第19話
準備をして、宿を出る。
今日はどこにも寄らずに町の外へ。そのまま白の領域に向かおうとした。
だけど私より先に町を出て、白の領域へ続く道を歩いていく人たちがいる。
「なんとなく、こう、出入りするところを見られるのが嫌だな」
ある程度大きいとはいえ、子供が一人で白の領域へ行くとなれば、注意をしてこようとしたり、来るなと怒られてしまいそうで。
怒られたところで、彼らが私の生活の面倒を見てくれるわけでもないので、従う必要はないのだけど、いざこざは少ない方がいい。
私は遠くに彼らが見えるか見えないかぐらいの距離を開けて進み、白の領域に冒険者グループたちが消えて行ったあと、ややしばらく時間を空けてから中に入った。
白い霧の壁を越えたら、一瞬で視界がやや悪い真っ白な世界が広がっているので、夢の中に迷い込んだような、おかしな感覚になる。
「とにかくクローバーを探そう」
沢山クローバーがあるところになら、一つぐらいは白いクローバーがあるかもしれない。
ただ、五年も見つからないなら、ぱっと私が思いつくぐらいの場所にはないだろう。
「どこがいいかな。草むらはかえって無いことがあるし。石畳の道の端とか、よく生えているのを見るんだけど」
生命力が強い植物だから、石畳の間から生えて広がることもあるのがクローバーだ。
だけどそんな生え方をしていたら、さすがに誰かが見つけているはず。
かといって、誰も来ないだろう白の領域の奥には行きたくないので、草丈の短い地点を探して、そこを中心に見ていくことにする。
しばらく探すと、丈の短い草が生えている場所があった。
だけどそのあたりは土が黒ずんでいて、白い霧の世界の中でちょっと異様な感じがする。
「他の場所にしよう」
また時間をかけて、木立の中を進む。
やっぱり端の方にはなかなか無いみたいだ。
仕方なく、白の領域を通る石畳の道まで進み、その近くで探した。
ようやくそれらしい場所を見つける。
土が固いのか、白っぽい地面に短いほわほわとした雑草が生えている場所があった。
木も生えにくいのか、開けている。
魔物が出ても、これならkわかりやすいかもしれない。
「よし、探そう。クローバー、クローバー……」
探していくと、クローバーそのものはあった。緑色に白い線が入った普通のクローバーだったけど。
でも普通の物があるなら、白いクローバーがある確率は高くなる。
地面を這うように探していると。
ク……ク……。
どこからか、声みたいな音がした。
顔を上げてあたりを見回す。
……誰もいないみたいだけど、魔物かもしれない。
用心しつつも、つい足元に目が行く。
もうちょっとで見つかるかもしれない。
諦められない気持ちを断ち切ろうと、うんうん唸っていたら。
ガサッ。
今度ははっきりとした物音だった。
慌てて私は逃げようとする。
でもどこから来るんだろう?
見回しても姿が発見できない。
とにかく石畳の道へ戻ろうとしたところで、前方から高く飛び上がる影を見つけた。
「ひいっ」
一体何!? 逃げるのも間に合わない!
と思ったら、目の前に動物が着地した。
いや、動物じゃないかもしれない。
普通よりもやたら大きいウサギだったから。
それでも、後ろ足で立ち上がったウサギの背丈は、私の腰を越えるぐらいの大きさだ。
そのウサギは私を見て目を細めると、すっと何かを前足で差し出す。
緑色のクローバー。
どうやらこのウサギは、私を攻撃しない魔物みたいだ。
そしてクローバーを探しているのを知って、私にくれようとしているみたい?
つぶやいていたのを聞いていたのかな。
「ありがとう」
とりあえず好意は受け取っておこう。
魔物からもらったクローバーとして、記念にこれも押し花のようにしてとっておいてもいいかもしれない。
しかし、渡した後もウサギは動かない。
「ええと。私はまだ探さなくちゃいけない物があるけど、あなたは他に用があるの?」
尋ねると、くいっと首を横にかしげて、四つ足スタイルでそのあたりをふんふんと嗅ぎまわり始めた。
このウサギも何かを探しているんだろうか?
「まさか、またクローバーを探そうとしてる?」
私が探しているから?
そんなことを考えていると、ウサギがすぐに何かを持って寄って来た。
緑色のクローバーだ。
……たぶん、予想通りなんだろう。
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