第17話 為になるイジメとか。

 藤咲エマの提案の翌朝、爽やかな朝であってもやはり学校に行くのは憂鬱になるものだ。

 せめてもの救いは坂東が停学で居ないことくらいである。


 校舎に入り、下駄箱を開けると上履きが無くなり、代わりに見たことないサンダルにすり替わっていた。


 何やら視線を感じて、振り返ると藤咲と瑠樺がニヤニヤしながら僕を見ていた。


「これを履けってことか……」


 イジメその1、健康サンダルをはかされる。


 仕方なく健康サンダルに履き替えると、思ってた以上に痛い。

 痛くて歩き方も変になる上、可愛いキャラクターのプリントがされたデザインで悪目立ちして最悪だった。


 こんなの履いて教室に戻る僕をクラスメイトはどう見るのか……考えるだけで憂鬱だ。


 校舎に入ると何やら廊下が騒がしい。

 どうやら他のクラスの連中も登校してきたようだが、みんな何故か僕の方をチラチラ見ている。

 僕に気付くとみんな察したようにすぐに目線を外した。

 変な空気の中、教室に入ると僕の机を勝手に移動している瑠樺と藤咲が居た。


「な、何してるんですか……?」


「キモオタくんの席、今日からウチと瑠樺の隣りな」

「ゆ、キモオタ今日から奴隷……」


 場所は教室の窓際の一番後ろ。

 坂東らがいつも陣取っている位置に僕の席は動かされ、左に瑠樺、右に藤咲の布陣の完成だった。

 キモオタと罵られながらも席に座らせられると、二人はすぐに僕に絡んできた。

 瑠樺が僕の耳を引っ張ると ヒソヒソと耳打ちをする。


「ちゃんと真面目にノートとってないか見てるから」


「キモオタくん、ウチの代わりに授業聞いとけよ〜」


 イジメその2、真面目に授業を受けさせらる。


 これは地味に苦痛だ。

 手を休めると、瑠樺が僕の太腿を抓る。

 漢字を間違えると指摘され、瑠樺が僕のノートに正しい漢字を書いていく。

 強制的にガリ勉にさせられるイジメだ。

 成績が……上がってしまうじゃないか!


 藤咲は堂々とファッション雑誌を見ているし、瑠樺はスマホで料理のレシピとか見てやがる始末。周りの連中も僕らの様子を見ながらクスクス笑っているが、男子生徒は何故か面白くなさそうに見ていた。


