第19話 カラオケでエンカウントする後輩ギャルとか。

 駅前にあるカラオケ店に瑠樺と藤咲と三人で入る。

 初めて訪れるカラオケ店は、普通のどこにでもあるチェーン店だ。


 高校生になってから、カラオケに来たのは初めての事だ。

 これが普通の高校生の放課後だ。

 瑠樺のせいで奪われた普通の高校生活が、まさかこんな形で戻ってくるとは……。

 藤咲には感謝だな……。


「藤咲、ドリンクバー行くけど何がいい?」

「キモオタくん持って来てくれんの!? 」

「え? あ、あぁ……」

「キモオタくんパシリ体質かよ〜!マジウケるんだけど!! 」


 藤咲はそう言いながら手を叩いて笑い出した。なんか……感謝の気持ちが無くなって来た気がする。


「じゃ、カルピスにコーラにジンジャエールとメロンソーダね!」

「そんなに持ってこれねーよ!」

「私ウーロン茶二つ」

「乗っかってくんな!」


 瑠樺が悪戯に笑った。俺はため息を一つ吐いて仕方なくドリンクバーへと向かう。

 藤咲は笑いながら俺に手を振った。


「運ぶの手伝うよ」


 僕が言わたれたとおりに、ドリンクを注いでいると、瑠樺が部屋を抜け出して来てくれた。見かけによらず優しい。


「ふぅ……藤咲っていつもあぁなの?」

「そうだね……どれか一つに絞れないから買い物とか最悪だよ。 あれもこれも〜ってなるからさ、親にクレカ没収されたらしいよ」


 藤咲の家はこの辺りでは一番大きな病院で、かなり裕福な家庭らしい。

 小遣いも相当な額らしいが、藤咲の金遣いの荒さで常に金欠でバイトをしているようだ。


「アイツあれでお嬢様なのか……」

「見えないよね。 らしくないから」


 瑠樺も苦笑いを浮かべた。


「あれぇ? 瑠樺センパイじゃないですかぁ?」


 一通り、ドリンクを作り終えると、聞き覚えのない声が聞こえた。

 振り返るとウチの制服とは違うブレザーの制服に太腿が露わになるほど丈の短いスカートをヒラつかせた亜麻色の髪の小柄な少女がいた。


「げ、結衣!?」


「えー酷いですよぉ! げって何なんですかぁ!? 結衣に会えて嬉しいくせにぃ〜!! 」

「嬉しくねぇよ、どっか行けよ」

「こんな所で何やってるんですかぁ?」

「カラオケに決まってんだろ!」

「えぇ?! 何ムキになってんですかぁ? 男連れ込んでマイクじゃないの握るつもりだったり?」

「ちげーよ! てめぇと一緒にすんなクソビッチ!」


 結衣と呼ばれた少女は楽しそうに瑠樺に絡んでくる。

 どうやら知り合いのようだ。

 瑠樺はかなり鬱陶しそうにしている。


 僕はドリンクを作りながら横目で二人の会話を盗み聞きしていた。

 亜麻色の髪の少女に毒を吐かれ、瑠樺はイラつきながら言葉を返していた。

 相当精神が強いように見えるが、瑠樺や藤咲に比べるとかなり華奢で小柄だ。


「ところでそっちのモブお兄さんは誰なんですかぁ?」

「は? コイツは私の……あ、いや、ただの友達だから。関係ないヤツ」


 友達なのに関係ないとはなんだと、ツッコミ入れたいところだけど、面倒なのでやめとく。


「へぇ……」


 亜麻色の髪の少女が僕を値踏みする様に見ると、



「優斗、気を付けなソイツ、ビョーキ持ってるから」

「え? 病気って?」

「あはは♡ 持ってないですよぉ! 瑠樺センパイ失礼過ぎません? 欲求不満でイラついてるんですかぁ?」


「あ、あの……瑠樺?」

「ん? 何?」


 亜麻色の髪の少女に聞こえない様に小声で話しかける。


「この人って……知り合いなの?」

「え? あ、うん。同じ中学の後輩で

 緩川結衣ゆるかわゆい、見ての通りクソビッチ」


 クソビッチって……瑠樺に言われるんだから相当なんだろうか?


「そういえば瑠樺先輩、アキラ先輩と別れたんですかぁ?」

「はァ? 別れてねぇよ!」

「え〜? そうなんですかぁ? だって最近よく先輩から連絡来るんですよぉ、脈アリかなぁって♡」

「ねーよ! なんならその脈止めてやろうか? あ?」

「ヤダ先輩怖〜♡ ヤンキーみたーい」

「アキラにまで手ぇ出したらマジ殺す」

「必死過ぎて草ぁ♡ アタシからは出しませんけど、迫られたら仕方ないですよね?」


 亜麻色の髪の少女は、瑠樺に挑発的な言葉をぶつける。

 瑠樺の目が座り始め、このままでは取っ組み合いの喧嘩が……!

