第20話

 どうしてこのウサギは、私の手伝いをしようと思ったのか。

 まったくわからないので、試しに聞いてみることにした。


「もしかして、白いクローバーがある場所を知ってる?」


 こうして繰り返している間に、またクローバー以外の白い植物を持ってこられたら、それもお蔵入りになってしまう。

 それぐらいなら、探し物を手伝ってもらった方がいい。

 なんて考えて、ウサギに尋ねてしまったのだけど。


 ウサギはうなずき、ぴょんぴょんと移動し始めた。

 どこかへ行くのかと思ったら、ある程度進んだところで私を待つように後ろを振り返ってじっとする。


「ついてきてほしいのかな?」


 つぶやいたら、ウサギの耳がぴくぴくした。


 反応から考えると、ウサギは白いクローバーがある場所まで案内してくれるのではないだろうか。


「案内されるのは初めてかも」


 とりあえずついて行ってみる。

 すると、そこから少し白の領域の奥地側へ行った場所に、すり鉢状にへこんだ場所があった。

 白い植物が、白い霧でけむる中でもあるのがわかる。

 ドキドキしながら見に行くと――。


「あった」


 白いクローバーだ。


「こんなに沢山……」


 そこには沢山の白いクローバーがあった。

 花どころか葉や茎まで真っ白なので、白い草の絨毯のようになっている。

 群生地なのかもしれない。


「何本回収したらいいんだっけ」


 紙を取り出して確認してみると、三本あると最も良いらしい。でも長らく見つかっていない物なので、一本でも十分だということだ。


「ちょっとだけ薬に混ぜれば、それで十分に使える物になるのかも。だから一本でいいんじゃないかな」


 私は考えた末、一本だけを摘むことにした。

 沢山持って現れたら、さすがに異常すぎてカイムさんに警戒されそうだものね。

 摘んだ物を大事にハンカチに包んで、鞄に仕舞う。


「ありがとうウサギさん。ところで帰り道を教えてもらってもいい?」


 ある程度は、どちらに進めば白の領域の外に出られるか考えながら進んでいたけれど、なにせ見通しが悪い場所だ。

 数十メートル先に何があるか見えないので、自分がどこにいるのかわかりにくいので、私の感覚はあてずっぽうに近い。

 ウサギが外へ案内してくれなかったらどうしよう、と一抹の不安を感じたものの、


「プププ」


 と泡がぷくぷくとするような声を出し、ウサギは私がついてきているのを確認しつつ、どこかへ移動し始める。

 案内してくれるみたい?


 素直についていくと、すぐに石畳の道に出た。

 ほっとする。

 ここからなら、白の領域から出る方向がわかるから。


「案内してくれてありがとう。クローバーのことも」


 お礼を言ったものの、どうお返しをしたらいいものか。たぶん魔物だと思われるこのウサギに、人参なんかを持ってきても喜んでくれるかどうか不明だ。


「何かお礼をしたいのだけど、私が持ってこられそうな物で何かある?」


 聞いてみると、ウサギはきょとんとした表情をした。

 それからふくふくとしたお腹を前足でさすって、右前足を横に振る。


「お腹いっぱいだから、いらない?」


 推測して言うと、またうーんとウサギは考え、ふっとその場にあった石を両前足でつつむように持つ。

 それを私の横に立って前に差し出し、さっとその対面に体を移動して受け取るようなしぐさをして、石を持ったまま私にお辞儀してみせた。

 プレゼントをもらって、ありがとう、と言うかのように。


「私が気づかないうちに何かをあげてて、だからいらないってこと?」


 ウサギはこんどこそうなずいた。


「何かあげたことあったっけ……?」


 まったく心当たりがない。

 でも本人がほしくないというのに、何かをあげても邪魔になるかもしれないし。


「何かほしくなったら、教えてね」


 そう言うと、ウサギはうれしそうに目を細めたのだけど……。


「ププププププ!」


 急にせわしなく鳴き始め、私を押してどこかへ進ませようとした。


「え、え? 一体どうしたの?」


 戸惑っていると、ウサギが私を抱えてぴょんと飛んだ。


「ひぃっ!?」


 悲鳴も上げられないうちに、着地。思ったよりもふわりと着地したのは、魔物ならではの力のせいだろうか。

 でも二度、三度と上下に振り回されて、何が何だかわからなくなる。


「ちょっ、何がっ、ひぃぃぃ!」


 叫んでいたら、次の着地でふわりと地面に下された。

 くらくらしながら、状況確認するべく周囲を見回して、私は息をのむ。


 真っ黒のカラスの姿をした魔物が、ウサギめがけて舞い降りてきた。

 ウサギの二倍は大きい。

 黒い影のようなカラスは、死の使者のように不気味な青黒い炎をまとっている。


 ウサギは黒いカラスの攻撃を飛び上がって避けつつ、地面にたたきつけるように後ろ足で蹴りつけた。

 がりっと地面をえぐりながらも、カラスはそのまま舞い上がっていく。

 そんなカラスの目が、私の方へ向いた気がした。


 ――私を狙ってる。

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