第18話 トイレの個室でキスをするのはイジメですか?
「ていうかアンタが掃除する事なくない?」
トイレの床をデッキブラシで洗剤を泡立て、ガシュガシュと音を立てながら擦っていると、男子トイレに瑠樺が入ってくる。
「うーん……僕がしないと誰かがやらされるだけだし。 それに適当な掃除されたりしたら、僕のせいにされそうだからかな。 あと結構、慣れてくると楽しいよ」
「家では掃除はしないのに?」
瑠樺が不満気な顔して僕に聞いた。
確かに瑠樺のおかげで家ではろくに掃除もしないし、家の中の片付けすらサボっていた。
家の事は全て瑠樺がやっている。
掃除だけでなく、洗濯に料理。お金の管理まで任せっぱなしだ。
「お風呂掃除はしてるだろ……」
「本当にお風呂だけね、あっ! 」
突然、瑠樺が僕をトイレの個室に引きずり込んだ。
狭い個室に二人で入り、瑠樺と顔が急接近する。
僕と瑠樺の前髪が絡み合った
扉の向こうから男子達の声が聞こえてきたので、咄嗟に隠れたのだと悟った。
足音が近付き、男子生徒達が入ってきた気配がする。
僕と瑠樺は目でやり取りして押し黙った。
息を潜め、狭い個室に瑠樺と向き合っていた。何故か瑠樺の両手は僕の肩に乗ったままで、顔も凄く近い。
扉一枚先に男子生徒が恐らく二人、用を足している。そのどちらかまでは分からないが一人が会話を始めた。
「さっきさ二組の教室にさー、藤咲エマ居たじゃん?」
「あー……居たな。 相変わらず胸デケーのな」
「そうそう! だって机に乗っかってたもんな胸が! 俺あの机に嫉妬したよ」
「俺は椅子になりたくなったよ」
「今夜のオカズ確定かなー……」
「だなー……でも俺は北嶋派かな」
「ドS感あるよな」
それを聞いた瞬間、僕の体温が急激に上がる。
肩に乗せた瑠樺の指先の爪が強く肩に食い込む。あ、コレ怒ってますよ。と、彼らに言ってやりたいが、今はただ黙っていることしか出来ない。
「あぁ〜ッ、ヤリてぇなァ!」
「ムリムリ、だって坂東と付き合ってんだろ? どうせヤリまくってんじゃね?」
彼らの会話はどんどんとエスカレートしていき、個室の中にいる僕たちの事など気にも留めない下品な会話が響く。
僕は何故か勝手に身体が動き、そんな下品な会話を聞かせたくないとでも思ったのか、両手で瑠樺の耳を塞いだ。
一瞬、瑠樺は声を挙げそうになったが、
キュッと唇を閉じ、僕を見つめた。しばらくしてようやく彼らの話し声が止み、男子生徒たちの足音がトイレから出て行く。
「ごめん、つい……聞きたくないかと思って」
そう言って瑠樺の耳から手を離した。
「別に気にしないのに……でも……ありがと」
瑠樺はそう言うと、肩に乗せていた両手を僕の首に巻き付かせて僕の唇を唇で押した。
柔らかく温かいその感触を僕の唇は確実に感じている。
それはほんの一瞬の出来事だったかもしれない。
唇を離しても顔は至近距離のまま、瑠樺が嬉しそうに言った。
「学校のトイレでなんて、イケナイ事してる感パないね」
確かに、青春モノのエロゲでありそうなシチュエーションだ。そして、瑠樺のその笑顔は反則級に可愛い。
僕はその笑顔を直視出来ずに思わず目を逸らした。
すると僕の耳に瑠樺の吐息がかかる。
その生暖かい息は耳の穴へと侵入して、耳の中がくすぐったくてゾクッとした。
後ずさる僕は瑠樺に押されて便座に座ると、瑠樺がその上に跨り、ギシッと音を立てた。
「瑠樺……マズイって……」
瑠樺の呼吸が荒くなり、吐息が熱っぽい。
トイレに誰かが来るかも知れないと言う緊張と、学校でこんな大胆な行動をする瑠樺への驚きで僕まで頭が混乱してきた。
「学校じゃアンタ、私の奴隷なんでしょ? だったら私に逆らっちゃダーメ♡」
瑠樺の手が僕の制服のボタンを外し、僕の胸板に指先を這わせる。
「うぅッ!」
「感じちゃってんの? キモ♡」
「いや、く……くすぐったいだけだから……」
僕の胸板を指先でクルクルとなぞりながら瑠樺が囁く。
僕の股間もムズムズと疼き出す。
だが、こんな所ではダメだと、僕は必死に理性を保とうとするが……。
「あっ……」
瑠樺の口から艶めかしい声が漏れた。
僕のアレが瑠樺の股間を刺激してしまったのだろうか?
密着してしまっている場所は制服のズボン越しでも瑠樺のその部分の熱を感じとってしまっている。
「へ、変な声だすなって……」
「だってなんか、カタイのが当たるんだもん……」
「ソコに跨ってる自分が悪いんだろうが……」
「いや、だって――」
「おーい! キモオタくん居る?」
突然、藤咲の声が男子トイレに響く。
いくら放課後とはいえ、平気で男子トイレに入って来る藤咲は相変わらず自由だ。
「は、はーい! なに?!」
黙ってやり過ごすわけにもいかず、僕は慌てて返事をした。
「あっ、ごめ〜ん。 ウンコ中だった?」
「え、えぇまぁ……」
藤咲のあの容姿から、ウンコという単語が飛び出して来る時点で、残念な気にさせられる。
「で、何か用かな?」
「瑠樺来なかった〜? 見当たんなくってさぁ……」
「電話すれば……」
と、言いかけて、それが今マズイ状況だと言うことに気付く。
瑠樺が声を発さずに口の動きで「バカ」と言ったのが分かると、瑠樺が素早くスマホをマナーモードに切り替えた。
「うーん……出ないなぁ。 とりあえず教室で待ってるわ〜」
「わ、わかった」
藤咲が男子トイレから去る足音を聞いて、僕は一気に安堵した。
瑠樺は僕の膝から降りると、僕の制服のボタンを閉めてくれた。
「結構スリルあったね、バレるかと思ったし」
「もうこんな事は止めてくれよな」
「勃ってたクセにぃ〜?」
僕の目の前に立っている瑠樺がニヤニヤしながら僕をからかう。
「なんでこんな事急にするんだよ?」
「ん〜……さっきのお礼? ご褒美的な?」
そう言うと瑠樺はそそくさと男子トイレから出て行った。
僕は昂っていたモノを鎮めてから教室に戻った。
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