 と思ったら瑠樺が僕を臀部を蹴飛ばした。


「いたァッ!?」


 なんで僕ッ!?


 僕はその場に倒れた。

 そして瑠樺は、 僕の手を引っ張りながら結衣とか言う少女に背を向けた。


「エマが待ってるからもう行くよ!」

「え? あ、あぁ……」


「アキラ先輩と上手くいったら報告しますねぇ♡」

「いらねーし!」


 僕と瑠樺は急いで藤咲の待ってる部屋へと入ると、不機嫌そうに藤咲の隣りに座る。


「どしたん喧嘩したー?」


 藤咲が瑠樺の雰囲気を察して尋ねる。

 僕は瑠樺に蹴飛ばされたお尻をさすりながら、ドリンクを人数分配る。


「いや、違くて……」

「結衣が居たのよ! あのクソビッチ……つか、放課後に一人でカラオケとかアイツヤバくね?」

「あー……結衣かぁ、相変わらず仲悪過ぎっしょウケんだけどw それよりさー、キモオタくん曲いれといたから歌いなよー、アニソンメドレー」

「なんでアニソン!?」

「キモオタくん好きなんでしょ? アニメとか」

「僕はオタクじゃないぞ!」

「部屋、エロゲーだらけじゃん」

「うっわキモオタくんエロゲーオタクかよ〜笑 今度一緒にヤろ? なんつって♡」


 藤咲が嬉しそうに笑った。

 なんだか不思議な奴だな……瑠樺に僕の恥ずかしいモノをバラされてしまったが、藤咲は気持ち悪がったりせず、自然に僕と接してくれた。


 ひょっとして……コレがオタクに優しいギャルなのか?


「キモオタくん、60点以上とらないと罰ゲームだよ」


 優しくなかった。

 藤咲にそう告げられ、僕は仕方なくアニソンを歌いながら熱唱するハメになった。

 何故こんな事になってしまったのか……。

 折角の放課後なのに、どうしてギャル2人に囲まれてアニソンを歌うハメになっているんだ……。


 因みに瑠樺曰く、「歌いたい曲を歌えないカラオケ」だそうだ。

 選曲を他人にされた上に60点以下は罰ゲーム。カラオケはいつから苦行になったのだろうか?



 瑠樺は応援ソング縛りで、藤咲は平成のヒットソング縛りになった。


「24時間テレビみたいな選曲やめろ」

「平成て地味にキッついw」


 なんて文句を言いながらも、二人とも歌が上手くて驚いた。

 結局、僕が最下位となり、罰ゲームが確定した。


「キモオタくん、結衣レベルの音痴で楽しかったし」

「いや、瑠樺に負けたのが悔しい」

「アンタは下手すぎ」


 罰ゲームは二人の荷物を家まで運ぶ事になった。

 藤咲を先に送ってから、僕と瑠樺は帰宅した。


「あ、あのさ……」

「ん? 何?」


 瑠樺が俯きながら、言い淀む。


「今日一日……イジメてごめん……なんだけど」

 なんだか元気がない。

 普段、強がっている瑠樺もこんな顔をするんだな。

 意外だったし、少し可愛いとすら思えてしまう。実際見た目は良いからな。

 今日のイジメを気に病んでいる様子なのだが……。


「あんなのイジメに入らないよ。 むしろ全然ダメ。 お前らイジメ舐めてんだろ? イジメってのはな……」


 僕が長々とイジメとは何なのか説いてやってると瑠樺が引き気味に、


「お前ドMかよ」


 なんて真顔で言いやがったので、僕は今日レベルのイジメだと、周りは僕を可哀想だと思わない事を伝えた。特に男子には羨ましいとさえ見えたはずだ。


「そっか……ちょっとエマと考えとく。 それでさ……家では立場逆転なワケじゃん? 何かして欲しい事とか……?」


 瑠樺がもじもじとしながら聞いてくる。

 なんだ?何が狙いなんだ?

 と思案すると「何でも言う事を聞く」と瑠樺と僕との間で決めた約束を思い出した。


「そっか……じゃあ、裸エプロンで」

「死ねよお前」


 瑠樺のローキックが僕の脛を直撃する。

 かなり痛かった。

 瑠樺は僕に背を向けてスタスタとリビングを出て行く。

 すると、直ぐに戻って来て、悶絶している僕を見下ろして言った。


「下着は着けててもいい?」


 やってくれるらしい。

 と、いうわけで……夕飯が楽しみで仕方ない。

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