ぶっ殺したいクラスメイトのギャルが義妹になった。

紫電改

第1話ぶっ殺したいギャルが義妹になるとか。

 四月―――。


 神風が吹いた。

 四月も下旬になり、春風も落ち着きを取り戻した頃、僕、日野優斗ひの ゆうとはこの春から通っている高校へ登校中だったが目の前の光景に目を奪われる。


 駅の改札口へと向かう階段を、僕より先に登っていた女子高生のスカートがふわりと風に捲られ、その下に履いていた下着が見えてしまったのだ。

 それは春の青空のように鮮やかなブルーのパンティ。

 思わず立ち止まり、じっくりと見つめてしまう。




(綺麗なお尻だ……良いものを見た。良いことあるかな?)


 僕はその後ろ姿を見ながらそんな事を考えつつ、視線を上げると階段の上から彼女を見ていた男と目が合った。

 僕は慌てて顔を背けたが……。


「おい瑠樺、アイツ今お前のパンツ見てたぞ」

「え? それマ? 何コイツきも……」


 彼女は自分のスカートの下を見た後、僕を見てそう言った。

 そしてその言葉を聞いた男が僕の方を見る。

 なんだよこの展開……なんでこんな事に。

 これではまるで僕が痴漢をしたみたいじゃないか! 冤罪だ!! しかしこの状況でそれを言っても無駄だろうし、そもそも風が吹かなくても見えてしまいそうな程短いスカートを穿いていて、パンツ見えたら怒るとか理不尽極まりない。


「おい、お前ちょっと来いよ」


 男の方が階段から降りてきて僕の腕を掴む。

 僕はこの二人を知っている。

 女の子の方は北嶋瑠樺きたじまるか


 プラチナブロンドのショートボブに似合う少し切れ長の瞳はカラーコンタクトで日本人離れした瞳になっている。耳にはピアスが幾つも着いていて、見たまんまギャルというやつだ。


 身長は少し低いが、すらっとしたモデル体型の割りに胸は大きく、制服の上から見てもその膨らみがよく分かる。

 その容姿は男子生徒からは絶大な人気があるが、近寄り難い雰囲気を彼女はいつも発している。


 男の方は坂東アキラ。

 こちらは高身長で体格もよく、明るいブラウンの短髪にアクリル製の太いリングピアスが良く目立つ。


 運動部には入っていないらしいが、格闘技をやっているとか聞いた事がある。

 コイツがいつも北嶋瑠樺の隣りにいる所為で、余計に近寄り難くなっているとも言える。


 要するにこの二人は学校でも目立つグループの二人で、不幸にも同じ教室のクラスメイトである。そんな二人が何故一緒にいるのかと言えば、付き合っているらしい。


 そんな噂よりも怖いのは、恐喝や傷害、窃盗に美人局をしている噂すら聞いた。


 坂東が半グレのグループに所属している等、黒い噂は絶えない。

 ごく普通の高校生である僕とは全く関わることの無い人種だった。


 そんな二人に駅の多目的トイレに連れ込まれた。


「パンツ見たの?」


 北嶋さんが僕を見つめてくる。

 その顔は無感情の人形みたいだが、カラコンの瞳が心さえ覗いているみたいで怖い。


「見て……ないです」


 そう言うと、北嶋さんはニコッと微笑んで、


「何色だった?」

「青色でした。 あっ……!」

「見てんじゃん。 ―――変態」


 つい北嶋さんに見蕩れてしまって口を滑らしてしまった!


 さっきの笑顔はまるで無かったかのように、ゴミを見るような目で僕を見ていた。


「あのっ! ……だから、見たんじゃなくてッ!」


 僕は必死に弁明するが聞く耳を持ってくれない。

 そりゃそうだよね……。

 そもそもあんな短いスカート穿いてる方が悪いんじゃ……。


 なんて言えるはずもなく、ひたすら謝罪を続けるしかなかった。

 すると北嶋さんの背後から声がかかる。

 それは坂東だった。


「とりあえず土下座じゃね?」


 なんでだよ! とは思ったものの、これ以上騒ぐと余計に面倒臭い事になると思い黙っていた。

 僕は渋々床の上に正座をする。

 それに合わせて北嶋さんも僕の前にしゃがみ込んだ。またしてもパンツが見えた。

 そして僕の顎を指先で持ち上げて上目遣いで睨むと。


「キモい……」


 その様子を坂東がスマホで撮影していた。

 マジかこいつ……。


 なんなんだ一体……。

 しばらく撮影会が続き、ようやく解放される頃には僕のメンタルはかなりすり減っていた。



 ◇



 最悪なのは、その後だった。

 北嶋さんと坂東より遅れて教室に入るとクラスの皆が僕を見て笑う。


 キモオタ。痴漢野郎。変態ブタ野郎。等、好き勝手言われ、挙げ句には机にまで落書きされていた。

 昨日まで普通に接していた友人達からも冷たい視線を向けられ、肩身の狭い思いをして過ごした。


「キモオタ」それが僕に付けられたあだ名だ。僕はオタクではないのだけど、痴漢や変態よりはマシだと思った。


 クラスメイトの僕への扱いはかなり酷くなり、トイレに行けばオナニーしに行ったと言われたり、教室で脱がされてオナニーをしろとか言われたりとイジメに近い状態だった。いや、完全にイジメである。