 昼休みになると藤咲が、


「キモオタくん、焼きそばパン買って来て」

「私、イチゴ牛乳」


 そう言って僕に二人分の昼食を買ってくるよう命令する。


 イジメその3.パシリにさせられる。


 恐喝に屈した僕は二人のパシリだ。

 だが、みんなその光景を面白そうに見ているだけで、誰も助けてはくれない。


 が、藤咲の狙いどおり、僕は他の誰からもイジメを受けていない。

 買い出しに行かされる代金は事前に瑠樺から受け取っているため、懐は心配ない。


 僕は慣れない健康サンダルで売店に向かった。瑠樺と藤咲に頼まれた物を購入して教室に戻って来ると、僕の席は瑠樺たちと同じグループにされていた。


 一緒に食べろという事らしい。

 机の上には僕の弁当と瑠樺の弁当が蓋を開けて並んでいる。どっちも瑠樺の手作りだが、全く同じだと不自然な為、中身が少し違う。


「キモオタおせーよ」

「すみません、混んでて……」

「キモオタのクセに言い訳すんな。 罰としてお前の嫌いなブロッコリー食べさせてやる」


 そう言って瑠樺は僕にブロッコリーを食べさせようとする。


「ほら口開けろ」

「えっ……?」


 僕が驚くと藤咲もさすがに瑠樺の行動に驚いたのか、目を丸くしていた。

 だってこれはただのあ〜んである。

 イジメというよりただのご褒美だ。

 あ〜んしてもらうのは生まれて初めてだ。

 しばらく瑠樺と見つめ合っていた僕だったが、周りの目が集まり始めている事に気付くと恥ずかしさであたふたした。


 結局、何の抵抗もなく口を大きく開けてしまっていた。

 そこに容赦なく箸が突っ込まれる。

 ブロッコリーを口に入れられ、箸が僕の唇に触れながら離れていく。


「よく噛みなさいよ?」

「は、はい……」

「おいし?」

「うん……意外と美味しいです」

「そっか、食べず嫌い克服じゃん♡」


 瑠樺はしてやったりと微笑むとその箸で弁当を食べ始める。

 その様子を見て藤咲が僕を羨ましそうに見ていた。


「キモオタくん、そのウインナー頂戴!」

「あ、はいどうぞ」


 ただ弁当が食べたかっただけみたいだ。

 僕は弁当箱を藤咲の方に差し出すと、


「違う違う〜、食べさせろよ〜♡」

「はい?!」

「だからキモオタくんのウインナーをウチのお口に突っ込めっての♡」

「エマ言い方がエロいから」


 瑠樺が呆れた顔で突っ込みを入れるが構わず、身を乗り出して口を開ける。


 前かがみになるとブラウスの隙間から凶悪な胸の谷間が視界に飛び込んでくる。


 そうそれはGカップの肉塊。けしからん!実にけしからん!! なんて煩悩まみれな事を考えてしまったが、

 僕は箸を持ち直してウインナーを摘んだ。

 そして僕のウインナーの先端が彼女の唇に触れる。


 ヌルッとした感触がウインナーと箸を通じて伝わってくる。

 そのまま一気に藤咲の口の中へとウインナーを押し込んだ。


「んっ……♡」


 口を閉じた彼女の口から箸を抜く。

 すると僕の箸に藤咲の舌の感触と唾液が糸を引いて絡み付いた。


 ウットリとした瞳、息遣い、恍惚とした表情。

 無駄に艶めかしい雰囲気をつくり出す藤咲。

 その破壊力を間近で見て僕は思わず目を逸らした。

 それを見た周りの男子が嫉妬で僕を睨みつけてくる。

 何故か瑠樺もムッとした顔をしていた。



 その後の授業も藤咲のせいで集中出来なかった。授業中に居眠りするのは勝手だが、僕に寄りかかって眠りだした。


 喋らなければ美人と評判の藤咲の頭が僕の肩に乗っている状況で授業なんて集中出来ない。


 藤咲から漂う柑橘系の爽やかな香りが僕の鼻腔を刺激して余計にクラクラしてしまう。

 瑠樺は瑠樺でイヤホン付けてスマホで動画観始めているし。

 ただただ時間が過ぎるのを待った。


 そんなある意味拷問のような時間が終わり、今日の授業が全て終わると生徒たちが一斉に帰り支度を始める。


「帰りにカラオケ寄ってくっしょ?」


 ようやく起き出した藤咲が欠伸をしながら伸びをすると、余計に豊満な胸が強調されて、ブラウスの釦が弾けてしまいそうだ。


「僕はトイレ掃除あるから……また明日」



 既に日課となっている男子トイレの清掃は、他の誰にも譲れない僕のルーティンの様になっている。


「ちょいちょいちょいッ! ダメだよキモオタくん〜、 強制参加だし」

「いや、学校終わったんだから自由じゃないの?」

「何言ってんの? 家に帰るまでが奴隷じゃね?」

「遠足みたいに言うな」

「だから早く終わらせて一緒に行こうぜ」


 僕が困った顔をして、瑠樺に助け舟を求めるが……。


「待ってるから早くして」


 とか言って素っ気ないが、行く気満々のご様子だ。

 完全にこのイベントに参加させる気だ。

 ここで僕が走って逃げても、健康サンダルのせいで上手く走れないし、藤咲からは逃げられない。

「わかったよ……行くから」


 こうして僕は男子トイレの清掃に向かった。

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