第8話 義妹と買い物デートとか。

 電マ発見という、女の子の部屋で見つけてはいけないモノの上位ランク品を見つけてしまう罪を犯した僕は昼食後、一応外行きの服に着替えてリビングで瑠樺を待っていた。


 午後は瑠樺と買い物に行く予定だ。

 なんだか落ち着かないでいると、


 やがて瑠樺がリビングに現れた。


 スキニージーンズにダボっとした黒いパーカー。黒いマスクをした上、パーカーのフードを被っている。


「―――じゃ行くわよ」

「いやいやいや、なんだその格好? 怪し過ぎんだろ!」

「そうかな?」


 僕はツッコまずにはいられない。


「どう見たって万引きしそうで、店員が要注意人物として警戒する格好だよ!」

「えー……だってさぁ……誰かに見られるわけにもいかないし」

「あ、そうか……」


 確かに、瑠樺と僕が一緒に買い物をしている姿を目撃されたら、困るのは瑠樺の方だろう。


 家の中でなら、対等以上の関係でいられるが、外は云わば中立的な非戦闘エリアみたいな感じだ。戦ってる訳じゃないけど。


 学校では、片やカースト上位の北嶋瑠樺と、『キモオタ』と呼ばれている最下層のクラスメイトの僕であるが、家に帰れば瑠樺は僕の言う事に基本的には従い、立場逆転の様な関係だ。


 それ故の変装なのだろうけど……。


「怪し過ぎて、かえって目立つと思うぞ。 何か他に無いのか?」


「他にって言われても……あっ! ちょい待ってて!」


 ハッと何か思い付いたらしい瑠樺が、トタトタと音を立てて、階段を登っていく。

 途中、ドタッ!と音がして、「痛っ!」って聞こえた。

 そそっかしい奴で、よく階段でつまづくのを何度か目撃している。


 十分程して、降りて来ると現れたのは見知らぬ美少女だった。



「…………は?」

「は? じゃねぇよ。 何か言えよ」


 余りにも普段の瑠樺とかけ離れた姿だったので、唖然としていると、瑠樺が不満気に頰を膨らませて言う。

 どう反応していいか分からない。

 一先ずの感想として……可愛い。


 トレードマークの金髪ショートヘアに代わり、黒髪セミロングのウィッグで、顔も雰囲気が大きく違う。

 服装も、女の子らしい服装で、白いアンミラ風のブラウスは清楚さを出しつつも、胸の膨らみがそれをセクシーに魅せる。


 下は相変わらずスキニージーンズだが、スラリとした美脚ラインを際立たせていた。


 露出が少ないクセに何かを期待させてしまうそのファッションは俗に言う、童貞を殺す服だ。


 そして最強オプション装備、ショルダーバッグを肩に掛けるとバッグのベルトが両胸の間を通り、お肉で出来た渓谷へと食い込んで破壊力をマシマシにしていた。


「で、どう? これなら大丈夫じゃない?」

「そう……ですね」


 思わず敬語になる。

 だって、もはや誰ですかレベルなのだ。

 今の瑠樺と街を歩いたら、男女問わず、ほぼ100%振り向かれるだろう。


「え? 気に入らない感じ?」

「いや……可愛いと……思う」

「……ありがと」


 何だか気恥ずかしくなり、お互いに黙ってしまう。

 照れているのか、少し俯いた瑠樺がようやく口を開くと、



「じゃ、行こっか優斗くん」


 まさかの君付けに悔しいがドキドキした。



 ◇



 目的地は少し郊外のショッピングモールだった。

 と言っても、大型スーパーやドラッグストアなどがメインの一般的な場所で、瑠樺の目的地は、やはりスーパーだった。


 僕達は揃って自転車で二十分もかけて到着した。

 距離的にはもっと早く着くつもりだったのだが、瑠樺が思ってたよりというか、なんというか……遅かったのだ。


 速度をあげるのが怖いのか、ものすごい安全運転でようやく辿り着いた。

 性格の割にビビりで、少し微笑ましく見えた。


「さてと、今日は何を買うんだっけ?」

 僕は自転車から降り、鍵を掛けながら瑠樺に問いかける。


「えっと、とりあえず日用品ね。 トイレットペーパーとか、ボックスティッシュとか」

「かさばる物ばかりだな」

「うちにはやたらティッシュ使うヤツ居るからね」

「悪かったな」

「はいはい。いいから行くよ」


 モール内に入ると、流石に人は多かった。

 日曜日なので家族連れも多かったが、僕らと同じ年頃の男女も少なくはなかった。


 中にはゲームセンターもあるからだろうが、カップルもそこそこに見かける。

 そんな中でやはりかと言う程、僕達に視線が集まってくる。


 金髪ショートギャルから、清楚ビッチにキャラ変した瑠樺は憎らしい程、美少女で注目の的だった。


 大抵の人が先ず瑠樺の顔を見て驚き、そして胸の膨らみを見て、「マジか!」みたいな顔をした後、僕を見て「は?」と、驚く。


 さっきから、そんな輩をやたら発見する。

 瑠樺に釣り合っていないと思われているのだろう。

 だから僕は少し、瑠樺より離れて歩いた。


「優斗、こっち」


 そんな瑠樺が振り向いて僕の手を引っ張る。

 一瞬、ドキッとする。


 瑠樺の小さな手が自然と僕の指に絡まり、僕達は恋人繋ぎになると、周りの視線に殺意の籠もった視線が混じりだした。

 思わず僕は、手を解こうとしたが、 それを察知した瑠樺はより強くギュッと握った。


「お、おい」

「見せつけちゃおっか?」


 更に瑠樺が身を寄せて来ると、けしからん膨らみが僕の二の腕に当たる。頭に血が上って、心臓はバクバクだ。


「何緊張しちゃってんの? ウケる」

「い、いやだってその……胸が当たってるんだけど……」

「当ててるんですけど?」


 そう言うと、瑠樺は腕に当たるバストを、より僕に押し付けて来る。

 押し当てられた柔らかい感触に理性が飛びそうになる。


「瑠樺……ま、周りの目が怖いからやめてくれ……」

「えー? だって優斗いつも言ってるよね? 本当なら今頃、彼女の一人や二人居てもおかしくないってサ。 だからこーして穴埋めしてやってるんだけど……」


 そう言うや、瑠樺はニヤッと意地悪な顔をする。

 確かに言ったような気がするが、だからといって瑠樺がこんな行動に出るとは思わなかった。

 なるほど……つまり、今は恋人みたいな事をしてくれる。そういう事か……ならば遠慮なくいこう!



「さぁ! 行こうかハニー!」

「キモいし、死ねよカス」



 恋人モードは秒で終わりました。


 そんな事もあったが、大型スーパーに入ると、瑠樺の顔は真剣そのもので、商品を見定めていた。


 僕はカートを押して、瑠樺の後をついて行くだけで、口出ししようなら、罵声を浴びせられる始末である。

 なるほど、これが買い物に付き合うってやつか……。


 そして一通り買うものをカートの中に詰め込んだ後、食品売り場へ移動すると、


「今日の夕飯何食べたい?」

「ん……なんでもいいよ、寿司でも」

「は? 私に寿司を握れと?」

「すみません、瑠樺さんの作るものならなんでもいいです」

「んー、じゃあそうね……」


 そう言いながら瑠樺は、魚介類を見て回りながら、幾つかカゴに入れていく。

 材料を見ても僕にはさっぱり何を作るつもりかは分からないけど、瑠樺の料理は美味しいので、夕飯が楽しみであった。

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