった。
魔物が出たから、もっとたくさんの人が戻ってきてごった返しているかと思ったけど。
中にいたのは十五人くらい。
広いこともあって、ギルドの建物内がスカスカに見える。
ただ朝とは違い、依頼を終えたのだろう私と同じか、少し幼いぐらいの子供の姿があった。
朝は子供が私一人だけだったので、なんだかほっとする。
正直なところ、冒険者ギルドに初めて行った時に、子供の姿が一人も見えなかったものだから、実は子供も依頼を受けているというのは嘘なのでは……と疑いたくなっていたのだ。
私は急ぎ足で受付に行き、声をかけた。
「すみません、この依頼が達成できたか確認をお願いします」
「ああ、今朝来た子か。無事に白の領域に出入りできるのは本当みたいだね」
さっきも対応してくれたひょろっとしたギルド職員は、少しほっとした表情をしていた。
「採取したものを見せてもらえるかな?」
「これです」
私は根から採取した三つと、最後に灰色のオオカミにもらった銀の線が入った植物を差し出した。
「どれも珍しい色だから、十分……」
確認していたギルド職員は、銀の線が入った、マーガレットの花のような形の白い植物を見て言葉が止まる。
何か間違ったことをしただろうか?
私は「その辺に生えてる花を持ってくるなんて……」とため息をつかれることを覚悟して、次の言葉を待ったのだけど。
「これはすごい」
しみじみとギルド職員が言う。
「白く漂白されたような色の植物は多いけど、銀色の線が出ているのは初めて見たな。これはどこで?」
「えっと、その」
そこまで珍しいものなの?
ギルド職員として何年も勤めている人だろうから、白の領域の植物は沢山見ているだろう人が言うのだから、嘘じゃないと思う。
私は白の領域の植物には、こういうのもあるんだろうな……と思っていただけだ。
真っ白な以外にも特徴があるから、きっと珍しがってもらえるとは期待していたけど、見たことがないとまで言われるとは想像もしなかった。
(あのオオカミは、ごく珍しい物だって知っていた……?)
私が採取してきた物じゃないので、なんとも答えにくい。
「白の領域に入って……少し進んだところです」
話を聞いたギルド職員は、何かをメモしている。
あの場所を、ギルドの方でも確認するんだろうか?
「とにかく、これは依頼達成どころじゃない、それ以上だよ。依頼を達成するだけなら、他の植物で十分だ。そしてできれば、見たことがない物だからギルドの方で調査させてほしい。そこでだ」
職員さんはぱちぱちと算盤をはじいて、私に言う。
「三つの植物の方、これを依頼達成として依頼料を渡そう。こっちは二百五十ソル」
五十ソルで宿に一泊できるので、五日分を稼げた計算になる。
白の領域に出入りするのは大変だし危険だけど、ちょっと端っこで見つかる草を持って、逃げ帰って来るだけでそれが稼げるなら、かなりのものだ。
「さらにこの一本をギルドに売ってくれたら、この分で千ソルを渡そう」
「せ……!」
大きな声を出しそうになって、慌てて自分の口を押える。
あたりを見回して、冒険者ギルド内で談笑したり、掲示を見ている人たちが私の方を向いていないことを確認し、息を吸ってから言った。
「そ、そんなにいただいて大丈夫ですか?」
「この草には何らかの効用があるかもしれない。未知のものだからね。そして何か効用のある薬草や、魔法の草として使える場合、その価値は千では足りないぐらいになる。が、全く何の効用もなくても返せとは言わないよ。珍しいのは確かだからね。どうかな?」
正直、私に白の領域の植物の相場なんてわからない。
ただこの人はギルドの職員だ。
彼を信じられないなら、私はここで仕事のしようがない。
「それで大丈夫です。お願いします」
うなずくと、すぐに1,250ソルが渡された。
小袋の中に、小さな四角い1,000ソル銀貨と100ソル青銅貨、10ソル銅貨が入っている。
お金の模様は、ロイダール王国の銀貨や銅貨とは違うけど、重さはほぼ同じ。
少し重たい小袋を持つと、自分で稼いだのだという実感と、安心が心に広がる。
ここで、私は生活していけるかもしれないって、勇気が湧いたからだ。
「ありがとうございました」
私はお礼を言って、その場を立ち去ろうとした。
今日はとりあえず休んで、また明日掲示を見て次の採取の仕事を探しに来ようと考えていたからだ。
なにせ緊張して疲れてしまっていたので。
「あ、ちょっと待って」
呼び止められた。
「良ければ依頼をしたいのだけど」
「え、私にですか?」
自分を指さして聞き返すと、ギルド職員は今までになく優しい笑みを浮かべてうなずいた。
小さい子供に対するものじゃないとわかって、私は背筋が伸びる感覚になる。
ギルド職員は、商売の相手に向けるような顔をしていたのだ。
実家に商品を売り込みに来た人なんかを見かけたけど、それに対応する従業員が今のギルド職員みたいな表情をしていたからわかる。
「実は、探してほしい植物があるんです」
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