 それも全てあのクソギャル……北嶋瑠樺のせいだ。まだ高一の春だというのに、僕の高校生活はお先真っ暗だ。


 そんな死にたくなるような学校生活をおくっているとは知らずに父親が突然再婚すると言い出し、相手の女性とその娘が家に来た。


「北嶋涼子です。それと娘の瑠樺です、ほら挨拶しなさい」


「……北嶋瑠樺です」




「え……?」


 なんだ!?なんなんだ?はぁ?北嶋瑠樺だと!世界一ぶっ殺したい女が!今!目の前に!

 いーるーーーーッ!!



 北嶋瑠樺はなんとも罰の悪そうな顔して僕の方を見ようとはしない。

 絶対、心の中で「最悪」と呟いている事だろう。

 僕自身もどうしていいか分からない。

 イジメの原因を作ったクラスメイトと家族になって、気まずいことこの上ない状況だ。


「瑠樺ちゃんと優斗が同じ高校とは驚いたなぁ! 仲良くしてやってくれ」

「はい! 任せてください!」


 北嶋瑠樺は学校でも見せた事のない満面の笑みで明るく返事をした。誰だお前?


 顔合わせの後、出前の寿司やらを頼んで食事会となった。親父は上機嫌にビールを口に運んでいた。

 再婚も決まった上、若い女の子に注いでもらった酒はさぞかし上手いのだろうよ。知らんけど。


 気に食わないのは北嶋瑠樺の態度だ。

 何が、「はい! 任せてください!」だよ!


 ソイツが僕と仲良くすると思うか?

 イジメの元凶、張本人だぜ? 何がどうなってんだよクソが! 僕は怒りを露わにしつつも笑顔で対応する。



「ちょっとトイレ行ってくるわ」



 トイレを済ませると、廊下に北嶋瑠樺が立っていた。どうやら待っていたみたいだ。カツアゲですか?


「なんだ? ウンコか? トイレ汚すなよこのクソビッチが!」


「……あんたがウチの事嫌いなの知ってるよ。でもママには幸せになって欲しいから……だからさ……学校での事は秘密にしてくんない? あと学校ではウチらの事も言って欲しくないっていうか……」


 北嶋瑠樺が目を逸らしながらボソリと言う。

 おいおい、こいつは何を言っているのだ? この期に及んで被害者面ですかぁ〜? お前が俺にしてきた事をバラしただけで、親父も母親も再婚は破談になるだろう。


 その上、学校では僕と家族になった事を知られたくないと。

 学校でも目立つカースト上位のギャルの地位を守りたいらしいがため、黙っていろと?この僕に? そんな要求が通ると思ってんのか? 僕がコイツの立場だったら絶対に嫌だし、そんなお願い聞き入れるわけがない。

 あぁ……イラつく。


「そんな条件はのめ……」

「なんでも言うこと聞くからさ……だから、お願いします」


 僕の言葉を遮るように彼女が言葉を重ねた。その小さな唇から出た言葉は予想を超えていて、思わず口をつぐむ。

 彼女は僕の腕を掴むと、じっと見つめてきた。

 その瞳は憎たらしくも綺麗で吸い込まれそうになる。


「何でも……?」


 ナンデモイウコトヲキク。

 何だその最強のワードは?SSR確定か?


 僕は彼女の瞳を見ながら確認するように聞いた。

 すると彼女はこくりと小さくうなずき、緊張しているのか少し震えている。



「約束……してくれる?」

「うん……絶対誰にも言わないで……おく」


 僕はその瞬間、今までの人生で感じた事のない高揚感に包まれた。

 今、北嶋瑠樺は「何でも言うことをきく」と言った。


「もし約束を破ったらどうなるの?」

「殺す」


 即答だった。

 その目は冷たく、人を殺すのに躊躇などないと語る目だった。

 怖!怖いよこの子! まじサイコパスかよ! しかし逆に考えればこれは良い機会だ。

 北嶋瑠樺に復讐する機会を与えてもらったのだ。このチャンスを逃がす手はない。


 神はいる、そう思った。

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